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ジョルノの母親は美しい人だったが、良い母親とは言い難かった。


夜は街で遊び歩くような母親で、幼いジョルノは夜中目が覚めると暗闇の中でただ怯えることしかできなかった。



その日の夜も、ジョルノは目を覚ましてしまった。

しかし、その日はいつもと違った。






ガチャッ

玄関の扉が開く音。


もしかすると母親が帰ってきたのかもしれないと思ったジョルノだったが、部屋に入ってきたのは想像とは違う人物だった。






「ふぅー、今日はこのあたりで一休みするか」




「・・・だ、れ?」

「ん?何だ、餓鬼が起きてやがったか・・・ハァッ、頼むから騒ぐなよー、面倒だから」


入ってきたのは母親ではない。女性ですらない。



そこに居たのは一人の男だった。

薄暗くてよく見えないが、細身の男だったように思える。


男はフワァッと欠伸をしながらジョルノに近づくと、ずいっと手を伸ばしてきた。

逃げる間もなく男の手がジョルノに触れる。


ジョルノはギュゥッと目を閉じたが、男はただジョルノを抱き上げると「よしよし」とその背を撫でた。




「餓鬼がこんな真夜中に起きてるもんじゃねぇぞ。さぁ、寝ろ」


規則正しく、そっと背中を撫でられたジョルノは男の温かな体温を感じながらその夜は眠りについた。

朝になれば男などおらず・・・






しかしその日の夜も、男はジョルノの家にいた。


ジョルノが起きると、やっぱりジョルノを抱き上げてそっと背中を撫でてジョルノを寝かしつける。




何時しかジョルノは男が来る夜中が楽しみになって、わざと遅くまで起きている時もあった。

そんな時は、男は「ばーか、餓鬼は大人しく寝てねぇとデカくなれねぇぞ」と言いながらも、優しくジョルノを抱き上げるのだ。






ある日尋ねたことがあった。





『お兄さんはだぁれ』





その短い質問に男は「餓鬼は知らなくてもいーこった」とジョルノの頭をぐりぐりと撫でた。




結局、4歳になって母親がイタリア人の男と結婚するまで、男はジョルノに会いに来てくれた。

逆に言うなら、それからは男はジョルノに会いに来なくなった。





いや・・・少し語弊があったかもしれない。



ジョルノ自身がイタリアに移り住んでしまったため、男が一方的に会いに来なくなったわけではなかった。









大きくなったジョルノは、男のことをよく覚えていた。


優しくて暖かい・・・



ジョルノはあの男のことが大好きだったことを、覚えていた。

けれど薄暗い部屋の中では、男の顔や特徴まではよく見えなかったため、そこまでは覚えていることはできなかった。



それでも、ギャングスターを夢見るようになり、ギャングの一人となったジョルノは、時折ぼんやりと男のことを思い出すのだ。







「・・・・・・」


その日、ジョルノは夜道を歩いていた。



傍に護衛チームの面々はいない。

暗い夜道は狙われやすい。


早く戻ろうかと足を速めたジョルノは、小さな足音を感じた。





カツンッ、カツンッ・・・


足音は次第に大きくなる。それは、相手が近くまで迫っていることを意味していた。

ジョルノは何時でも攻撃できるようにスタンドを――








「ふわぁっ・・・眠いなぁ。何処かで一休みすっかなぁ」


「!」




眠そうな声。

ふらふらと歩いている男に、ジョルノは懐かしさを覚えた。





ちらりと街灯に照らされた男はジョルノよりも少し年上だと思われる、小奇麗な人物だった。


もしかしたらあの夜の男なのではないかと考えたジョルノだったが、あの夜から今になるまで何年もの月日が経っているのだ。



それにしては男は若すぎる。きっと気のせいだ。ジョルノは男がこっちの方にあるいて来るのをじっと見つめていた。

男はジョルノに気付き「んー?」と声を上げる。



頭の先からつま先まで何度か見た男は「ぉー・・・」と言いながら足を止めた。










「まだ夜更かししてんのか、餓鬼。デカくなれねーぞ」


「!!!」







ジョルノは気付けば男に飛びついていた。


おわっと、と言いながらもジョルノを受け止めた男は欠伸をしながらジョルノの背中を撫でた。

それはやっぱり、あの頃と同じ温かさで・・・






「ちったぁ身体がデカくなっても変わらねぇなぁ、餓鬼」


「餓鬼じゃないです。ジョルノです」


男は「ぉー、ジョルノか」なんて言いながらジョルノの背を昔のように優しく撫ぜる。






「貴方にずっと会いたかったんです」

「そりゃぁ驚いた」


ククッと肩を震わせる男に抱きつく力をぎゅぅっと強めたジョルノは「是非名前を聞かせてください」という。



「名前?んー・・・ナマエだ。たぶん」


いや、それともトムとかジェイソンだったかな?なんて言って小首をかしげる男に、ジョルノは不思議そうな顔をする。





「何故たぶんなんですか」

「呼ばれてたのがだぁーいぶ昔だからだ、餓鬼」



「だからジョルノです」


「はいはい、ジョルノジョルノ」




「大分昔・・・そういえば貴方は全然歳を取っていない。それと関係あるんですか?」


追及するジョルノに、男は昔のように言った。





「餓鬼は知らなくてもいーこった」

ぐりぐりと撫でられる頭。


昔のジョルノはその撫でる手に満足していたが、今は違う。





「もう餓鬼じゃありません」

「言うようになったなぁ。しゃぁない・・・ちょっとだけ教えてやるよ」


ナマエは小さく欠伸をしながら言うと、ジョルノの耳にそっと唇を寄せた。










「俺・・・“サンタさん”なんだ」









「ぇ?」

ぽかんとしたジョルノにナマエはニッと笑う。




「信じるか信じないかはお前次第だけどなぁ」


「じゃぁ、何故貴方は僕の家に来たんですか?『今日はこのあたりで一休みするか』って言ってましたよね」



「・・・記憶力良いなぁ、ジョルノは」


ナマエは少しだけ困ったような顔をして「内緒だぞ?」と前置きをする。






「ありゃぁ・・・『良い子』を探してたんだ」

「良い子、ですか?」


「そっ。サンタがプレゼントを配るのはイブの夜のみ。けど、他にもやるこたぁいっぱいあるんだ。その一つが、良い子探し」


何だかぶっ飛んだ話だが、ジョルノはナマエの話に聞き入っていた。




「世界中の子供達を昼間から夜までずーっと見るんだ。そりゃぁ眠くなるさ。だから俺は、良い子の家でこっそり休ませてもらって、朝になったらまた別の良い子を探しに行くんだ」


「サンタは白い髭の老人だと思ってました」

「そりゃぁ大昔姿を見られた先代だな。俺は見られるようなヘマしたことねぇ」


軽く自慢気に言うナマエにジョルノはついつい笑ってしまう。






「貴方は良い子の家でしか休まないんですよね?」


「まぁ基本はそうだ」




「じゃぁ・・・僕はまだ、貴方から見て、良い子ですか?」


ほんの少しの悪戯心と、ほんの少しの期待が込められた、ジョルノの真っ直ぐとした目がナマエを射抜く。

その様子にナマエはふぅっと息をつき・・・






「合格だ」


ほんのり笑って言った。





瞬間、ぱぁっと顔を明るくしたジョルノは「じゃぁ、今すぐ行きましょう」とナマエの手を引いて駆け出して行った。






クリスマスはまだまだ遠く




・・・以上、クリスマスはまだまだ先の、深夜の出来事だった。




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