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■とある刀装兵の話



戦場で死した名もない兵士の霊
不特定多数のうちの誰か一人
気付いたら刀剣男士の肉盾役になってて吃驚
でも使ってくれる刀剣が皆揃いも揃って美人さんだから全力で守るよ!
刀装を仮の肉体にしてるだけで刀装壊されてもその刀装から消えるってだけで死にはしないけどだからって乱雑に扱われるのは嫌

戦場でしかその姿は現さず、基本喋れない。
筆談とかはできるかもだけど、戦場でそんな暇はない。

名のある武将でもなければ歴史に名を遺した武人でもない、そこそこの戦果を持つそこそこの兵士
でもきっと誰かの心には残ってたから死した後刀装兵になった



※とある刀装と長谷部の話

「長谷部、この書類をそっちの机に置いて」

「かしこまりました」

既に判を押した書類を長谷部に差し出せば、長谷部がそっとその審神者へと近づく。

書類を受け取るために伸ばした手。少し傾いた上半身。『それ』は重力に従い、ぽとりと畳の上へと落ちた。

長谷部の懐からぽとりと転がり落ちた金色に審神者は目をぱちりと瞬かせる。

「あれ?戦場でもないのに刀装装備して、どうしたの?」

それは刀剣が戦場における補助の一つとして身に着ける刀装だった。

転がり落ちたそれを長谷部は手早く掴み拾い上げる。

「いえ・・・主から賜ったものですから、常に身につけておかねばと思いまして」

刀装を掴むとは逆の手で書類を受け取りながらの長谷部の言葉に審神者は照れくさそうに「そっか」と笑って仕事に戻った。

自分に背を向けた自らの主のその後ろで、長谷部は金色に輝く刀装を見つめる。

ひとたび戦場に出れば刀装は人の形を成し彼ら刀剣を守る。

何の迷いもなく身を挺し、守り、そして消えていく。

消耗品でしかないその刀装を、長谷部は未だ壊さずに使っている。

種類は歩兵。他の刀装からすれば特出した能力もない兵。

「そんなに喜んでくれてたなら、もっと別の刀装も用意しようか。投石とか重歩とか」

くるりと振り返って笑う審神者に「・・・いえ、俺にはこれで十分です」と長谷部は首を振る。手の中の刀装は離すまいと強く握られている。

そんな長谷部に審神者は不思議そうに「そう?」と首をかしげる。

「はい。お心遣い感謝します、主」

にこりと笑って頭を下げ、刀装を大事そうに懐にしまい込んだ長谷部に審神者は「そっかそっか、長谷部は物持ちが良いね」と上機嫌に笑った。誰だって、自分があげたものが大事に扱われていれば嬉しいものなのだ。


「・・・状況を報告しろ。怠慢は許さんぞ」

長谷部率いる部隊が戦場に立った瞬間、それぞれが持つ刀装が輝きその中に宿った『それ』は姿を現す。

投石を手にした兵、弓や銃、槍を手にした兵、様々な兵が敵側の兵と対峙する。

長谷部の隣にも兵士が一人いる。投石を持つわけでもなく、弓や銃や槍を持つわけでもない、ただ一振りの無名の刀を手にした兵士が。

言葉こそ発しないがちらりと長谷部を見て、その口元ににこりと小さな笑みを浮かべる。

開戦と同時に相手側の弓兵が放ったであろう矢が飛んでくる。しかしその矢は長谷部に届くその前に横から叩き折られた。

長谷部と兵士の目が合う、兵士はその口元に先程の穏やかなものとは違うにやりとした笑みを浮かべるとそのまま身を翻し敵の方へとかけていく。

声もなく、ただ目の前の敵刀装兵を屠る兵士。その兵士が切り開いた道を掛け、長谷部はその刃を歴史修正主義者へと振り下ろした。


敵部隊を全て殲滅すれば此度の戦は終わる。

刀装を装備していたおかげで刀剣たちに目立った外傷はないが、それを庇った刀装がいくらか砕けた。

しかしそれは当たり前のこと。長谷部の隣には変わらずその兵士がいるが、これも所詮は消耗品で、この兵士ともいつか別れる時が来るのだろう。

なまじ長いことこの刀装の世話になっていたせいか変な愛着がわいてしまったのだと長谷部自身も理解している。

だが、ついつい思ってしまうのだ。これからの戦場でも、自分と共に戦う兵士がこの刀装兵であったならと。

「・・・怠慢は許さんぞ」

戦いが終わると、長谷部はまるで言い聞かせるように言う。隣にいる刀装兵が怠慢をして敵に壊されてしまわないように。

長谷部の言葉に兵士はにこりと笑うとそのまま金色の刀装の中へと消えた。



(まだその刀装は壊れない)



2018/5/7




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