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アドルフ君との出会いは8歳の頃さ。

僕は研究員の一人であった父の息子でね。母は僕を生んですぐ死んでしまったため、父はよく研究所に僕を連れてきていた。

そこで偶然出会ったのが、アドルフ君。


僕は手におやつのチョコを持っててね。

建物の裏にしゃがみ込んで泣いてた彼に、チョコを一欠片あげたんだ。

最初はぽかんとしてたその子は恐る恐るチョコを食べて、それから小さく微笑んで・・・



『ぁ、ありがとう・・・』



父子家庭ってだけで周囲から遠巻きにされていた僕としては、とても嬉しかったよ。初めて人と何かを共有出来たってね。

後で聞いたけど、それは僕だけじゃなかったみたい。嬉しかった。


僕が常にチョコを携帯しているのは、そんな美しい思い出があるからなんだ。ま、そもそも甘いものが大好物ってのもあるけど。



僕が研究員の息子って知って少し警戒されたこともあったけど、何回も何回も根気強く接して、やっと“親友”の地位を手に入れることが出来た。

彼にとっても初めての親友だったけど、僕にとっても初めての親友でね。親友ってどんなことするんだろうって何時もお互い相談し合ってた。可愛い子供時代だろう?


アドルフ君が辛い研究の後泣いてたら、僕はずっと傍にいた。抱き締めて、背中を撫でて・・・

逆に僕が落ち込んでたら頑張って慰めようとしてくれたよ。不慣れだったからかな、物凄く大慌てで花とかお菓子とか差し出してくるんだ。そしたら落ち込んでるのが馬鹿馬鹿しくなって大笑い。あれは楽しかったなぁ。


毎日が幸せだったよ。アドルフ君は辛かっただろうけどね。

それでも、僕はアドルフ君の全てを受け入れられる自信があった。自信満々で、アドルフ君の傍にいたはずだったんだ。




そんな僕とアドルフ君の間に何時の間にか入り込んで来たのがあの女・・・あぁ、違う違う、アドルフの奥さんさ。

僕とアドルフ君は学校が違ったからね。そりゃ、アドルフ君に親しい人が出来るのは僕にとっても嬉しいことだったさ。


でも悲しいことに、彼女との出会いをキッカケに僕とアドルフ君の距離は開いた。まぁ、開いたと思ってたのは僕だけかもしれないけどね。現に彼は、彼女とのデートの後は絶対僕に“報告”したよ。昨日はどれだけ楽しかったかってね。僕の気持ちも知らないで・・・あ、ごめんごめん怖い顔してた?何事にも笑顔が大事だよね、ほーらスマイルスマイル!







で、話を戻すけど・・・アドルフ君、とっても嬉しそうに語るんだよ。彼女が自分を人間にしてくれたんだって。

あれ、もはや宗教だよね。彼女を聖母か何かと勘違いしてるんだよ、彼ってば。あ、別に貶してるわけじゃないよ。アドルフ君を貶す訳がない。


でもさぁ、何それって思った。今まで僕と会話してた君は、人間じゃなかった訳?って。侮辱だよね、それって。僕はアドルフ君を人間として接していたのに、アドルフ君自身は常に化け物と人間という括りで接していたんだ。これ以上ない屈辱だったけど、僕ったらアドルフ君の全てを否定したくなくってね「そっか、良かったね」しか言えなかった。



僕って結構臆病だったんだなぁって気付いたのがその頃。僕が臆病じゃなかったら、彼女と間に割って入れたのにね。

アドルフ君が大事だった。大好きで大好きで、もはや僕にはアドルフ君しかいなかった。

けどアドルフ君には違った。僕と言う親友と、彼女という恋人がいた。


・・・で、アドルフ君の一番は僕じゃなくて彼女となった。

当然さ。男と女なら、まず女を取る。そういうものさ。



でも流石に結婚式に参加したときは泣いたねぇ。子供の頃の僕が見てたら、きっと奥さんの方に殴りかかってただろうね。理性ある大人になれて良かったよ。

アドルフ君は結婚して、奥さんは子供を身篭った。アドルフ君、電話で嬉しそうに僕に報告してきたよ。ちなみに僕は「良かったねぇ」と言いながら、部屋の壁を殴ってた。アドルフ君には隣が工事してるんだって言ったから、まずバレてないけどね。


一度赤ちゃんを見せて貰ったんだけどさ、驚いたよ。アドルフ君に全く似てなかった。というか、アドルフ君の遺伝子持ってなかった。

あれれ?って思ったよ。奥さん、浮気してんじゃない?って。


疑問を持ったらすぐに調べたくなるのが僕でね。奥さんの周辺を調べさせたよ。そしてわかったのが浮気相手の存在。本当の父親のこともすぐに分かった。

酷いよねぇ、奥さん。アドルフ君の給与で豪遊してるんだよ。浮気三昧の贅沢三昧。いやぁ、女って怖い怖い。



問題はアドルフ君さ。あの子ってば、奥さんの浮気に薄々勘付いてるのに、それを全く問い詰めようとしないんだ!

