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「不愉快だ!!!」

男は叫んだ。


その男の周囲には、ゴキブリたちの残骸が散乱している。







「主に顔面が不愉快だ!何なんだあの者達は、美の欠片も感じないぞ!」

「お、お前、一体・・・」


突然その男は現れた。



ゴキブリたちの襲撃に何とか戦っていたティンや小吉と一郎の三人であったが・・・あまりのゴキブリの量にもはや成す術無しというところまで追い込まれていた。

倒れ伏す三人。そんな三人の目の前、何もないところから突如としてその男は出現した。


が、ゴキブリたちにとっては駆除する対象でしかない。ゴキブリたちは一斉に男へと飛び掛かり――残骸と化した。





「その肉体は認めよう!しかし不愉快だ!!!何故貴様等はどいつもこいつもそんなに気色悪いのだ!DIO様のような完璧なる美しさを目指せとまでは言わんが、もう少し見れる顔になってから出直せ!非常に不愉快だ!!!!」

DIOという人物が誰なのかは知らないが、一つわかることがある。





『じょろろっ!!!』

グシャンッ!!!


「我が主人、DIO様には到底及ばない」




この男は強い。

自分に襲い掛かるゴキブリたちを、指一本触れずに木端微塵にしているのだ。


どうやっているのかは不明だが、男がやっているのは確か。


男はふぅっと息を吐ききょろきょろとあたりを見渡す。そしてその視線は地面に倒れ伏すティンへと向き・・・





「お前・・・」

「な、何だよ・・・」



「美しい」



「はっ!?」

「美しいぞ、お前。私が歴代見てきた者の中でも上位の美しさだ!」


「えっ、ちょっ・・・はぁ!?」



がしりと掴まれた手。

男はうっとりとティンを見つめ「よし決めた」と独り頷く。


何を決めたと言うのだろう。何となく嫌な予感がしたティンは「な、何をだ・・・?」と尋ねる。





「ん?お前を私の伴侶にすることだ。DIO様も祝福してくださるはずだ」

「はぁぁぁあっ!?」


この状況で何を!?とか、そもそもお前は誰だ!?とか、言いたいことはいろいろある。



しかし今はそんな状況ではない。

同じく唖然とした表情で倒れていた小吉や一郎も、再び集まってきたゴキブリたちに顔をしかめた。


このままではヤバイと一目でわかる状況。疲労感はピークで、ティン自身もこれ以上薬を打ったら後戻りできないところまで来てしまっている。





「・・・ふむ、何度破壊しても湧いてくる。まるでゴキブリだな」


まさに奴等がゴキブリだということを彼は知らないようだ。

男はティンの手を放し、ふぅっと息を吐く。




「光栄に思え。この私のスタンドの能力で死することを」

スタンド?と疑問を口にしたのは誰だったか・・・







「『母なる息吹《マザーズエアー》』!!!」







集まってきたゴキブリたちが再び木端微塵となる。


先程は突然のことでよくわからなかったが、ティン達は確かにみた。

ゴキブリたちが見えない何かによって押しつぶされるその光景を。


風が吹く。その風は強く吹き荒れ、ゴキブリ達を外へと押し出した。










「・・・ふむ、掃除は終わった」

残ったのはティンと小吉と一郎、そして彼の四人・・・そしてバグズ2号の船員たちの死体のみ。



「で、だ・・・我が伴侶とその他二名に聞く。此処はどこだ」


その他二名でくくられてしまった小吉と一郎は、微妙な視線をティンへと送る。

ティンは顔を真っ青にしながら「そんな目で見るな!」と叫んだ。




「説明してる暇はねぇ!すぐに火星から脱出しねぇと・・・」

「・・・火星だと?通りで先ほど呼吸が出来なかったはずだ。すぐに能力を発動させて正解だった」


男はすぅっと深呼吸をする。



彼等には見えないが、男の周囲には酸素の膜があった。

それがまるで宇宙服のような役割をし、鎧の役割までをも熟していた。





「何時の間にかは知らないが、スタンド攻撃を受けたようだな・・・おい、帰る方法はあるのか」

「・・・後二人だけ乗れる、小型ポッドがある」


一郎の言葉に「そうか」と男は頷くと、ティンをひょいっと抱き上げる。




