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自分が金持ちの家にいる自覚はあった。


両親は異常なまでの過保護で、僕の生活は常に管理されていた。

子供をペットか何かと勘違いしているのではないだろうか。僕が外に出て“汚れる”ことを特に嫌った。


生まれた時から、屋敷の外に出た経験は両手で数えられる程度。出られたとしても護衛と言う名の監視が付くか、車内に閉じ込められるか。

まるで観賞用動物のようではないか。


そんな僕が初めて見た外の世界は、何というか・・・






「・・・意外と何の感想も抱かなかった」


「何だよお前、枯れてるなぁ」

「仕方ないだろう、アレックス。夢見るにも予備知識がほとんどなかった。テレビも見た事なかったからな」


うげぇ、マジかよ・・・と声を上げるアレックスとマルコスに僕は小さく笑った。

彼等は此処で得た初めての友達だ。今は別室にいるシーラも、優しくて可愛らしい女性だった。







「けどまさか、白子食って吐くとは思わなかったなぁ・・・」


隣で苦笑を浮かべる燈に「・・・ごめん」と項垂れる。僕が吐いた瞬間、一番被害を被ったのは隣に座っていた燈だ。もろに足にかけてしまった。

それまで和気藹々と鍋を囲んでいたのに、一瞬にして皆慌て出した。小町艦長なんて「うわぁぁあっ!?すまん、ナマエ!お前、白子食ったことなかったのか!!!」と平謝りしてきた。逆に申し訳ない。


一番冷静だったミッシェルさんに「風呂にでも入ってきたらどうだ」と言われ、僕と燈、ついでにアレックスとマルコスも風呂に行くこととなった。





「・・・まさか、魚の精巣が食べれるなんて知らなかったんだ」

「まぁ、そう詳しく言われるとちょっと気持ち悪いけどな・・・」


あ、思い出したらまた気分が・・・けど我慢。脱衣所を汚物に塗れさせてはいけない。




別にシャワールームでも良かったのに「ついでだから親睦でも深めて来い!」と小町艦長に押し込まれたのは大浴場。大浴場なんていうのも初めて知った。広い脱衣所と広い湯船・・・僕が全く知らない世界だ。

さっさと服を脱いでいたアレックスとマルコス。燈は手術後だから、身体を洗うだけだそうだ。





「ほら、ナマエもさっさと脱げよ」

「・・・人前で裸になるのも初めてだ」


「ほほぉ、恥らってんのかナマエ!」

「ぎゃははっ!!!女みてぇ!」



からかわれながらシャツに手を掛ければ、三人がじーっと見つめてくる。やめろ、本当に恥ずかしい。



シャツを脱ぐと「おー、意外に筋肉あんじゃん」と言うアレックス。やめてくれ、腹を触るな。

ズボンに手を掛けた瞬間「脱げ脱げ〜」と拍手をするのは本当に止めて欲しい。何なんだこれ、これが巷で言う虐めなのだろうか。



そしてボクサーまで脱いだ瞬間、何故かその場ば一気に静かになった。


え?と思って彼等を見れば、彼等は三人揃って口を手で押さえていた。心なしか青褪めている気がする。




「・・・でかっ」

「え、それまだ勃ってないの?じゃぁ勃ったらどうなんだよ!」

「何だよそれ、怖い。突っ込まれたら死ぬ」

「兵器じゃねぇかよ!生物兵器!!!」



何か凄い散々なことを言いながら僕の股間を凝視している。

僕は無言のままタオルで股間を隠した。












入浴中、何が楽しいのか彼等はずっと僕の股間の話をしていた。親睦を深めるどころか僕の心は彼等から大分遠のいた気がする。悪い人たちじゃないのはわかるが、話題の中心が自分の股間なのが嫌過ぎる。


むすっとしながら先に上がろうとした僕に「待てよ!そう怒るなって!生物兵器は言い過ぎた!」「じゃぁ、それ以外になんて言えば良いんだよ。股間が大男か?」「ぶふぉッ!!!股間がっ、大男っ!!!」・・・死んでくれ。



着替える時は彼等に背を向けて着替えた。今後僕が人前で堂々と服を脱ぐことはないだろう。もう二度と大浴場には行かない。





「シーラ!ナマエに気を付けろよ!股間が生物兵器だからな!」

「全力で逃げろよ!突っ込まれたら一瞬で死ぬぞ!!!」

「はぁっ!?何言ってんのよ!」


ほんと、何言ってくれちゃってるんだコイツ等。




合流したシーラに阿呆なことを言いふらすアレックスとマルコスに顔を引き攣らせ、後ろから二人を殴った。人を殴ったのはこれが初めてだが、理由が嫌過ぎる。






「いや、でも本当に凄い股間だった。ありゃ、人類最強レベルだ」

「・・・真剣な顔して何言ってるんだ燈。僕、そろそろ本気で怒るぞ」

「褒めてんだよ!」


何処がだ!と言いながら燈の頭も殴った。

あぁ、全く何でこんなに股間のことを弄られなきゃいけないんのか――








「・・・ナマエ」









「あ、アドルフ、さんっ」

ひゅっと呼吸が止まりかけた。


そこに立っていたのはしばらく前に別れたアドルフさん。僕の上司。

・・・まさか聞かれてたのか!?今の阿呆な会話、聞かれちゃってたのか!?




