双識兄さんが死にました。
曲識兄さんが死にました。
軋識兄さんは死にました。
零崎一賊三天王と言われた彼らがこのザマだ。
零崎に仇名す者は皆殺しだから、僕は一生懸命兄さん達を殺した奴等を殺そうとしたのに・・・
双識兄さんを殺した人はもう死んでました。
曲識兄さんを殺した人は人類最強で手も足も出ませんでした。
軋識兄さんは“零崎”としては死んでしまいましたが、身体は生きてます。
けれども、結局僕は兄さんたちを全てなくしてしまいました。
無様です。僕は、とーっても無様・・・
「・・・死にたいなんて、初めて思いました」
「何馬鹿なこと言ってんだよ」
「・・・あぁ。人識君ですか」
何時の間にか傍にいた人識君。
彼も僕の家賊。
大切な大切な・・・僕の家賊。
「家賊残して死ぬ気かよ、兄貴」
ニヤッと笑っている人識君に僕は肩をすくめる。
「死にたいって思っただけだよ。本気で死のうとしてたわけじゃない」
「そうか?俺は、兄貴が今にもそのナイフで自分の喉を切り裂くように見えたけど?」
そういえば、喉元にナイフを当てていた気がする。もちろん、まだ刺してはいなかったけど。
人識君のその言葉にクスリッと笑いながら「わざわざ止めに来てくれたの?」と尋ねた。
「別にー?俺は、兄貴の死に様を見に来ただけだし」
「クスクスッ。そういいながらも、僕の手からナイフを奪おうとしてるけど?」
「成り行きだって」
「どういう成り行きなのかな?」
「ぅっせーよ、馬鹿兄貴」
拗ねたような顔をしながら僕の手からナイフを分捕った人識君に笑いがどんどん込み上げてくる。
「お兄ちゃんに死んで欲しくないのかな?人識君」
「・・・兄貴、なんかアイツに似てきてるぞ」
アイツとは、双識兄さんのことかな?
「クスクスッ・・・『悪くない』だね」
あえて曲識兄さんの真似をしてみれば、人識君は勘弁してくれという顔をする。
「さっさと帰るぞ」
僕の手をグイッと引っ張る人識君。
「ねぇ。さっきの質問の答えは?」
「はぁ?」
「僕に死んで欲しくなかったの?」
「・・・・・・」
ムスッとした顔になった人識君は・・・
「兄貴が死んだら、新しく出来た妹の面倒、俺一人じゃ見なくちゃなんねぇーだよ」
「あぁ。舞織ちゃんだっけ?」
「そーだよ、馬鹿兄貴」
ふんっと顔を背けた人識君に「そっか」と笑う。
「もしかしたら、僕が死んだら悲しくなっちゃうからかな?って思ったよ」
「自惚れんな、馬鹿兄貴」
ペシンッと僕の頭を叩いた人識君。
思いのほか、それはとても優しい感じがした。
優しい自殺否定