「では、私達は地球に帰ろうか、我が伴侶」

「っ、おい!何勝手なこと言ってんだ!!!離せッ!!!!」


男が平気で自分の仲間を置いて行こうとしていることに気付いたティンは全力で暴れた。

その様子に男は「おっと」と言いながらティンを降ろす。


フーッフーッと呼吸を乱しながら自分を睨むティンに目を瞬かせ「何だ、何か不満か?」などと尋ねてくる。これで不満が無いなら、逆に驚きものだ。






「・・・ふむ。非常に不本意だが、我が伴侶の大ブーイングにより、お前たちも助けてやろう。小型ポッドにはお前たちが乗れ。私と我が伴侶は別ルートで帰ろう」


「何言ってるんだ・・・小型ポッドしか、帰る方法がないんだぞ」

「私のスタンド能力であれば造作もない」


「さっきから気になってたんだが、そのスタンド能力って――」



「黙れゴリラ。肉体は認めるが顔面が気に入らん。顔治して出直して来い」

別に顔は怪我してねぇよ!と叫びそうになる小吉だが、何とか抑える。







「小吉、一郎・・・オレに構わず行ってくれ」


「ティンっ!」

御涙頂戴のシーンであるはずなのに、男はふわぁっと欠伸している。台無しだ。





「盛り上がってるところ悪いが、その他二人は早くポッドとやらに乗れ。ほら、伴侶も私の腕に」


「何で抱き上げるっ!?」

「しっかり私にくっ付いておかないと、振り落とされるぞ」


小吉と一郎にシッシッと手を振りティンを抱き上げた男。二人は心配そうな視線を送りながら小型ポッドに乗った。








二人が見えなくなった途端、再び暴れようとするティンに「大人しくしろ」と言いながら先程と同じようにマザーズエアーと呟いた。

その瞬間、ティンは濃密な酸素に包まれるのを感じた。


大きな渦の中央にいるような感覚。酸素の渦は周囲の金属を集め、ティンと彼の二人をしっかりと包み込む。





「このまま地球めがけて発射する。安心しろ。寒さも暑さも一瞬で終わる」



言葉の通り、全てが一瞬だった。

ドシュンッ!!!!という音と共に打ち上げられた二人は、宇宙空間も大気圏も一気に抜け、空へと投げ出される。


男は冷静に手を下に向ける。

手から生み出された空気が、二人の足元に現れ衝撃を和らげた。





「・・・付いたぞ」

「い、一体、何なんだお前・・・」


「お前じゃない。ナマエだ」

「ナマエ、か・・・助けてくれたことには礼を言う。だが、本当にお前は何なんだ」


「礼は良い。ただ伴侶になってくれさえすれば」

「い、いや、伴侶とかそういうのは・・・」



ぎゅぅっと両手を握り込まれたティンはどうにかならないかと視線を漂わす。だが、この状況じゃどうすることも出来ない。



「困った顔まで美しいな・・・」

ふわりとナマエが微笑んだ。


その顔の美しいことと言ったら、ついついティンが口をつぐんでしまう程だった。







「では、まずは式場探しからだな。DIO様にもすぐにご連絡を・・・ん?そういえば此処は何処だ?」

「と、取りあえずオレを放してくれ!」


「そうだ、伴侶。お前の名前は?」

「えっ、ティンだが・・・って!オレは伴侶じゃないからな!?」


ティンの言葉など全く気にせず「ティンか。可愛らしい名前ではないか」と笑ったナマエが、実は異世界人だと気づくのは、そう遠くない未来だった。






酸素様の伴侶








「・・・DIO様がこの世界には存在しない、だと!?」

「お、落ち込むなよ、ナマエ」


「・・・ティン、私を慰めてくれるのか?流石は私の伴侶ではないか」

「いい加減、その伴侶っていうの止めてくれないか?」


「伴侶なのだから仕方ないだろう」

「・・・・・・」



折角命が助かったのに、ティンには大きな悩みの種が出来てしまった。



あとがき

何故かやってしまった混合。
主人公は言わずもがなDIO信者で相手が美しければ伴侶は男でも女でも構わない。
ゴキブリは、肉体的には素晴らしいのに顔が嫌らしい。
DIO様につき従っている自分が間違いなんて起こすはずない!と変な自信を持っていて、結構な自己中。人の話は基本聞かない。けど別に悪い奴とかではない、かもしれない。




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