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7歳の頃に此処に来た。


自分が病気なんだって聞かされて、マスターに治療してもらうことになった。




お父さんお母さんと離れ離れだけど、正直僕はそれでも良かった。


共働きでもともとあまり顔を合わせたりしないし。

逆に、此処は本が沢山あるし、知識を詰め込むには丁度良い場所だと思うんだ。



今日も僕は部屋の隅っこで本を広げて静かに過ごす。




「・・・・・・」


少し離れた場所でキャァキャァと楽しそうに遊んでいる子たちをチラリと見る。



普段は仕事で忙しいマスターが、今日は僕等の元へきている。だから皆の機嫌も普段より更に良い。




皆はマスターのことが大好きだから。

子供たちだけじゃなくて、此処で働いている大人も皆。




・・・けど僕は知ってる。


マスターは僕等の事大好きじゃないって知ってるの。






「シュロロロロッ、どうしたナマエ。今日もお前は他の奴等と遊ばないのか」


「・・・ん」


何時の間にか僕の傍に来ていたマスターは「ほぉ、医学書を読んでいるのか」と感心したような声を出す。





「この間読んでいた科学の本はどうした」

「・・・読み終わった」


「理解できたのか?」

「原理は理解できた。実践は出来てないから本の内容をそのまま覚えるしかないけど、基礎的知識は手に入れたと思う」



他の子供はマスターに話しかけられればそれこそ嬉々とした顔をするだろうけど、僕はそんなことよりも本が読みたい。

欲を言うなら、今読んでいる本の解剖を実践したい・・・






「マスター。病気も治っていない分際で、更なる知識を求めてしまうのは、罪ですか」


「・・・シュロロロッ・・・面白いことを言うじゃねぇか、ナマエ」




一瞬、ニヤァッと意地悪く嗤うマスターを横目に、僕は「餓鬼の戯言だと思ってくださって結構です」と言い、再び本へと視線を戻した。








「さて。今日もキャンディーをやろう」








その瞬間、子供達が嬉しそうに「やったぁー!」と声を上げる。


マスターは何時もキャンディーを配ってから此処を離れる。

子供達はそれぞれキャンディーを受け取り、それを口に入れると「美味しいぃー」と幸せそうな声を上げた。









「マスター!ナマエの分はぁ?」

「ん?あぁ、忘れていた」


けれどマスターは、僕にはあまりキャンディーをくれない。

他の子供は「ナマエ、何か悪いことしたのー?」と聞かれるけど、身に覚えはない。





「ほら、ナマエ」


「・・・有難う御座います」




くれるときも、他の子とは違う色のキャンディーだ。しかも美味しくない。


美味しくないけど、貰った手前食べなくてはと思い、そのキャンディーを口にする。

美味しくない。不味い。けれど食べなければならない。


だって、マスターが僕にキャンディーを渡す時は、必ずと言って良いほど、僕がちゃんとキャンディーを食べているか確認してから帰るから。


ほんとはこっそり吐き出してしまいたいけど、バレたらそれはそれで面倒だし、我慢する。




けれど最近可笑しいんだ。

何だか・・・







「成長が早い、ような・・・?」







最初から他の子供よりも大人びてはいたけど、これは可笑しいと思う。

病気のせいで巨大化してきている子供はたくさんいるけど、僕は巨大化ではなく・・・急成長だ。明らかに他とは違う。



毎晩関節が痛いし、他の子供より沢山食べなきゃ体力が持たないし・・・


医学書でそういう病気がないか調べてみたけど、該当するものが見当たらない。もしかすると新種の病気なのかもしれない。



マスターに教えてもらいたいけど、マスターも忙しい身の上らしいし、なかなか聞く機会には至らない。





「・・・もう、わからないだろうな」



マスターが帰った後に鏡で自分を見る。


少し前までは他の子供達と同じようにぷにぷにしていた身体は、いつの間にか大人に近いすらっとしたものになっていた。



身長も伸びたし、そろそろマスターを追い抜き始めるだろう。

身長だけならモネさんよりも大きくなってしまったけど、モネさんはまだ僕を他の子と同じように扱ってくれるから有難い。






「これじゃ、お父さんもお母さんも、僕だってわからない」


自分たちの子供がいきなり青年になって帰ってくるなんて思ってもみないだろう。


病気が治ったら、この成長も止まってくれるのかな?わからない。


大きくなるにつれて、思考能力もしっかりしてきている気がする。

今まではただ本の内容を覚えるだけだったけど、今ではそれの応用法についても考えることが出来ているし。








「・・・ふぅ」


そんなことを思いながらもずっと本を読んでいると、いつの間にか夜になっていたようで、周囲の子供達はそれぞれ眠りについていた。

僕はと言えば、読み終わった本を書庫に片付けようと部屋を出る。












「ナマエ」







「!・・・驚いた、マスターですか」

突然背後からした声にびくっとした僕に、マスターは至極楽しそうに「シュロロロッ」と笑う。



「書庫に行くのか?」

「えぇ・・・すみません。勝手に部屋を出て・・・気付いたら夜になってて驚きました」


「まぁ、オレも時に時間を忘れて本を読むこともある」


マスターは僕のすぐ隣に立って「その本、どうだった」と感想を聞いてくる。

それに対して大体模範的であろう答えをマスターに告げながらも書庫へと歩く。




比較的すぐに到着した書庫に本を片付けると、マスターがずいっと僕に近づいてきた。





背後は本棚、目の前にはマスター。


