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アラバスタは綺麗な土地です。




父上は格好良いです。

姉上はお美しいです。




父上のように頭が良く活発な姉上とは違い、僕は勉強も運動も全然駄目な・・・出来損ない。


そんな自分を恥じる生活をしていた僕は・・・何時の間にか、城の自室に篭りっきりになった僕は、窓から外を眺めることが多かった。




綺麗なこの土地にいるはずなのに、僕の目に映る色は・・・何時でも“灰色”でした。








・・・そんな時です。


この国に・・・“彼”がやってきたのは。







世界に色が戻ってきたようで・・・

彼を窓から見た瞬間から、僕は恋に落ちました。


一目惚れだったんです。



けれど、僕は姉上のように美しくはありません。父上のように格好良くありません。



長い前髪で顔を隠し、何時も毛布で身を包んでベッドの上にいるばかりの僕。

部屋に篭りっきりの僕は、彼に直接会いに行くことすら、出来なかったのです。



初めて窓から彼を見てから、大分経ちました。









コンコンッ

「ナマエ。入るぞ」










「・・・父上・・・?」

何時もと、ほんの少し声が違う父上が部屋に入ってきました。




「お前に紹介しておきたい人がいる」

「父上・・・?」



何時もの優しい雰囲気を感じない父上は、僕の呼びかけに返事をすることなく、そのまま部屋を出て行こうとする。

部屋を出た父上と入れ替わりに入ってきたのは・・・








「ぁっ・・・」


「これはこれは。初めまして・・・王子」




僕が一目惚れした、彼だった。


長い長い前髪の隙間から見える彼は、初めて見たときと全然変わっていない。










「ぁ、貴方は・・・ぇと・・・」


そういえば、名前さえも知らない僕。


そんなどうしようもない自分に嫌気がさしてしまう。

困ったような僕に、彼は静かに「クロコダイルと申します、王子」と言いながら口元を歪める。



優しいとは言い難い笑みを浮かべた彼。

それでも僕は、嬉しかった。




「く、クロコダイル・・・さん?」


初めて聞くことが出来た彼の名前に、僕は毛布の中で笑みをこぼす。





「王子――」

「ナマエとっ、ナマエと呼んで下さい・・・クロコダイルさん・・・」





毛布に隠れながら言う僕に、クロコダイルは「ナマエ・・・?」と呟く。

嬉しさのあまり「はぃっ」と声を上げた。




「く、クロコダイルさんは、この城にしばらく滞在するのですか?」

ドキドキッとしながら尋ねれば、帰って来た返事は肯定。





「でっ、では・・・そ、その間・・・少しで良いのです。僕の・・・僕の、話し相手になってはくれませんか?」


出来損ないで城のゴミみたいな僕のお願いなんて、本当は聞き入れたくないかもしれない。








「わかりました」


「け、敬語もいりませんからッ」






「・・・ククッ。わかった」

それでも、僕は彼と話をしたかった。



その日はもうクロコダイルさんは部屋を出て行きましたが、次の日また・・・部屋に来てくれました。











「ナマエは、何故毛布を被っているんだ。それに、そんな長い前髪では、顔も見えない」


僕が座り込んでいるベッドの端に腰掛けているクロコダイルさん。

遠慮なく吸っている葉巻の煙で咳き込みそうになるのを必死で押さえながらも、僕はクロコダイルさんの言葉に対する答えを言うために口を開く。





「・・・僕は、出来損ないなんです。父上は格好良い方です。姉上は聡明でお美しい方です。・・・けれど、僕は頭が悪く、容姿も美しくありません。だから・・・僕は、この城では誰よりも出来損ないなんです」


「だから、部屋にずっと篭っているのか」



「父上にも姉上にも、迷惑をかけてばかりです。外が怖くて・・・周りから『お前は出来損ないだ』と思われるのが怖くて、部屋の外に出られないんです。僕は・・・臆病で、非力で、世間知らずで、馬鹿で、どうしようもない餓鬼です」


