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「君だったのか!!!!」



放課後、帰りにCDショップにでも行こうかなぁーと思っていた時、そんな声が聴こえた。

知り合いの声じゃなかったし、たぶん自分じゃないなと思いながら昇降口に向かって歩けば「待ってよ!」という声。


まさか俺か?と振り返れば、そこには“あの”風間望がいた。




やつの噂はたまに耳にする。

女子なら誰にだって優しくするが、男子に対する態度が悪いだとか・・・ナルシストでどうしようもない馬鹿だとか・・・


まぁ、要はモテる男に対する男の僻みが、俺の耳にも届いていた。ちなみにこれを悔しげに話していたのは、俺のクラスメイト達だ。


・・・俺もモテない男の一人だからと話に加わろうとしたら「手前、ふざけてんのか!!!」って怒鳴られ、入れて貰えなかった。何故はぶられた。ふざけんな。



「やっと見つけた!!!」

兎に角、そんな風間が俺の目の前にかけてきて、満面の笑みを浮かべるんだ。

驚かない方が可笑しい。



「・・・え?」

突然のことで俺は首をかしげる。


「探していたんだ!君の事を!!!」

がしっと握られた手。

目の前には贔屓目なしで整っている顔。



成程、こりゃナルシストにもなるなぁとほぼ現実逃避気味に考えていると、目の前の美形はにっこりと微笑む。

意味がわからぬままに引き攣った笑みを返せば、相手は「やっぱり!」と嬉しそうな声を上げた。





「やっぱり君が僕の婚約者なんだね!!!!」

「・・・ん?」





こんやくしゃ?





「長官に言われたんだ!どうやら僕の婚約者が記憶喪失のまま地球人として生活しているって!!!」



長官?記憶喪失?地球人?

え?え?何ソレ意味わかんない。


俺、生まれも育ちも地球なんすけど。




「ぇーっと、あんた・・・」

「地球での名前は風間望!」


いや、名前は知ってるけど・・・




「じゃ、じゃぁ風間・・・人違いじゃないのか?」

「人違いなわけない!君は名前って名前だろう?」


「ま、まぁ、そうだけど・・・」


だが、名前なんて名前、探せば他にもいるはずだ。

特にこの学校は大きく生徒数もハンパない。名前って名前も一人二人いるはずだ。


なのに、何故ピンポイントで俺をその婚約者だと思った。

しかも俺は男だぞ。風間、お前の目は節穴か。





「まさか婚約者が男だとは思ってなかったけど、それでも良い!結婚しよう!」

あ、男なのはわかってたのか。


・・・それでも良いとか、コイツは馬鹿か。






「そもそも、スンバラリアに男同士が結婚しちゃいけないルールはないからね!」

いや、何処だよスンバラリアって。


「好き好き!名前、僕と結婚しようよ」

抱きついてきてにこにこと笑っている風間に、俺は動揺を隠せない。


知り合ってほんの数分の相手に結婚しようと迫られるなんて、数分前の俺は想像できただろうか。まず無理だろう。


風間が若干俺より小さいとはいえ、俺も風間もなかなかに長身だ。

デカイ男二人が抱き合ってる光景なんて、いろいろアウトだろう。





「は、離れろよ」

「嫌だよ!折角会えたんだから」


風間が甘えるように俺に頬擦りをしてきて、俺の困惑はピークになる。

何故俺は初対面の男に抱きつかれて頬擦りされているのだろう。


どうにかこの状況を脱するべきだ。

が、風間は常識が通じない。まだ少ししか喋ってないが、早々に俺の中の風間は“変人”だ。





「べ、別に婚約者だからって、無理に結婚しなくても・・・」

「無理なんてしてない!」


わぁお、凄い剣幕。

どうしよう。こいつ、馬鹿だけどしつこいぞ。馬鹿だけど。





「そもそも俺は風間のことよく知らないし、お前だって知らない人間と結婚なんて・・・」

・・・何故俺は真面目にコイツの馬鹿な話に受け答えをしてやっているのだろうか。


初っ端からコイツの発言は可笑しいだろう。無視して帰れば良かったんだ。




「ぅ・・・」

抱きついている風間から軽く嗚咽が聞こえた。


ま、まさか泣いて・・・!?




「名前っ、うぅ・・・何で?何でそんなに拒絶するの?」


慌てて風間の顔を見れば、風間は涙目になりながら俺を見つめた。

きゅっと服を掴まれ、涙目上目使いで見つめられて・・・








「ねぇ・・・僕じゃ、駄目?」







「・・・・・・」

拝啓、きっと今頃自宅で韓国ドラマを見ながらお菓子を貪り食っているであろうお母様・・・

男相手に大分揺らいでいる馬鹿な息子をお許しください。



とりあえずいい訳させてもらえば・・・



風間の涙目、反則です。



「・・・駄目じゃない、かも」

「本当!?」



・・・お母様、どうやら俺は親孝行できそうにありません。




婚約者は宇宙人




僕の婚約者がこんな素敵な人で嬉しいよ!と笑う風間に・・・

不覚にもきゅんときた俺は、やっぱり親孝行できそうになかった。




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