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現実は小説より奇なり。
意味は、現実とは時として小説の中よりも奇妙な予期出来ない出来事が起こるという意味だったと思う。
簡単に言ってしまえば――
「・・・現実って意味不明」
こんな感じだ。
「名字っ、頼むから喋らないでくれ・・・くすぐったい」
俺にぺったりとくっついている綾小路が擽ったそうに身を捩る。
どうやら今俺が喋ったせいで耳に息がかかったようだ。
綾小路が身を捩るせいで俺の圧迫感が増した。
何故圧迫感が増すのか?
それは・・・
「すまない、名字・・・巻き込んで」
綾小路と二人、ロッカーの中に隠れているからだ。
狭い狭いロッカーの中に野郎二人。
例え綾小路が俺より小さくとも、ロッカーに二人はキツイ。身動き一つ取れやしない。
同じクラスの綾小路が大川っていうそりゃもう臭い臭いヤツから執拗に追いかけられているのは当然知っている。
綾小路が逃げてきた先、運動部室のロッカー前に居た俺は、朝の自主練を終えて一人着替えを済ませていた。
朝からご苦労だなぁーと思っていたら「名字っ、助けてくれ」と叫ぶ綾小路。
はぁ?と意味が理解できない俺と、その間にビクッと何かを察知した綾小路は、ロッカーの中に隠れることとなった。
現在、ロッカーの中で二人して息を潜めている。
ていうか、そもそも・・・
「・・・俺まで隠れる必要ないだろ」
「っ、だ、だから喋るなっ」
綾小路に腕を引っ張られるがままに一緒にロッカーに入ってしまったが、よく考えれば俺が隠れる必要なんてこれっぽっちもない。
もし大川がやってきて「ゆっきー知らない?」と問いかけてきたら適当に嘘の場所を教えればそれで済む話だ。
咄嗟の行動だったにしても、迷惑極まりない。
「・・・つぅか、俺も臭いだろ。さっきまで部活で汗かいてたんだぜ?」
擽ったいのか小さく身体を震わす綾小路は「だ、大丈夫だ」と小さな返事をする。
着替える前に汗もしっかり拭ってはいるものの、鼻が良い綾小路には辛いだろうに。
「名字は・・・そんなに悪い臭いじゃない」
「へぇー」
「むしろ、その・・・落ち着く」
「・・・自分の体臭が臭くないってわかっただけでも儲けもんだな」
綾小路がおかしなことを言っているが、そこはあえてスルーする。
「ゆっきー!!!!!」
バタァァァアーンッ!!!!!と部室の扉が開かれた音がした。
ビクゥッと震える綾小路がぎゅぅっと俺の胸に顔を押し当ててくる。
俺はその様子に呆れるしかない。
が、確かに臭いな。ロッカーの中だというのに、外にいるらしい大川の臭いを感じてしまう。
流石に顔を顰めるしかない俺だが、現在綾小路のせいで腕も全く動かせない。よって、鼻が覆えない。
「ゆっきー?どこー?」
・・・臭いぞ。どうにかして鼻を覆いたい。
視線をきょろきょろと動かした俺の目の前にあるのは綾小路の首筋。
「ひっ!?名字・・・」
「・・・俺だけ悪臭を嗅ぐとかふざけんな」
俺は綾小路の首筋に顔を押し付ける。
綾小路だって俺の胸に顔を押し当ててるんだから相子だろ。
小刻みに震えている綾小路は、流石はニオイに敏感なヤツというか・・・やっぱり自分の体臭とかにも大分気を付けてるんだろうなぁ。結構・・・
「・・・良い匂い」
「っ!?」
すんっと鼻を動かすと、今まで震えていた綾小路がぴたっと動きを止めた。
どうした?もう大川は消えたのか?
「・・・綾小路?」
「・・・・・・」
だんまりだ。
返事の無い綾小路に首を傾げつつ、俺は外の様子に耳を澄ませた。
勝手に部室に入ってきてしばらく綾小路を探していたらしい大川は、既にいなくなっていたようだ。
「おい、綾小路。もう大川はいないだろう、さっさと出るぞ」
「・・・・・・」
「おい、綾小路・・・」
どうかしたのか?と綾小路の顔を見ようとすれば「み、見ないでくれ」と声を上げられた。
「い、今・・・見せられるような顔じゃないっ」
「・・・兎に角俺はロッカーから出たいんだが」
「わ、悪い・・・」
もぞもぞと動いてロッカーを押し開ければ、やっと圧迫感から解放される。
俺がふぅっと息をついていると綾小路は何故だかへなへなとその場に座り込んでしまった。
「どうした?」
「なっ、何でも、ない・・・」
「何でもないヤツが腰抜かすわけねぇだろ。大丈夫か?」
そう言いながら綾小路に近づいてみれば・・・
「・・・めっちゃ顔赤いけど、そんなに暑かったか?」
綾小路の顔が滅茶苦茶赤い。耳まで真っ赤だ。
目の前にしゃがみ込んで綾小路の額に触れれば、綾小路がビクッと震えて「え、えと、あー」と言葉になっていない声を出し始めた。
「ま、今日も大川から無事に逃げられて良かったな。まぁ・・・授業中は逃げられねぇだろうけど」
教室に帰れば嫌でも大川はいるし。
が、綾小路は俺の言葉など聞こえていないようで、一人「うー」だの「あー」とだのを繰り返している。
・・・こいつ、本当に大丈夫か。
「保健室行くか?」
「え、あ・・・平気だ」
「なら良いけどよ、俺そろそろ行くぜ」
すっと立ち上がろうとすれば「ま、待ってくれ!」と綾小路がそれを止める。
その顔は相変わらず真っ赤で・・・
「名字っ、その・・・また・・・一緒に、隠れてくれないか?」
「・・・ん?」
ぎゅっと握られた服。
目の前の綾小路は隠れることより・・・
隠れた時に起こる“何か”を期待しているような目をしていた。
小説より奇なり
・・・一体何を期待してるんだとかは、聞かないけど。
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