■灰原が欲しくてたまらなかったショタ
同じクラスの灰原さんにはお兄ちゃんがいるらしい。
僕は一人っ子だからお兄ちゃんという存在がどういったものかはわからない。僕が灰原さんのお兄ちゃんについて質問しれば、灰原さんは沢山教えてくれた。
まず、灰原さんのお兄ちゃんは灰原さんにとても優しいらしい。今は遠くの学校に行っているけれど、帰ってきた時は沢山遊んでくれるんだって。都会のお菓子をお土産にくれたり、都会の話を沢山教えてくれたりもするんだって。灰原さんが泣いちゃった時は一生懸命泣き止ませようとしてくれるし、笑わせようとしてくれるんだって。
いいなぁ、と言えば「じゃぁ今度お兄ちゃんが帰ってきたら、○○くんも一緒に遊ぼう」と言ってくれた。
次に帰ってくるのは夏休みだって言ってたから、僕は凄く楽しみだった。
「わぁ、君が○○くん?僕は雄、よろしく!」
「よ、よろしくっ、雄お兄ちゃん」
「お兄ちゃんかぁ!何だか弟が増えたみたいだなぁ」
灰原さんのお兄ちゃんは灰原さんが言ってたとおり、とっても優しかった。
僕のことを抱っこしてくれたし、肩車もしてくれた。おやつの時間になったら灰原さんと雄お兄ちゃんと僕の三人で東京のちょっとおしゃれなお菓子を食べて、僕と灰原さんの話も嫌な顔一つせず沢山聞いてくれた。
嬉しくて楽しくて、お兄ちゃんっていう存在がいかに素晴らしいかを知った。
「・・・僕も、雄お兄ちゃん欲しい」
「お!嬉しいこと言ってくれるなぁ」
ぐりぐりと頭を撫でられる。欲しい、ずっと僕と遊んで欲しい、僕に優しくして欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい!
「雄お兄ちゃん、これあげる」
「これって・・・お守り?」
「ママが、欲しい人にはこれあげるのよって」
「えーっと・・・よくわからないけど、有難う!大事にする!」
ちりめんの小さくて可愛いお守り袋を雄お兄ちゃんにあげたら、灰原さんが「お兄ちゃんばっかりずるーい!」と言った。お守りは雄お兄ちゃんにかあげられないけど、後日代わりにちりめんで出来た髪飾りをプレゼントした。
雄お兄ちゃんはそのまま東京に帰っちゃってとても寂しかったけど、あのお守りがあれば大丈夫。
ママが言ってた。ママや僕はこれだけしか出来ないけど、その代わり何より強力な『おまじない』なのよって。
ママもパパをこれで手に入れたんだって。だからきっと、雄お兄ちゃんは僕のものになる。嬉しいなぁ、楽しみだなぁ、早くその日が来ないかなぁ!
そうやってわくわくして待っていると、次のお休みの時に雄お兄ちゃんが僕に会いに来てくれた。今日は灰原さんは一緒じゃない。
「えっと、○○くん・・・あのお守りなんだけど、破けちゃったんだ。けど!このお守りのおかげで何だかよくわからないけど助かったんだ!有難う!」
「お守り、破れたの?」
「・・・ごめん、折角くれたのに」
「ううん!いいの!それでいいの雄お兄ちゃん!」
お守りが破れた。あのお守りはミサンガと同じ。破れたら僕の願いが、雄お兄ちゃんが欲しいっていう願いが叶う!
「でも凄い不思議だったよ。○○くんにはあまり詳しく教えてあげられないけど、きっと死んじゃうんだろうなって怪我をしたのに、お守りが破れた瞬間、全部が全部綺麗に戻ったんだ。そしたら○○くんのことを思い出して、会いに行かなきゃって思ったんだ」
「うん、うん」
「何でだろう、○○くんのことがふと頭の中にちらつくんだ。東京から帰ってきて、真っ先に○○くんのところに来ちゃったんだ」
僕は笑顔で雄お兄ちゃんの腰に抱き着いた。
「それはね、僕が雄お兄ちゃんが欲しいって願って、雄お兄ちゃんを生き返らせたからだよ!」
「やっぱり僕、あの時死んでたんだ」
「交換!雄お兄ちゃんは死なずに済んだ。これからも、僕が生きている限りは雄お兄ちゃんは死んでも生き返れるよ!だからねっ、だからねっ!雄お兄ちゃんは僕のもの!」
「交換・・・あぁ、そういう『対価』なんだ。・・・うん!わかった。命の恩人の頼みだし、僕は○○くんのものになる」
「・・・いいの?」
吃驚した。まさかこんなにすんなり受け入れて貰えるとは思わなかった。
ママはパパが手に入るまで随分と苦労したって言ってた。パパはもうママのものなんだよって何度も言い聞かせて、何度も何度もわからせて、わからせて、わからせて・・・漸く今の『ママを愛するパパ』が完成したって言ってたのに。
こんなに簡単で大丈夫なのかな?まさか雄お兄ちゃんが僕を騙そうとしているなんて無いよね?大人しく従ったフリをして、僕を置いて何処かへ行ってしまったりなんかしないよね?
