■特異点『未来閉鎖都市 月見台』
とある小さな特異点で出会ったサーヴァントは、自身の『○○』という名前以外は殆ど何も覚えていなかった。
自身が何者であるかわからず、襲い掛かってくる特異点の敵をただ只管に薙ぎ払っていた彼は、カルデアを『味方』として認識してくれた。
仮契約を結んで、一緒に戦って・・・
特異点で出会った協力サーヴァントが実は今回の黒幕でした、という展開はもう何度も体験してきた。けれども、何も覚えていなくて苦労しているはずなのにこちらを気遣って時には迷いなく盾になろうとする彼を疑うことはしたくなかった。
マシュも同意見で、二人揃って彼に積極的に話しかけた。会話をするごとに、ふと何かを思い出したように彼が口にする言葉。それをもとに、マシュが彼の正体を探してあげている。
自分にしてあげられることは何だろうか。マシュほど知識に優れているわけでもないため、会話から彼の正体を見つけ出すことは難しい。出来ることと言ったら、彼が興味を示したあやとりを休憩の間一緒にしてあげることぐらい。
「○○ってあやとり滅茶苦茶上手だよね」
「そうかなぁ」
「いや本当に凄い。ほうき、流れ星、からの東京タワー」
ただの輪っかが次々と形になっていく。思わず見入っていると「はい、四段はしご」とまた次の形になった。
こちらが褒めると眼鏡の向こう側の目元を少し赤くして照れる彼の可愛らしさにほっこりしていると、ふと彼が「でもなぁ、あやとりは将来なんの役にも立たないしなぁ」と困ったような声で呟いた。
「役に立つとか立たないとかじゃなくて、得意なことがあるっていいことじゃないの?」
「マスターは優しいなぁ。僕が子供の頃は、あやとりで遊んでる暇があるなら勉強しろってよく怒られたな、ぁ?」
多分本人も無意識に言ったのだろう。自分で自分の台詞に驚いていた彼は「成程、僕は子供の頃、勉強よりも遊ぶことが好きな子供だったのか」と緩く笑った。
「あやとりが得意で勉強よりも遊ぶことが好きな英霊かぁ」
「ははっ、後は射撃が得意。おかげでアーチャーとして頑張れてるよ」
そうそう、○○は射撃も得意。銃であればどんな形のものでも簡単に扱えてしまう。
カルデアに連れて帰ったら、ビリーと良い勝負しそうだ。
射撃の腕で名前が残っている歴史上の人物は数多くいるらしいけれど、どの人物も○○にはイマイチ当てはまらない。
「マスターには苦労をかけるね。せめてこの特異点での事件が解決するまでには思い出せたらいいなぁ・・・ふわぁ」
小さく欠伸をした○○。そういえば○○はよく眠そうにしてる。
「疲れているなら寝てもいいよ」
「んー。一度寝たら、うっかり寝坊をしそうなんだ。どんなに起こされても起きれない自信がある」
緩く笑った○○はあやとりの紐をポケットに仕舞いこみ、小さく息を吐いてから大きく伸びをした。
「さて、休憩は此処までにしよう。・・・早く特異点をどうにかして、マスターとマシュをカルデアに返してあげないとね」
かちゃりと腰のホルダーから銃を取り出した○○は「マスター、僕から離れないで。もしものことがあっても、僕らには都合の良い便利な道具なんて無いんだから」と笑う。
此処を少し離れれば、手の平程の大きさしかない癖に的確にこちらを転ばせてくる謎のヒットマンとか、手にはめた筒のような武器から空気の弾を撃ちこんでくる敵とかがいる。
どれもこれも殺傷能力はないものの、明確な敵意があった。
○○が「あの敵は、確か対象を三回転ばせれば一旦ストップするはず」と言っていた通り、謎のヒットマンがこちらを連続で攻撃するのは三回まで。○○自身は何故そんなことを知っていたのかわからないらしいけれど、○○の記憶にこの謎のヒットマンや武器たちが関わっているのかもしれない。
「さぁマスター、僕にはマスターを自由な空に連れて行ってあげることも、不思議なドアで遠くへ連れて行ってあげることもできないけれど、君を護りきることを誓う。だから、どうか僕を信じてね」
「勿論だよ、○○!」
こちらの返事に少しほっとしたような顔をした○○は、きっと最後までカルデアの味方でいてくれると思えた。
信じてるよ、○○。
特異点『未来閉鎖都市 月見台』
あったかもしれない『未来』の生れの果て。とある少年ととあるロボットが出会い、共に過ごした過去の結末。
・のび太成代り主
射撃とあやとりが得意で、実は昼寝も大好き。穏やかな性格。
記憶はないけれど、この特異点をどうにかしなければならないと感じている。
とあるロボットを止めるために召喚された、この特異点における重要人物。
・人類最後のマスター(性別未定)
死の危険性は低いけれど事件を解決するまではけして逃れることの出来ない謎の特異点にマシュ共々迷い込んでしまった。
○○と出会う前、謎のヒットマン(ころばし屋)に何度も転ばされた。
・とあるロボット
ロボットは少年を大切に想っていた。自分がいないと何もできない少年に呆れながらも自分に頼ってくれる少年に感謝していた。
けれど別れは突然訪れた。未来が崩壊したのだ。名も知らぬ時空犯罪者のせいだ。未来が消滅すれば自分はもう此処にはいられない。
別れの言葉も告げることが出来なかった。
ロボットには深い後悔がある。別れの晩、少年に放った「もお!僕に頼ってばかりじゃなくて、少しは自分でどうにかしろ!このままじゃ君はろくな大人にならないぞ!」という言葉。
本当は少年が頼ってくれることが嬉しかったのに。もっと頼って欲しかったのに。これからもずっと、ずっと、ずっとずっとずっと・・・!
・・・だからロボットは、少年と永遠にいられる『楽園』を作り上げたのです。
とあるロボットは、少年が未来において再び『未来』を築いたことを知らない。
・野比○○
若くしてロボット工学でその名を知らしめた天才。
介護・育児を補助するロボットの開発研究をすすめ、人工知能による『成長する』ロボットの完成を望んでいた。
人並みの寿命しかない彼だったが、業界において様々な基礎を残した。
その後、彼の功績のおかげで『未来』は一気に創り上げられる。
・・・彼の死後に残った遺品のノートには、謎の青いロボットの設計図があり、子供からも親しまれやすいその見た目の育児ロボットが遠い未来で量産されることになる。
2020.11.24戻る