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※1巻6th後




『え?地球人って何時から顔面が昆虫になっちゃったの?』




ふいに声が聴こえた気がした。


直後自分の身体が温かなものに包まれたような感覚。


温かい。

永遠にこの温かさに包まれていられたらどんなに幸せかと思ってしまう程。


けどオレは死んだ。友である小吉と一郎に看取られ、死んだはずだ。





「ぅ・・・うっ?」

なのにこれはどういうことだろう。



目の前にいる彼は誰だ。

困ったような笑みを浮かべ、オレの頬を撫でる彼は・・・



『おはよう。目が覚めたかい』



頬からそっと手を放した彼に呆然としつつ頷けば『そう』と微笑まれる。



此処は何処だろうか・・・

彼の背景には真っ白な天井。視線を巡らせれば何処も彼処も白の部屋で、窓はなかった。


病院のような場所だ。オレは助かったのだろうか。





『驚いたよ。人間のサンプルを見つけたと思ったら大きな昆虫がいて・・・けど、ちゃんと元に戻ったよ。うん、随分男前じゃないかぁ』

冗談交じりにそう言いながら鏡を差し出してきた彼。素直に鏡を覗き込めば、元のオレの顔があった。



彼の口ぶりからして、彼が治してくれたのだろう。

・・・けれどサンプル?俺は実験動物扱いということだろうか。


ならば此処は、病院ではなく研究所か何かか・・・





『あぁ、勘違いしないで。サンプルっていうのは死体のサンプルだから』

「・・・けど、オレは死んだはずだ」


『君は死んでからほんの少ししか経ってなかった。外傷とか破損していた内臓をどうにかして、心臓を動かせばまだ息を吹き返せたんだ。まだ生きてる可能性のある生物をサンプルにするのは、宇宙の法律で禁止されてる。僕は犯罪者になりたいわけじゃないんだ』

あ、ちなみに顔はサービス。と茶目っ気たっぷりに笑った彼に、オレはつい笑ってしまった。

宇宙の法律とか意味のわからないことを言ってはいるが、ようは彼はオレの恩人なのだろう。





「助けてくれて礼を言う。此処は一体・・・」

『僕の宇宙船だよ。君達が乗ってた宇宙船は、既に地球に帰っちゃってたみたいだしね』


「宇宙船っ!?」


そこでバッと起き上がれば『あぁっ、突然起き上がったら危ないよ』等と言う言葉が耳に聞こえる。けれど今はそれどころではない。





「宇宙船って・・・此処は・・・」

『うん。今はもう火星から離れて、僕の星に向かってる』


一瞬にして血の気が引いた。


お、オレは・・・

知らない惑星に連れて行かれてしまうのだろうか。






『何だかいろいろ心配してるみたいだけど、別に君を誘拐してるわけじゃないからね。療養させようと思ってるだけだから』

「りょ、療養?」



『うん。一応君を治療したけど、僕は別に医者じゃないからね。僕の星の専門医に見て貰うんだ。君だって、身体が中途半端になったら嫌でしょ?何の異常も無いってわかって、しばらく療養したら元の星に帰してあげる』

その言葉にほっとする。



オレがあからさまにほっとしてしまったからだろう。彼は苦笑にも似た笑みを浮かべる。

慌てて「ぁ、えっと」と弁解しようとすれば、彼は首を振って『気にしてないよ』と言った。






『誰だって、未知の惑星に行くのは怖い。僕たちだって、地球に生命体がいると知った時は怖かったさ。自分たちとどれぐらい違うのか、どんな言葉を使って、どんな生活をしてて・・・未知過ぎて、僕等の星では常に論議が繰り広げられてる』