「ナマエ、この後の手術の話だが・・・」

あ、何だ手術の話か。

良かった。意外と聞こえなかったのかもしれない。


あの真面目で実は優しいらしいアドルフさんにあんな話聞かれちゃってたら、流石にショック過ぎるし。

アドルフさんが口にする手術の予定を、僕はほっとしながら聞いていた。




「以上だ。あと・・・」

「はい?」









「誰だって身体的特徴に多少のコンプレックスを持っているものだし、それを受け入れてくれる相手はきっといる。そう深く気にすることはない」









あ、死んだ。


アドルフさんの後ろで声を殺し、でも確実に爆笑している三人なんてこの際もうどうだって良い。



アドルフさん、何か勘違いしてるみたいですけど、僕別に今まで自分の身体にコンプレックス持ってるとかそんなんじゃなかったんです。今日初めて弄られて恥ずかしいと感じたんです。アドルフさんのお言葉で完全にコンプレックスになりましたどうしてくれるんですか。いや、別にアドルフさんも悪気があって言ったわけではないと思うし、逆に僕を気遣ってくれたのはわかる。わかるけれども・・・!!!




「はぃ・・・そう、ですね」

頭の中ではいろいろ思うところがあるものの、それをアドルフさんにぶちまけるのは可笑しな話だ。

何とか言葉を喉で押し止め、そう返事をする。


アドルフさんは「あぁ」と頷き肩をぽんぽんっと叩いてくる。元気だせってことだろう。






あぁ、三人が床に転がりながら笑っている。我慢しすぎて変な笑い声出してる。ぶひょひょって、何その笑い声。シーラの哀れむような視線が辛い。

どうして僕がこんな思いを・・・


僕が“汚れる”のを嫌がってU-NASAで手術を受けようとした両親だが、今まさに僕は俗世で汚されてる。これを知ったら両親はどう思うだろう。・・・まぁ、割とどうでも良いが。




というか、この人達は僕に恨みでもあるのだろうか。何故こうも股間の話題を出されるのか。

あれ?何か凄くイライラしてきたぞ。何故こうもイライラするんだろう。あぁ、目の前のこの人とその後ろで爆笑してる奴等のせいか。


それが分かると、そのイライラを何とか解消したくなった。

目の前には上司。そう、上司だ。でも今の僕はどうしようもなくイライラしてて・・・









「・・・じゃぁ、アドルフさんは受け入れてくれるんですか?」

「・・・は?」


「あ、やっぱり受け入れてくれないんですね。上司が部下のコンプレックス受け入れてくれないんじゃ、この先望みは薄いなぁー。あーあ、僕はもうこの苦しみを背負ったまま生きていくしかないんだぁー」



わざとらしく言えばアドルフさんは目に見えて慌て出した。

別にアドルフさんは何も悪くないのだが、後ろ三人のせいで随分溜まっていた鬱憤が爆発したんだ。申し訳ないが仕方ない。







「う・・・受け入れる。受け入れるに決まっているだろう」

「あ、言いましたね。言質取りました。じゃぁ今夜アドルフさんのところに遊びに行っちゃおうかなぁー、なぁんて・・・」


なんて冗談ですよーっていう感じに締めくくろうと思ったのだが、僕は言葉を止めた。









「こ、今夜、か・・・?」

「・・・・・・」



あれ、何でそんなに真っ赤なんですか。慌てたように視線をきょろきょろ漂わせながら「今夜、か、今夜だな」って何で繰り返し言うんですか。



「わ、わかった・・・」

わかっちゃったんですか!?


後ろ三人も口を手で押さえながらこっちを指差している。止めてっ!僕、人からかったの初めてだったんだから!






「じょ、冗談ですよアドルフさん。冗談冗談」

「・・・しかし、気にしているんだろう。大丈夫だ・・・受け入れよう」


あ、何か決意を宿した目で僕を見てくるけど、別に僕そんなに気にしてないんです。ちょっと鬱憤溜まってただけなんです。


「今夜待っている、からな」

そう言って早足でさっさと去って行ってしまったアドルフさんに、僕は何も言えなかった。










・・・え?と硬直する僕に、三人は「ぶふぉおっ!!!!!」と噴き出す。

いっそ殺せ。




「・・・アドルフ隊長の尻、たぶん今夜死ぬぞ」

「うわぁ、ナマエってえげつねぇな」

「俺、アドルフ隊長のこと尊敬するわ・・・」



にやにやとした顔をしつつ、声はアドルフさんに対する同情をたっぷり含ませて言う三人に僕は頭を抱える。





「ナマエ・・・」

「シーラ、違うんだよ僕別に――」



「出来るだけ優しくしてあげてね・・・?」


シーラさぁぁぁぁああんッ!!!!!

目の前に来てそう言ったシーラに僕は両手で顔を覆いながらしゃがみ込んだ。





「あはははっ!!!泣くなナマエ!男見せて来い!」

「男どころか大男だけどな!!!」

「ぶふっ!・・・よ、かったなぁ!受け入れて貰えて、ぶふぉふぉっ!!!」



・・・僕、そろそろ心が折れそうだ。







彼等はひとしきり僕をからかった後、本気で落ち込んでいる僕に気付くと慌てた様子で慰めてくれた。ごめん、しばらく立ち直れそうにない。








コンプレックス☆ショッキング






・・・今夜、僕はどうすれば良いのだろうか。



あとがき

エヴァちゃんは巨乳だから、男体化したら巨根だろうという安直な考え。←
部下が大好き過ぎて考えが迷走してるアドルフさんと、一番の被害者な成代り主の話でした。・・・たぶんアドルフさんの尻が死ぬ。←




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