ナマエは白ひげの大事な息子だ。
ナマエは優しい男だ。
ナマエは物知りな男だ。
ナマエは強い男だ。
ナマエは完璧な男だ。
だがナマエは・・・――目が見えない。
「オヤジ様、末の弟はどんな子ですか?」
今日も今日とて、白ひげの隣で穏やかな笑みを浮かべながら立っている。
目が見えないから、最近入った末の弟がどんな子なのかがわからなくて、白ひげに問う。
問われた白ひげは豪快に笑いながら答える。
「おもしれぇヤツだ。お前も、今度喋ってみれば良い」
「えぇ、是非とも喋ってみたいですよ、オヤジ様」
ふふっと微笑んだナマエに白ひげも目を細める。
ナマエは元々目が見えなかった。
でもナマエは、それを不幸だと思ったことはない。
目が見えない代わりに、彼は気配に敏感だった。
気配で目の前に誰がいるのかが分かるし、気配を探れば目が見える人間よりもいろんなものが見通せた。
まぁ、目が見えないせいで兄弟たちの顔どころか自分を息子として大事に扱ってくれる白ひげの顔すらも見えないことを不自由に思ったことはあったが・・・
それでもナマエは自分は幸せ者だと思う。
家族に恵まれ、兄弟とも仲が良かった。
「末の弟とも、早く仲良くなりたいものです・・・」
「グララララッ、お前なら大丈夫だ、ナマエ」
大きな手で頭を撫でられ、ナマエは微笑みながら「はい」と頷いた。
白ひげとの会話もそこそこに、ナマエは船内部の廊下を歩いていた。
目は見えないものの、気配で動けるナマエはこうやって自由に動き回るし、気配で誰が近くにいるのかわかるナマエは時折「やぁ、掃除ご苦労様」や「この間の怪我、具合はもう大丈夫かい?」と兄弟たちに優しく語りかけたりしていた。
「ぉや?」
しばらくしてあまり人通りのない廊下を歩いていると、前方から感じ慣れない気配がした。
ドンッ
「ぉっと」
自分の胸に何かがぶつかる。
それはナマエが知っている気配を持つ人間ではなく、ナマエは首をかしげた。
船の中はいつも通りだし、侵入者ではないだろう。
じゃぁ、自分の胸にぶつかって、そのまま動かないコレは何だろう。
ナマエはぅーんっと考えて考えて「あぁ」とほほ笑んだ。
「もしかして、最近船に乗った子かな?」
「・・・・・・」
胸にぴっとりとくっついている人物がぴくりと動く。
これはきっと肯定の意味だろうと感じたナマエは笑みを深める。
「初めまして。私はナマエ。同じ白ひげの家族として、仲良くしておくれよ」
「・・・・・・」
返事はない。
末の弟は無口なのかな?とナマエは困ったような顔をする。
「すまないね。私は目が見えないんだ。出来れば、言葉を発してくれると嬉しいんだが・・・」
優しく言うのだが、やはり返事はない。
もしかすると具合が悪いのかな?と思いつつそっと背中であろう部分をさすれば、びくっと相手の身体が震えた。
「具合でも悪いなら、医務室で見てもらうと良い。私も一緒に行こう」
「ち、違うっ」
やっと声を上げた相手に、ナマエは微笑む。
「やっと声が聞けた。やっとついでに、君の名前を聞いても良いかな?」
「ぁ、ぅっ・・・ぉ、俺っ、俺、エース・・・」
「エースかい。よろしくね」
にっこりとほほ笑んで相手、エースの頭があるであろう部分を撫ぜると、エースは「うひゃっ!?」と声を上げた。
「ん?もしかして、触られるのは苦手かな?」
「ににににに、苦手じゃないっ!も、もっと、触っても良いっ・・・」
その返事が何だか面白くてクスクスと笑ったナマエは「あぁ、有難う」と頷いた。
「良かった。新しい弟がどんな子だったか、気になってたんだ。話せてよかったよ」
「ぉ、俺もっ、ナマエさんと話せてっ、良かった・・・」
「ところで、私の胸にくっついて、暑くはないかな?」
「〜〜〜っ、わ、悪いっ」
「いや、私は構わないよ。弟に甘えられるのは嬉しいことだからね」
穏やかに微笑んだナマエとは逆に、物凄く慌てたようなエースは「ぉぉおお、俺、用事思い出したから!!!!」とバッとナマエに背を向けてかけて行ってしまった。
「・・・おやおや」
吃驚したようなナマエだったがすぐに優しい笑みを浮かべた。
「新しい弟は、随分と元気な子のようで良かった」
ナマエは微笑みながら、再び廊下を歩いて行った。
おまけ⇒