完全に板挟みな状態の僕に、マスターはまたあのキャンディーを取り出した。




「ご褒美だ」

「・・・・・・」



「どうした?このキャンディーは嫌いか?」


はい。と、おそらく目は正直に返事をしているだろう。


けれどこの身体が大きくなるにつれて『本音と建て前』というものを覚えた僕は「ぃえ」と小さく返事をして、そのキャンディを口にした。




瞬間、全身がぞわりとする感覚。関節の痛み。


あぁ、また成長してしまう。




困惑する僕とは正反対に、マスターはその笑みを深めて僕を見ている。






「大きくなったなぁ、ナマエ」


気付けば目の前のマスターよりも僕は頭一つ分、大きくなっていた。



手もマスターより少し大きいし、大きくなってみるとマスターの身体ってほっそりしているなぁって気付く。

マスターはしげしげと僕を観察すると・・・





「ま、すたー?」


突然ぴとっと僕の胸に頬を寄せ、背中に腕を回してきた。

飛びついてくる子供達を笑顔で抱き上げてやることはあっても、こうやって抱き締めるなんてことはマスターはしない。





「シュロロ・・・思った通り、良い男になったじゃねぇか」

「マスター。その発言、僕の急成長にマスターが関与しているということをにおわせています」


「頭も随分よくなった。一番最初のお前も確かに察しの良い餓鬼だったが、今はオレの役に立つ知識も十分手に入れた」



「可能性としては、あのキャンディーですよね。他の子供達とは違う病気の症状は、他の子供達に与えられるものとは違うキャンディーに関係していると・・・」


マスターは嬉しそうに目を輝かせる。





「その通り!限りなく正解に近い!」


「・・・と、いうと?」





「お前は病気などではない。他の餓鬼もなぁ」

「・・・・・・」


「巨大化は病気の症状じゃぁねぇ」




マスターが良い人ではないのは何となく察していたが、どうやら相当危ない人らしい。


逃げようにも背後は本棚、目の前のマスターはより一層僕に強く抱きついて来る。



僕の胸に顔を摺り寄せていたマスターが、ふいに僕を見上げる。


近づいてくるマスターの顔を避ける暇もなく、マスターの唇と自分の唇が小さくぶつかる。




これはキスってヤツだと何となく理解はしたが、何故マスターがそんなことをするのかは理解できなかった。









「喜べナマエ。餓鬼の頭じゃ理解しきれないものが理解できるようになっただろぅ?」

「僕に知識を与えるためだけに急成長させた、というのは少々理由が足りないと思います」


「シュロロッ・・・あぁ。理由なら他にある」



その理由とは?と聞く前に、マスターが再び僕にキスをする。



今度は少し深い、長いキス。

ちょっと苦しかったけど、逃げるという気にはなれなかった。



薄暗い書庫の中でマスターと僕のキスをする音が小さく響くのを感じる。







「餓鬼のお前じゃ、オレを抱き込んじゃくれねぇだろぅ?」


「・・・それは、マスターが餓鬼の僕相手に恋愛感情を抱いていたという意味ですか」




「そうだと言ったら?」


「確かに子供の僕に対してそのような感情を抱いていたなら、道徳的に許されないでしょう。しかし、見た目が大人になってしまえばこっちのもの・・・ですか?」




「オレにとっちゃぁ道徳なんてものはどうでも良いが、餓鬼の身体じゃいろいろと面倒だからなぁ。お前のために特別に作ってやった薬だ。ちょっとずつちょっとずつ身体に入れさせて、やっとこの大きさになった」


心底嬉しいのかもしれない。

マスターの笑みが深まって、僕を抱き締める力は強い。



ちょっと苦しいな、と思う反面、マスターもこんな顔するんだとちょっと感心。







「今日からお前はオレの助手だ」


「助手?」



「モネにはもう言ってある。お前はオレの研究を手伝うんだ」

それがろくでもない研究なのだろうということは簡単に予想できるが・・・





「やってみたかったんだろう?“実践”」


ゾクリッと、僕の身体が小さな悪寒と・・・それ以上の期待を感じた。






「実践、出来るんですか?」

「あぁ。いろいろな実践をさせてやろう。もう、本だけじゃ満足できねぇだろぅ?」


「出来ないです。沢山知りたい・・・知識が欲しい。それに、知識に釣り合う技術も欲しい」



「オレが手取り足取り教えてやろう」


僕はその言葉についつい笑顔になった。






「有難うマスター」


笑顔のままギューッとマスターを抱き締めれば、マスターがほんの少し震えた。




「し・・・」

「?」



「シーザーだ」


「・・・はい。シーザー」




何だか照れているような感じのシーザーをもう一度抱き締めた。


知識が欲しいと言う欲求からくるこの高揚感。

それと同時に・・・






「シーザー。あのキャンディーは急成長以外の効能があるんですか?」


「ん?何の事だ?」





「だって・・・」

僕はシーザーの顔をじっと見つめる。






「何だかシーザーが愛おしくてたまらないんです」


「〜〜〜ッ!?!!!??!?」





グワァァァアアッと赤くなるシーザーに僕は小さく笑い「ほら、可愛い」と言うと、シーザーは無言のままうつむいてしまった。




知的少年の急成長




あとがき

割と気に入っているこの子。

デフォルト名:ソルフィ
ショタ相手に惚れちゃったシーザー(←)に飲まされ続けた薬で急成長しちゃった元ショタ。
大人の肉体に相応しい頭脳をしているが、元ショタなだけあってたまに子供っぽい。



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