こんなうじうじした僕は、クロコダイルさんに嫌われてしまったかもしれない。

それが怖くなってきて、僕は毛布にギュゥッと顔を押し付けた。






ポンッ


「・・・っ、クロコダイル、さん?」





「顔を見せてみろ」




毛布越しにですけど・・・頭に置かれた手。

じっと僕を見ている彼。きっと、僕の顔を見たいのは、好奇心。



僕は震える手で自分の毛布を頭からずり落とす。






「姉とは違う・・・真っ黒な髪だな」

「・・・父上譲りなんです」


後は・・・この、長い前髪を退けるだけ・・・

怖いッ・・・






「・・・僕のことっ、嫌いになりますか・・・?」


「さぁな」

正直にはっきりとそういった彼に、僕は小さく息を呑む。




このまま固まっていては駄目です。

そう思いながら、ゆっくりと・・・



前髪をサイドに退かし、ジッとクロコダイルさんを見た。

前髪の隙間ではなく、開けた視界で見たクロコダイルさん。もっと好きになった。






「何だ。・・・綺麗な顔してるじゃねぇか」

クロコダイルさんの手が、僕の顔に触れる。



「けどっ・・・」

「お前の姉よりも、十分良い顔つきだ。そう思っておけ」


ただ自分で思い込むよりも・・・彼がそういってくれたことが嬉しくてっ・・・







「クロコダイルさんっ」


僕は彼に抱きついた。

少し驚いた顔をした彼に・・・









「有難う御座います」

精一杯の笑みを向ける。


やっぱり驚いた顔をしている彼に僕は更に言う。








「貴方の前でだけ、僕は毛布を取って、前髪を退けて・・・顔を見せようと思います」


「何故だ」







「フフッ・・・馬鹿な我が侭王子の戯言だとでも思ってください」


何だか嬉しくて、楽しくて・・・





次の日も、また次の日も・・・彼は、僕のところに来てくれました。

けれど、少し可笑しいことに・・・前は、よく顔をだしてくれていた父上と姉上が、来てくれなくなりました。



もしかすると、僕に愛想を尽かせてしまったのかもしれない。


それはとても悲しいことだけど、クロコダイルさんが一緒にいてくれる今は・・・全然淋しくない。





「ナマエ。お前は部屋から出ないのか」

「クロコダイルさんが来てくれますから」




「父と姉が最近顔を出してないのに、不思議じゃないのか」

「クロコダイルさんが来てくれますから」






同じ答えを二つ。


僕は笑顔で言う。






クロコダイルさんの前では、髪形もきちんと整えて、服装もちゃんとする。


黙って僕の頭を撫でてくれた彼に、思いっきり抱きついたのは、記憶に新しい。







「・・・俺は海賊だ」

「はい。クロコダイルさんが、少し前に話してくれましたよね。七武海の一人、でしたっけ。流石はクロコダイルさんです」


ふにゃっと笑えば、クロコダイルさんは口に銜えた葉巻をスゥッと吸い込んだ。









「俺が、お前の国をのっとったと言ったら、どうする」









「ぇ?」


「お前の父も姉も、俺の手で苦しめられていたら、どうする。国も民も、ボロボロにされていたら、どうする」

何故彼はそんなことを言うのだろう。




確かに、部屋から一歩も外に出ない僕は、城の外の様子なんて知らない。

最近では・・・知る情報の全ては、クロコダイルさんの口から聞く情報のみ。


僕は軽く下を向いて・・・









「クロコダイルさんがしたことなら、許します」


「・・・・・・」








「この国が、世界が・・・全ての人々が貴方を許さなくても、僕は貴方を全力で許します。全ての人々が貴方の敵になっても、僕だけは貴方の味方でありたいです。僕は臆病で非力で世間知らずで馬鹿で餓鬼ですけど・・・それでも、クロコダイルさんの味方でありたいです」

「勝手な奴だ。自分の父上と姉上とやらは、どうなっても良いと?」




「良くはありません。きっと、死んでしまったら悲しいです。国が滅茶苦茶にされるのも、とっても嫌です。けど・・・それでも・・・僕は許します。父上が殺されても、姉上が殺されても、民が殺されても、国が壊されても、僕自身が殺されようとも・・・僕は心の底から許します」


ギュゥッとクロコダイルさんに抱きつく。




彼の先程の言葉は、きっと冗談ではない。

おそらく・・・部屋の外は、もう僕が知っている平和なアラバスタではないのだろう。


父上も姉上も、生きてるのか死んでいるのかもわからない。



それでも・・・











「クロコダイルさんが僕に会いに来てくれるだけで・・・十分ですから」











笑った僕を見て目も見開く彼の頬に口付けて、また僕は笑う。





「僕は僕自身のために、貴方を許し、貴方を愛します」


「・・・ッ、ククッ・・・とんだ王子様だな、手前は」


ぐしゃぐしゃと撫でられた頭。



その時の僕は・・・

とても幸福な顔をしていたことでしょう。















――・・・
















「・・・クロコダイルさん」


アラバスタに平和が戻りました。




クロコダイルさんは僕だけを安全な場所に避難させていたので、僕は完全に無傷でした。



クロコダイルさんは、周りからみれば悪役だったのでしょう。

けれど、僕にとっては誰よりも素敵な人でした。



クロコダイルさんは捕らえられ、インペルダウンへとつれていかれたそうです。

全てが終わった後、僕は発見され、無事に城へと戻されました。








僕の口からは、絶対にクロコダイルさんの情報は漏らしませんでした。だって・・・僕だけが知っていれば良いことだと思いましたから。




父上は僕の無事を喜び、姉上は僕の無事に涙しました。

それはとても嬉しいことでしたが・・・


僕は再び、城の中の自分の部屋に閉じこもるだけの生活に戻ってしまいました。






それがどうしても耐えられませんでした。


クロコダイルさんに会いたくて会いたくて・・・










「・・・クロコダイル、さんっ!」


「・・・――ナマエ・・・?」




彼が脱獄したのだと知った僕は、すぐに彼のいる場所へと一人で勝手に、父上にも姉上にも内緒で行きました。


なんと幸運なことなのか、僕は彼に出会えた。









「やっと会えた・・・」

僕の呼びかけに、驚いた顔で振り返った彼に抱きつき、僕は泣きそうになりながらも笑った。








「・・・ナマエ」


「クロコダイルさん・・・どうか、出来損ないの王子であるこの僕を、傍にいさせてください」






そんな身勝手な僕の言葉に、







「・・・・・・」


「ぁ・・・」



彼は返事の代わりに、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫で回して、優しいとは言えないけれど・・・とっても素敵な笑みを浮かべてくれていた。





消えた砂漠を捜す




あとがき

最初はデフォルト名にトトという名前を付けていたのですが、よくよく考えたらトトという人物はすでに原作にいたので、トト君ではなくなりました。←



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