サンプル集めはその一環なんだ。と笑い、オレにベッドへ戻るよう促す彼。


その口調や仕草のどれもこれもがオレを気遣うもので、あまり過剰に警戒心を示すのは失礼な気がした。



「けど驚いたな。宇宙人って、もっとこう・・・恐ろしい見た目をしてるイメージがあったんだが、意外に人間と同じ見た目なんだな。言葉も同じだし・・・」

『ははっ、僕の地球語ってそんなに上手いかな?』


その言葉にはっとする。彼はずっと、オレの言葉に合わせて喋っていたようだ。

じゃぁ見た目も・・・




『見た目はそんなに変えてないよ。変えてるところと言えば、肌の硬さだとか・・・後は羽と尻尾を隠してるかな。祖先の話だと、地球人は僕等の姿を見て「悪魔だ!」と言って弓を放ってきたそうだよ。恐ろしいよね』

しょんぼりしながら言う彼の元の姿を想像する。成程、人の姿に羽と尻尾か・・・確かに悪魔と視られても仕方なさそうだ。




『見た目で怯えられるってさ、こっちとしても物凄くショックなことなんだ。悲鳴を上げられた日にはもう立ち直れないね・・・僕たちだって、初めて地球人を見た時は吃驚したんだから』

そう言いながら突然オレの頬に触れる彼。頬の感触を確かめるように触れた指は少々くすぐったい。



『ほら。肌はこんなに柔らかくって、吃驚』

「アンタの本当の肌ってどれぐらい硬いんだ?」


『んー・・・まぁ、弾丸ぐらいは防げるかな。色は浅黒いよ』


「・・・見せて貰っても?」



彼はぱちぱちと目を瞬かせた後『悲鳴を上げないならね』と悪戯っぽく笑い、その直後オレの頬に触れていた指先がひんやりとした。

彼の肌が次第に浅黒くなり、俺はその顔にそっと手を伸ばす。


人の肌のような弾力はない。ひんやりとしていて、感触で言えば金属のような・・・





「凄い・・・」

『そんなにまじまじと観察されたらちょっと照れるなぁ・・・』


「あっ、すまん」

『良いよ。僕たちだって同じように地球人には常に驚いてるし、時に素晴らしいと思うことも・・・あ!例えばそう、恋人!』

「恋人?」



『不思議だ不思議だと思ってたんだ。何故人は、子をなす前にそういった長い過程を経るのだろうって。結婚しても、子をなさない番もいるだろう?知り合いから友達、友達から恋人、恋人から夫婦・・・何故そんな長い時間を有するんだろうって、僕たちには無い行動だ』

