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■天童成代り主は前世を思い出すのが遅かった。



※イジ/メの時間夢。天童成代り主。


前世の記憶を思い出したのは、もう随分取り返しのつかない段階だった。


冷たいコンクリートの上で衰弱している鈴木山と、同じくコンクリートの上で・・・こちらは泡を吹いて死んでいる若保囲。

思い出した切欠は若保囲の死と、それから鈴木山の言葉だろう。


若保囲の死を自分のせいにすればいいと言い出した鈴木山。思い出した前世の原作知識通りなら、いずれ平原さんに殺されかける僕を、鈴木山は身を挺して庇うのだ。

若保囲があまりに反省の色を見せなかったから、鈴木山も反省していないことを当然と考えていた。けれど実際は鈴木山は深く後悔を・・・詳しく言うなら、いろんなことに対して諦めきった結果、僕に対する申し訳なさを感じたのだろう。


もっと早い段階で前世を思い出していれば、もっともっとやりようはあっただろうに。もういろんなことが手遅れだ。

きっとこれからどう転んでも円満解決はしないだろう。若保囲は死んでるし、平原さんは僕を恨んでいる。

過去から現在にいたるまで、ピタゴラスイッチかよっていうレベルで負の連鎖が起こっている。ははっ、と乾いた笑みが浮かんだ。

こういう時にワーがいないのは辛い。あの子は本当に優しい子で、僕はあの子が大好きだった。心の支えだった。


「・・・ワーに会いたいなぁ」

その場に腰を降ろして、膝を抱えて呟いた。

「真っ白な毛並みって結構汚れやすくって・・・ワーの奴、風呂に入れた日に限って僕の靴で遊ぶんだ。だからすぐ汚れちゃって、また風呂に入れての繰り返し・・・」

ぽつりぽつりと呟く僕を、鈴木山が重そうな瞼を開いて見つめている。

そんな鈴木山に手を伸ばせばピクッと瞼が震えた。

ぽんっ、と鈴木山の額に手を置いて、そのまま髪を撫でる。


「ワーと違って、毛並み悪いなぁ・・・脱色し過ぎなんだよ」

「っ、・・・?」

髪を梳くように頭を数度撫でる。何をされているのかわからないらしい鈴木山の間抜け面に、僕は「ふふっ」と笑った。

あぁ、漸く自分が何をされているのか気付いたらしい。鈴木山が泣きそうな目でこちらを見つめ、震える唇をきゅっと噤む。


「復讐を止めるつもりはないんだ。若保囲は死んだし、他が生きてるなんて不公平だし。鶴巻も、お前も・・・それから僕も、皆死んだ方がいいんだ」

「・・・お、まぇは・・・い、だろ」

お前はいいだろ?何を言っているのか。

原作の天童歩は最終的には生き残っていたし、それに対しては思うところはない。けれど天童○○という僕自身が今後も生きたいかと聞かれればそうじゃない。

誰かに恨まれていることを知っている。若保囲と鶴巻と鈴木山、それから平原さんの死を抱えて生きて行くことになることを知っている。

元来心が強くない弱虫で臆病な僕は、それを抱えて生きていける気力がない。要するに、逃げたいのだ。


「違う。僕はね、死にたいんだ。自分の罪を償うという意思がない。卑怯者なんだ。・・・それに比べて鈴木山は、癪だけど偉いね。反省して、償おうとしてる。偉いよ、うん、偉い・・・」

「ぅ、うぅ・・・」

頭を撫でながら言えば、鈴木山の顔がくしゃりと歪んで、唸るような嗚咽が漏れ始めた。



「・・・鶴巻が死んだらさ、僕と一緒に死んでくれない?」

笑顔で問いかければ、鈴木山は泣きながら、小さく頷いた。

涙どころか鼻水まで出てるし、そもそも顔色は悪いし無精髭は生えてるし、正直小汚い。けれどその瞬間だけ妙に鈴木山のその間抜け面が可愛く見えて、僕はワーにしてたみたいに「よしよし、いい子だね」と笑みを浮かべていた。



(手遅れだからせめてもの抵抗に死を選ぶ成代り主の話)



あとがき

もういろいろ手遅れだった天童成代り主。
原作通りがっつり虐められて、がっつり覚醒してた。
前世を覚えていたらもうちょっと上手く立ち回れていたのに!ってぷんすかしてる。

平原さんについては申し訳なく思ってるけど、平原さんの死を背負う気はさらさらない。背負うぐらいなら先に死んでやるつもり。若保囲と鶴巻の死は別に背負うつもりはない。
何かブサ可愛くなった鈴木山を心中相手に選んだ。

たぶん平原さんにあの日謝れなかったことを含めて謝罪して「でも許さなくていい。僕も鈴木山たちを許すつもりはないから」「だから筆箱のこと、気にしないで」と謝罪しつつも虐めの発端原因をあたかも最初から知ってんだよアピールをして平原さんに軽い仕返しをするぐらいには性格は悪い。

平原さんの目の前で鈴木山と心中をするもんだから、きっと平原さんは原作通り自殺するし何ならその後お母さんも自殺するし、実は天童成代り主が好きだった信二も「何で鈴木山と心中なんてしたんだっ!」と墓前で恨み言を吐いてその後自殺する。原作より大惨事になる。
















「なぁお前、何やってんの」

「?お山作ってる」

「・・・俺も作っていい?」

「いいよ。信二もいーい?」

「・・・、・・・いーよ」

公園の砂場に集まった三人の小さな子供。一人は「三人だとおっきなお山が作れるね」と無邪気に笑い、一人はそんな彼を見つめてホッとしたように笑い、一人はそれを見て顔を顰めていた。


「ねぇ○○、お山にトンネル作ろう。俺がこっち側から掘るから、○○は逆からね」

「うん、いーよ。じゃぁ、君は・・・えーっと?」

「・・・真次郎」

「真次郎は、もっとお山を大きくしてね!」

名前を呼ばれた真次郎は嬉しそうに頷いて、信二はそれを見て小さく舌打ちをした。


「なぁ、お前の名前は?」

「僕?僕、天童○○!」

ずぼっと砂に手を差し込みながら、○○は元気に自己紹介をした。

真次郎は、鈴木山真次郎は、それを聞いて「そっか」と笑った。




転生ENDとか、いいなぁ。
天童成代り主は記憶無しで、鈴木山と信二はがっつり覚えてる。
信二は今度こそ成代り主を独占したい。前世で成代り主を奪った鈴木山を蛇蝎のごとく嫌っている。が、成代り主を怖がらせないために表面上はにこにこしてる。

鈴木山は成代り主が無邪気に健やかに育ってくれれば嬉しいと思ってる。
前世で調教されたようなものだから、基本的に成代り主に忠実。滅茶苦茶お世話してくるが、信二にが邪魔してきたりする。
・・・もし成代り主が暴力的に育ったら、その暴力は自分が全部受けたいなって思ってる。

そんな感じに病んでるヒロイン♂×2に愛される成代り主っていいなぁ。



2021.11.25




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