まだ、切りたくない
何でも、風邪はよくなるどころか悪化したらしい。
学校で彼の姿を見る事は出来なかった。
昨日は○○の話で持ちきりだった癖に、二日目になると「あぁ、今日も来て無いんだ」程度の話しかされていなかった。
それが少しだけ嫌だった。
・・・いや、僕が嫌な想いをする必要なんてないはずなのに。
家に帰ってすぐに夕食の支度を始める。
・・・彼はちゃんと食べているだろうか。
僕とは違って、家族がちゃんと家にいるだろうけど、風邪のせいで食欲が低下しているかもしれない。
栄養のあるものはちゃんと食べているだろうか。
「・・・はぁっ」
心配しても、どうしようもないのに。
僕の頭の中は○○で埋め尽くされてしまっている。
夕食を終え、ついつい電話の前まで来てしまう。
「・・・・・・」
ゴクッと息を呑み、電話をかけようと――
プルルルルッ
「!!!」
身体がビクッと震える。
鳴り響いた電話に僕はバッと受話器を手にし「も、もしもし・・・」と声を出す。
《・・・もしもし。俺・・・○○、だけど》
「ぁ・・・」
今まさに電話をかけようとしていた○○からの電話。
「か、風邪は大丈夫なのか・・・」
《あ。心配してくれてる・・・?》
やっぱり声は嗄れているし、何処か弱々しい。
「わ、悪いか・・・」
《ぅうん・・・ゴホッ。嬉しい》
電話越しで○○が笑ったのがわかった。
カァッと顔が熱くなる。
「声が酷い。まだ熱があるんじゃないのか」
《ん・・・少しだけだ》
嘘だな。と直感的に思う。
何故わざわざ僕に電話をしてくれたのだろうか。
「・・・僕と話している暇があるなら、ゆっくり寝て風邪を治せ」
ついさっき自分から電話しようとしておきながら、変な言い草だ。
本当は電話してくれて嬉しいのに。
相変わらずな自分に、少しだけ苛立ってしまう。
《ぅん。けど・・・》
「じゃぁ、切るぞ」
耳から受話器を放そうとする。
《待って・・・セブルス》
ピタリッと、僕の手が止まった。
《まだ、切りたくない・・・》
ドキリッとするような、○○のゆっくりとはっきりとした声。
僕の身体が硬直するのを感じながら、次の言葉を待った。
《もっと・・・セブルスの声、聞かせて・・・?》
胸に溢れてくる想い。
・・・少し、自惚れても良いのだろうか。
「・・・○○・・・」
《明日は・・・きっと、元気になるから、だから・・・今だけ、甘えさせてくれないか・・・?》
そんなこと言われて、拒否するわけないのに。
○○は、ズルイ人だった。
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