「そっちだと、どうするんだ?」


『一目で決めるんだ。直感だね。あ、この人は僕の番だって』




「・・・すっげぇ」

女ならロマンチックだと言いそうな話だ。







「で、アンタのその・・・つが、番ってのは、見つかったのか?」

『・・・・・・』


「ん?」

『あー、えーっと、まぁ、何時か見つかるよ』


何やらはぐらかすようにそっぽを向いた彼を不思議に思い「どうしたんだ?」と尋ねる。その顔には少し冷や汗を掻いている。

ぼんやりと「宇宙人って汗掻くんだ・・・」と思っているオレを、彼がちらりと見た。

目が合うと、バッと逸らされる。






『そ、そういえば、君の名前を聞いてなかったね』

「え?あぁ、そう言えばそうだな。オレはティン・・・」


『僕は、えーっと、地球人の発音だとナマエだよ。短い間だけどよろしくね』

「お、おぅ」


捲し立てる様な早口で言う彼、ナマエに若干驚きつつも頷く。明らかに番の話をし始めてから動揺している。

もしかしたら、既に見つかっているが言い辛いのかもしれない。理由はわからないが。





「別にオレはナマエの惑星のヤツじゃないし、他に言いふらしたりしないって」

『ぇ、えっと、で、でも、たぶん言ったら君も困っちゃうと思うし、止めとくよ』


「オレが困る?」

何でナマエの番を知ったらオレが驚くんだ?と悩み始めると、彼は『あっ、お、お腹空いてない?何か用意するよ』と言って部屋を飛び出してしまった。














ナマエが部屋を飛び出してしばらく、ナマエはなかなか帰ってこない。


何かあったのだろうか。そう前じゃないゴキブリ共との戦闘が頭を掠める。まさか、この宇宙船にゴキブリが侵入してたんじゃ・・・

ごくりと息を飲みつつ、ナマエが通過したのと同じ出口へと向かう。



部屋の外にあったのは長い廊下で、オレは気配に注意しながら進む。



ガチャガチャッ

「・・・此処か」


音がする場所。扉の隙間から覗き見れば、そこにはナマエがいた。

本を見ながらうんうんと唸っているのを見る限り、オレが食べれるようなものを必死で作っていてくれたのだろう。何だか心が温かくなる。





『地球人は繊細だから、もうちょっと火を通して・・・あぁっ、焦げてしまった・・・』

別にオレは焦げてても生でも構わない。


それを伝えようと扉に手を掛けた時――






『・・・ティンには知られたくないなぁ』






「・・・?」


ぴたりと手が止まる。

知られたくない?その言葉で思い浮かぶのはサンプルの話。やはり俺は、ナマエにとってサンプルなのだろうか・・・




『地球人は地球人としか夫婦にならないみたいだし、しかもオスとメスじゃなきゃ駄目みたいだし・・・ぁー、また焦げた』

ん?何だ、さっきの番の話か・・・


その口ぶりだと、ナマエの星では男とか女とか関係なしに夫婦になるんだな。しかも、別の惑星の相手でもよしときた。






『・・・何で今見つけちゃうかなぁ。番なんて、一生に一人しか見つからないってのに・・・それが何で――ティンなんだろう』


は?





『・・・駄目駄目。番は番でも、ちゃんと星に帰してあげなきゃ』





気付けばオレは部屋に戻ってきていた。驚きすぎて、此処までの道のりもまともに覚えていない。

というか、え?番ってオレ?ナマエは、オレを一目見て番だと思ったって訳か?死んでるオレを見て?


そりゃ、番が死にかけてたら慌てて治療するよな。けど、その番・・・まぁオレのことらしいが、それが星に帰りたがってたら・・・素直に帰すんだろうなぁ、ナマエなら。この短時間だけど、ナマエがどれだけ優しいヤツかっていうのは理解した。



・・・というか、オレはどんな顔してナマエに会えば良いんだ。まさか自分が番なんて――



『ティン、お待たせ』

「うわっ!?」


俺が驚きの声を上げるとナマエの身体もびくっと震え『あ、ごめん。そんなに驚くとは思わなかった』と謝ってくる。いや、今のはオレが悪い。




『上手に出来なくってね・・・焦げちゃったけど、その中でも割と焦げが少ないのを持ってきて・・・ごめん、下手くそで』

「い、いや・・・良い」


見れば皿に乗っているのはオムレツのようなものだった。焦げてるけど。

皿と一緒に渡されたフォークでそれを食べる。・・・うん、中身は少し生だ。




『どうかな・・・?』

「食べれる。味付けもちゃんとできてるし、美味い」


美味いと言った瞬間、ナマエの顔がぱぁっと輝いた。

嬉しそうに笑い『そっか』と頷くナマエにちょっと罪悪感。



・・・ナマエの番は一生で一人しか見つからないのに、それがオレなんて・・・オレのせいではないにしてもつい罪悪感を感じてしまう。オレを星に帰せば、ナマエはもう一生番を手に入れられないということだろう・・・






『ティン?』

「あ、いや、何でもない」


オレはさっきのナマエのようにそっぽを向いてしまいながら、オムレツを頬張った。やっぱりちょっと生だった。




「ナマエ・・・ナマエの星だとさ、番を見つけられなかったヤツって、どうなるんだ?」

『え?んー・・・別にどうにかなるって訳じゃないよ。番が自分と出会う前に既に死んでるって場合もあるし・・・けど、そういうのって自分は知る術もないから、もしかしたら何処かにいるかもしれないって思って、いろんな惑星を彷徨うんだ』