怖がってるんだよ。自分を人間にしてくれた彼女の口から裏切りが飛び出すのを。もう裏切られてるってのに・・・


奥さん・・・もう良いや、あの女で。あの女、アドルフ君のことお財布程度にしか認識してないよね、きっと。僕の大事な大事なアドルフ君を傷つけて傷つけて・・・更に傷つけようとしてる。僕ってば、もうキレちゃったってぐらい怒ってる。

というか、そもそも僕は反対だったんだよ。あの女との結婚にはね。


でもそれを口に出しはしなかった。アドルフ君に嫌われたくなかったし。けどもう良いんじゃないかな?アドルフ君、そろそろあの女とさよならした方が良い。きっとその方が幸せだよ。子供?あぁ、アドルフ君の子供じゃないからこれっぽっちも可愛くない。あの赤ん坊には一度しか会ってないよ。もしアドルフ君の血を引いた子供だったら、僕は毎日でも会いに行っただろうけどね。



あぁ、可哀相なアドルフ君。親友の僕にさえ悩みを話せないんだ。そりゃそうだよね、奥さんが浮気してるんだけどどうすれば良い?なんて、例え親友でも言えるわけない。

でも僕、アドルフ君の全てを受け入れられるから、気にせず話してくれれば良い。というか、もう僕から切り出しちゃおうかな。奥さんと順調?って。どんな顔するかなぁ・・・

ねぇ、どう思う?














「ぇっと・・・つまりナマエさんは、アドルフさんに奥様と離婚して欲しいんですか?」

「んー、エヴァちゃんってば意外にはっきり言うねぇ」


目の前で珈琲を啜ったナマエは、エヴァに優しげな笑みを向けた。

オフィサーではないにしても相当な実力者であるナマエは、アドルフの補佐も務めている。

常に優しく学者にも引けを取らない程博識で・・・他の船員達に信頼されるのも当然。


そんなナマエにエヴァは不意に尋ねてしまったのだ。





『ナマエさんって、アドルフさんととても仲が良いんですね。昔からの知り合いなんですか?』





始まったのは昔話。最初は優しい笑顔と共に語っていたナマエの表情が曇り始めたのはアドルフの今の奥さんが登場してきた辺りだ。


聞き耳を立てていた他の船員達は不穏な空気を感じるとエヴァを残して逃げてしまった。

自分から始めた話なため、エヴァは途中で逃げることすら叶わない・・・



ナマエがエヴァのために用意してくれた紅茶は、随分前に冷めてしまっている。

話を聞いてて、ナマエがアドルフを“特別な意味”で好いているのは十分理解した。ならばアドルフはどうだろうか、とエヴァは考える。






「実はね・・・今日さ、アドルフ君を食事に誘ってるんだ」

「そ、そうなんですか・・・」


「そこでさ、いろいろお話しようと思って。僕等の今後について」

「今後、ですか?」

「そうそう。アドルフ君だって、そろそろ懲りてくれてるだろうし・・・後少し足元を揺らしてあげれば、すぐに僕の方に倒れて来てくれる。素敵なアイデアだと思わない?エヴァちゃん」



「・・・ぇーっと」

考えは若干どころか大分歪んでいる。おそらく長年の我慢が彼の奥底を歪めたのだろう。

笑顔はいつも通り優しげなのに、何処か背筋が凍るような冷ややかな雰囲気を出していたナマエは・・・ふと顔を別の方向へと向けた。



少し離れた場所に、アドルフの姿がある。

ナマエはぱっと表情を明るくし、珈琲のカップを机に置いて立ち上がった。






「あ!アドルフ君!今日のディナー、楽しみにしてるよ!」

「っ、ナマエ!職場でそんなことを口にするなと何度言ったら・・・」


「アドルフ君との食事が楽しみ過ぎて・・・ごめんね、アドルフ君」

「ぁっ、いや・・・別に構わない。俺も、楽しみにしてる」



大きな襟で殆ど隠されているアドルフの顔。

けれどチラリと見えた頬は、ほんのり赤くはないだろうか。





「・・・・・・」

案外、アドルフさんも満更ではないのでは・・・とエヴァは考えてしまった。









我慢の限界は既に突破しました





ちょっと怖いと思ってしまったが、結局のところ第五班は全員、アドルフのこともナマエのことも大好きなのである。




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