視線がウザったかった。
一応は尊敬する上司だけど、その視線には常々イライラさせられていた。
何かを期待するような、何かを待ち焦がれているような視線。
俺は別に何かを要求させたことはない。けれど目は口ほどに物を言う。
少し前に他の仲間たちがシャワーへ行った後も一人トレーニングをしていた俺の前に上司・・・アドルフさんは現れた。
まだいたのかとか、自分の限界を超えた運動は身体に毒だとか言いながら俺に近づいてきたアドルフさんに小さく舌打ち。
その視線は真っ直ぐ俺に向いていて、無表情なのにその視線は酷く・・・
「アドルフさん」
「何――」
パチンッと軽い音がトレーニングルームに響く。
アドルフさんのほっぺをぶっ叩いてみた。
頬を真っ赤にしたアドルフさん。
叩かれた部分を、ではなく・・・両頬を赤く染めて俺を見つめていた。
「ナマエ・・・?」
痛みなのかそうじゃないのか、目にじんわりと涙を浮かべながら俺の名を呼ぶ。
心なしか呼吸が荒くなっている気がするが、きっと気のせいじゃない。
「アドルフさんってさ、マゾ?」
「なっ・・・そ、そんなわけあるか」
分かりやすいなぁ。
そんな慌てて、目をきょろきょろさせて・・・
俺はにやにや笑いながら先程叩いた方の頬を撫でる。
「そっか。じゃぁただ痛い思いさせちゃったね。ごめん、アドルフさん」
「ぁ・・・」
優しく撫でてからそっと手を放せば、アドルフさんの口から零れ出る少し残念そうな声。
大爆笑しそうになるのを何とか堪え「どうしたの?」と問いかける。
「・・・べ、別に、何でもない」
「ふーん、そっか」
じゃぁ良いや。と言いながらアドルフさんから離れようとする。
するとぐいっと引かれる袖。
アドルフさんは「あ、ぇと・・・」と言いながら視線を漂わせている。
「どうしたの?アドルフさん」
「・・・ぃや」
「じゃぁ離してよ」
「・・・・・・」
無言のアドルフさん。面白いけど、俺はあえて怒ったような顔をした。
「離せって言ってんだろ」
「ぁっ・・・」
手を振り払い肩を押せばアドルフさんの口から零れた・・・嬉しそうな声。
あぁやっぱり、と内心笑う。
アドルフさんは頬を赤く染めたまま肩を抑える。少し強く押したから痛かったのだろう。けど・・・それが好かったようだ。
「アドルフさんさぁー、ちょっと意味わかんないんだけど。毎度毎度俺のこと見つめてさぁ、俺が気づいてないとでも思った?俺、そういうの言葉で言って貰えなきゃわかんないわけ」
「・・・ナマエっ」
「何だよ、ウザいなぁー」
あ、今ぞくぞくキてるっぽい。
あーあ、そんなに顔真っ赤に染めちゃって、期待した目で俺を見ちゃって・・・
どうしようもない人だなと思いつつも大概俺も興奮してきている。
「・・・アドルフさん」
「な、んだ・・・」
はぁっ、とアドルフさんが熱い息を吐く。色っぽいなぁ。
「もしかしてさぁ・・・俺に痛いことして欲しいの?」
ぴくんっと震えた肩。期待に満ち溢れた眼。
シャワーに言った仲間はきっとトレーニングルームには戻ってこないだろう。皆自室で休憩でもするはずだ。
二人きりのトレーニングルーム、目の前には期待した上司。
視線は相変わらずウザったい。して欲しいことがあるなら言えば良い、ヤラシイ言葉を口に出して強請って自分で興奮してしまえば良い。
・・・まぁそんなことを考えてしまう辺り、アドルフさんとは相性が良いのかも。
「ねぇ・・・痛くして欲しい?」
俺の問いかけに小さく頷くアドルフさんに、今度は口で言わせてみようかなと思いながらにやりと笑った。
サディスティック☆ボーイうん決めた。絶対に口で言わせてやろう。