「あ、諦めたり、しないのか?」

『ううん。僕たちにとって番は最も大事な存在なんだ。何物にも代えられない・・・それこそ、自分の命を差し出したって構わないってぐらい。そんな相手との出会いを、途中で諦めたりなんか絶対にしない。出会う前から、ずーっと焦がれてるんだ・・・自分の相手はどんな人なんだろうって・・・相手は僕の事を好きになってくれるだろうか、相手を幸せに出来るだろうかって・・・そればっかり考えてた・・・』




「・・・そ、そうか・・・」

何だか顔が熱い。



『ティン?・・・もしかして具合でも悪い?顔が真っ赤だ』

「べ、別に何でもない!」


ご馳走様、美味かった!と皿を突き返せば、ナマエは『あ、うん』と言いながら食器を片づけに部屋を出て行った。







オレは「うわぁぁっ」と声を上げながら頭を抱える。

ナマエの星・・・というか宇宙じゃ、性別の壁とかないのだろうか。まぁ、地球でもそういうの関係なしに付き合ってる奴等とかいるけど・・・


あれだけ愛おしげに語られて何も感じない程オレの心は死んじゃいない。というか恥ずかしい。


次ナマエが帰ってきたら、どんな顔をすれば良いのだろうか。

ナマエはオレを気遣って絶対に言わないし、オレだって地球に帰りたいし――








『ティン、やっぱり凄く顔が真っ赤だ。解熱剤飲む?』

「〜〜〜っ!!!は、早かったな」


『ティンが心配で・・・走ってきた』

眉を下げて困ったように笑い、そっと手を伸ばしてくるナマエ。

きゅぅっと胸が締め付けられる。





「な、なぁ・・・」

『ん?なぁに』


「ナマエって・・・地球の食べ物食えるのか?」

『もちろん。地球人と違って、僕たちは何だって食べれるよ。好き嫌いも少ない』


「ほ、他の惑星で暮らしたりは、出来るのか・・・?」


・・・オレ、何聞いてるんだ。




『もちろん出来るよ』



「も、もしも・・・番が別の惑星にいて、番が自分の星から出たくないって言ったら?」

『そりゃ、番の意見を尊重するよ』

「その、星に住むのか?」


おいおい、何でオレはこんなこと・・・







『それが可能だからね。それに、番と離れたくない』

「・・・・・・」


『ティン、さっきから変だ。体調が悪いならすぐに言ってくれないと――』



「ナマエ」

気付けばナマエの手を握っていた。

ナマエは困ったような、戸惑ったような顔でオレを見ている。

「もう一度聞く・・・お前の番って、見つかったのか?」

オレが何かを知っていることに気付いたのだろう。ナマエは何処か悲しげな顔をして、こくりと頷いた。

「それは、誰だ?」

『・・・ティン』

短く返され、オレはつい笑った。

突然笑ったオレが不思議だったのだろう。ナマエはぽかんとした顔でオレを見つめた。


「・・・じゃぁ、恋人からだな」

『恋人?』


もう良い。オレも認める。

命の恩人だからとか、そういうの関係なく・・・オレはナマエという個人に惹かれてる。





『恋人・・・そっか、恋人かぁ・・・どんな事すれば恋人らしいかな、ねぇティン』

嬉しそうに笑うナマエは『ティンが治ったら、地球行きを家族にも伝えなきゃ』とオレの手を握り返してくる。

その姿を見れば、オレの心が温かなものに満たされる。





「・・・小吉たち、吃驚するだろうなぁ」

『知り合い?』


「親友だ。ナマエにも会わせたい」

『じゃぁ、頑張って地球の文化を覚えなきゃ。療養中、いろいろ教えてね』


俺は親友たちの驚きに満ちた顔を思い浮かべつつ「あぁ」と頷いた。










宇宙規模の一目惚れ





楽しみだなぁ、アイツ等の驚く顔。




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