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■全然悪気は無いけど無神経なことしてくる桑島成代り主



親兄弟を鬼に食い殺され、憎悪に身を焼きながら鬼殺の道を進み、鳴柱となり更に鬼を殺し、殺し、殺し、自らの未熟さ故に片足を失い柱を降り、その後は育手として鬼殺隊の役に立つことを決めた。

幾人もの弟子を輩出し、幾人もの弟子の死の知らせを聞いた。勿論死なずに鬼殺隊として励んでいる弟子もいるが、死んでしまう弟子の方が圧倒的に多かった。そもそも鬼殺の道は、常に死と隣り合わせだった。

どこの育手も同じようなことを経験し、悩み、育手を辞めることだってあった。知人の元水柱は一時は弟子を取るのをやめ、かくいう私も少し弟子を取ることを躊躇うようになってしまっていた。

けれどそれでも弟子に欲しいと、自分が育てたいと思う若人はどうしても現れてしまう。

驚くことにそう思ってしまった若人は近年二人も現れた。

一人は他者へ嫉妬しやすいものの努力を惜しまず私の教えを守ろうとする真面目な弟子、もう一人は少々逃げ癖はあるものの才能と扱きがいに溢れる弟子、どちらも順位が付けられないほど素晴らしい弟子で、私はこの二人こそ私の後を継ぐに相応しいと思った。

私はきっと一人だったから未熟だったのだ。あの子達二人が協力すれば、私なんかあっという間に超えて、より多くの鬼を滅殺してくれるだろう。

二人で共に鳴柱を背負う未来を想像すればうっかり笑いが込み上げてくる。いけないいけない、弟子のこととなると気持ちが緩んでしまうのは近頃の私の悪い癖だ。もっと厳格にならねば。

・・・でも少しぐらい、夢を見たっていいだろう。どうせ私の老い先は短いのだから。文通相手の元水柱からは「お前は殺しても死なん」と言われたが、流石に寿命では死ぬ。

「獪岳、善逸、ちょっと来なさい」

内心うきうきしながら素振りをしていた弟子二人を呼びつける。

獪岳がすぐさま「何ですか、先生」と寄ってきて、少し遅れて善逸が「なに、じいちゃん!」と駆けてくる。今日も弟子たちが元気で私は嬉しい。

「二人の部屋についてなんだが」

実は二人を後継者にすると決めた時から、私はこっそり計画していたことがある。

もっと二人を、二人で一つ感溢れる感じにしたい、と。二人とも可愛い弟子。私は二人に同じだけの愛をもって接してきたが、二人にも互いを思い合って欲しいのだ。


「二人の部屋の壁をぶち抜いて、二人部屋にしたいと思ったんだが、いいだろうか?」


「え?何言ってんのじいちゃん、ボケた???」

善逸が顔を引きつらせて言う。まさか嫌なのだろうか。ちらりと獪岳を見れば、獪岳は真顔で「無理無理無理」と小さく呟いていた。

なんと。まさか嫌がられるとは思わず、つい先日町の大工に依頼をしてしまった。

「え?待ってじいちゃん、何でそんなそわそわした音立ててるの?その『やっちまった』って音も止めて!?もしかしてもう始まってる!?この修行中に部屋ぶち抜き工事始まってる!?」

善逸の言葉を肯定するように屋敷の方から壁をぶち抜く音がした。

「嫌あぁぁぁあああァッ!素振り中に何か変な音するって思ったら工事の音だったぁぁぁああァッ!」

「先生、なんで、一言、相談・・・」

叫ぶ善逸と死んだ目でぶつぶつ呟く獪岳、私は「もしかしてやっちまったのか?」と思った。修行だけでなく普段の生活や就寝時も一緒になればより一層仲良くなれると思ったのは私の余計なお世話だったのだろうか。

善逸も獪岳も困惑はすれど最終的には受け入れてくれるものと思ったが、どう見たって嫌がっている。そんなまさかだ。

「む、むぅ・・・聞いての通り既に工事は始まってしまっている・・・ゲンさんは仕事が早いからなぁ」

「ゲンさん誰!?ひぇっ!?獪岳が嫌悪と憎悪で今にも嘔吐しそうな音出してる!」

「何!?具合が悪いのか獪岳!しっかりしろ!私がついているぞ!」

「元凶はじいちゃんだけどね!?」

よろっとしている獪岳を抱きしめ、背中を撫でる。嘔吐しそうなら私の着物にでもなんでも吐いてしまえばいい!可愛い弟子の看病ぐらい私は出来る!