「嘘なんか吐いてないって!だからそんな不安そうな顔しないで」
ぽんっと頭に手が置かれた。
本当に?雄お兄ちゃんは本当に僕のものになる?
じっと雄お兄ちゃんを見つめていたら、ひょいっと抱き上げられた。
「僕は○○くんのものになる。約束する。けれど一緒にいるために・・・○○くんには僕と一緒に来てもらわないといけないんだ。ごめんね、○○くんは命の恩人なのに」
「ううん、いいよ。雄お兄ちゃんがちゃんと僕と一緒にいてくれるなら。ママを愛するパパみたいに、僕を大事にしてくれるなら。あのね、あのね、雄お兄ちゃんは僕のものだけど、僕も雄お兄ちゃんのものなんだよ?」
歩き出す雄お兄ちゃんに首に腕を回し、ぐりっと顔を寄せる。
ママはきっと僕が雄お兄ちゃんについて行くことを止めやしないだろう。だってママもそうやって欲しい人を手に入れたんだから。
「雄お兄ちゃんは僕の」
「うん」
「雄お兄ちゃんが嫌って言っても、僕のなんだからね」
「嫌なんて言わないよ」
「でも、パパはたまに言うよ。こんなはずじゃなかった、心と頭が滅茶苦茶だって」
「うーん、けど僕は嫌じゃないよ。吃驚したけど」
「・・・本当?」
「本当」
本当かな、信じていいかな。
僕は雄お兄ちゃんに抱っこされながら、本当だったら嬉しいなぁと頬を緩めた。
・欲しいものは何としてでも手に入れたい系ショタ
灰原妹の同級生(小学校低学年)。
本来訪れるはずだった死を『なかった』ことにする対価として、灰原をゲットした。
お守りは呪具のようなもの。持ち主の何らかの『不幸』をほぼノーリスクでなかったことにできる代わりに、術者のことが頭から離れなくなり次第に自身の『所有権』が誰のものであるかを理解する、その程度の能力。命が助かるなら自身の所有権が他者に渡るぐらいノーリスクと同じだよね理論。
経緯は違えどほぼ同様の方法でパパを手に入れたママからの英才教育を受けているため、ショタながらにイカレた感性をしてる。
驚くほどすんなり灰原が手に入り、逆にちょっと不安。
頭を撫でられたり抱っこされるのが好き。甘えたいお年頃。
実はご先祖様が大昔に神様を契りを交わしていたかもしれない。
戦う系のことは出来ないくせに、腕利きの術師でも解呪できないような縛りを相手に施すことが出来る。
・ショタの所有物になった好青年
可愛い妹の同級生が自分によく懐いてくれててにっこり。けれどまさかがっつり所有権を主張されるとは思わなかった。
明らかに死んだのに外的な力によって蘇った。原因に心当たりはないかと聞かれ、うっかりショタのことを話しちゃう。結果、ショタを高専に連れ帰ることになる。呪術の世界に引き込んでしまった、と少し負い目ができてしまった。
まだ子供だから「あれも欲しい」「これも欲しい」と目移りし能力を乱用する可能性があるため、灰原がきちんと見張っておく決まりになっている。
序盤のうちは『可愛い妹の同級生』という認識だけれど、一緒に居続けることによって少しずつ絆されていく。
「○○は僕のことが大好きだなー、僕も○○が大好きだからな!」
「本当に?雄お兄ちゃんは本当に僕が好き?嘘じゃない?」
「嘘なわけないだろ!大好きだよ、○○」
元々嘘ではない言葉は、言い続けることによってより深い意味を持ち始める。
「・・・○○、○○は僕以外いらないだろ?な?」
たぶんそのうち灰原の方からも独占欲が生まれ始める。
・同期が死ぬ瞬間と生き返る瞬間を見てしまった未来の脱サラ呪術師
その後実家に帰ったかと思えばショタを連れ帰ってきて同期を前に、うっかり目が死んだし通報もしかけた。
ショタからは「健人お兄ちゃん」と呼ばれ、そのうち「・・・健人お兄ちゃんも優しい」と言われ、お守りを渡されることもあるかもしれない。でもさり気なく灰原に邪魔されるかもしれない。苦労人。
相手との相性の良し悪しによって能力の効き具合が異なる。
ショタのママとパパは相性が悪すぎて和解(洗脳)に随分時間がかかった。今でもたまにパパが我に返ることがある。パパが一番の被害者かもしれない。
灰原とショタの相性は結構良い。元々灰原がショタに対して悪い印象を持っていなかったこと、まだ子供のため警戒心が薄くできたことなど、運が良かった。
2020.12.10戻る