「まさか二人部屋が嫌とは・・・そうか、まだ個人の時間を大事にしたい年頃だったか。私の若い頃は周りが死にすぎて生きた人間がそばに居ないと落ち着かない時があったから、良かれと思ったのだが・・・」

「重い!理由が思ったより重かった!」

「元水柱にはその頃から世話になったなぁ。・・・はっ!そうだ、良い事を思いついた!」

私は屋敷の方を向き、大きな声で叫んだ。

「ゲンさんやーい!ついでに私の部屋も二人の部屋同様ぶち抜いておいてくれー!」

任せろー!という返事に満足していると、善逸と獪岳が微妙な顔でこちらを見ていた。

「これで私と三人部屋で楽しいな!」

「・・・じいちゃん、思いつきで壁ぶち抜くのは良くないと思う」

ぐったりした表情の善逸に「確かに思いつきだが、二人より三人ならもっと楽しいと思っただけだ」とその頭をぽんぽん撫でた。

相変わらず私の腕の中でぐったりしている獪岳の背中もぽんぽん叩けば、獪岳が小さく「・・・先生が真ん中でお願いします」と言った。

「なんと!私が夜は川の字で寝たいと思ったことを察したのか!流石は獪岳、私の言いたい事をよく理解できている!よしよし、私が真ん中で寝よう」

大興奮で獪岳を抱き上げてくるくる回れば、善逸がちょっと羨ましそうにしていた為、背中にくっ付かせて二人同時にくるくる回した。二人を回すぐらい軽い軽い!




弟子二人が可愛過ぎて頭のネジが緩んでしまったおじいちゃん先生。

実は現役時代に戦った鬼の血鬼術のせいで見た目の老いが遅い。でも内蔵とか筋肉とかは年相応に老いていくし寿命は一般男性。見た目はおじいちゃんというよりおじさんだから、町に弟子を連れて行くと周りにお父さんと勘違いされる。内心嬉しい。

たまにはしゃぎ過ぎてギックリ腰する。元水柱と仲が良く、よく文通する。

兎に角弟子二人を仲良くさせたくて、よく獪岳の地雷を踏みまくったり善逸を絶望させる。その代わり全身から溢れてる弟子大好きオーラで半ば強引なアフターケアをするから、ギリギリなんとかなってる。

部屋をぶち抜き、獪岳と善逸の持ち物だけ色違いのお揃いにさせたり、二人一緒に修行させたり、獪岳のストレスはマッハかもしれない。今にも吐きそうな獪岳を見て善逸があわあわする。

でもおじいちゃんの愛が露骨でど直球で根深いから、殺し合いに発展しそうな程の嫌悪はお互いにはない、はず。おじいちゃんが一緒なら、なんとか会話出来るぐらいには関係が作れている。最近おじいちゃんの余計なお世話に「・・・先生って、話聞かないよな」「うん・・・俺らを愛してくれてんのは丸わかりだけど」とちょっと会話できた。


親兄弟を殺し、仲間を殺し、かつての弟子たちを殺した、そんな鬼が憎い。鬼を目の前にすると憎悪が溢れて空気で弟子を泣かせかける。

だって仕方ない。もうおじいちゃんの手元には、友人一人と弟子二人しか残ってないから。

元水柱からの手紙で「人を喰わない鬼がもしいたらどうする?」という感じの手紙が送られてきて「今後も人を喰わないように殺す」と返した。のちに善逸からの手紙で鬼連れ隊士と人を喰わない鬼のことを知り、あの時の手紙の意味を理解。もしかすると元水柱は自分に相談したかったのかもしれないと思い、後日遊びに行って飲み明かした。

鬼は嫌いだけど、元水柱たちが何かあれば腹を切るとまで言った存在をどうこうしようとは思わない。でも多分対面したら一瞬うっかり殺しかける。引退してるけど元柱だから危うく本当に殺されかける。後で弟子や友人に怒られてしょんもりしたおじいちゃんを獪岳が慰める。

・・・そんな先生の憎悪を知ってるから、獪岳はきっと鬼にはならない。だって大好きな先生に憎悪を向けられたくないから。



2019.12.22




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