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『名字君って怖いよね・・・』

『何考えてるかわかんないし』

『絶対、不良友達とか沢山いるんだよね』

『なぁ聞いたか?噂だけどさ、名字って昔、強姦で捕まったことあるんだってさ』

『やだっ、怖い!!!やっぱりそういうことしてるんだぁ』





昔から人は俺の事を怖いと言った。

目を合わすだけでも泣きそうな顔をされ、悲鳴を上げられ、酷い時には失神され・・・



俺が口下手なのがいけないのだろう。

割と俺の見た目が不良寄りなのはわかっているが、俺は喧嘩を・・・況してや強姦なんてした事はない。全部ただの噂だ。


けれど噂にも尾びれ背びれがどんどん付けば、立派な本物になってしまう。全部全部嘘なのに、彼等の中では本当の話になってしまう。



デカイ図体もいけないのだろう。

出来るだけ人の視界に入らないように息を潜めているつもりでも、効果は無かった。


この手は別に人を殴ったことも無ければ、悪意を持って人に触れた頃すらないのに。



入学したての頃に目の前を歩いていた女子の落としたハンカチを拾い、渡すために女子生徒の腕を掴んだことがある。

その瞬間大きな悲鳴を上げられ、俺はすぐに職員室に連れて行かれる形になった。もう女子には触らない。怖いのはこっちなのだ。




・・・いっそ、耳栓と目隠しを付けて生活したらどうだろうか。

そうすれば、あんな酷い噂話を耳にすることも、人が畏れ慄いている目を見ることも無い。



嗚呼、でもそれは駄目だな。


だって・・・






「・・・名字君、あれ半分持ってくれませんか」


そんなことしたら、この子の声を聞くことも姿を見ることも出来なくなってしまうじゃないか。





教室の窓際一番後ろ、そんな場所に席がある俺の傍へわざわざやってきて、教卓の上のノートの束を指差して言う荒井君。俺のクラスメイトにして、唯一喋りかけてくれる子。


「・・・・・・」

無言で席を立ち、教卓の方へと歩けば荒井君が後ろからついて来た。


俺が動くたびに怯える様な素振りを見せるクラスメイトを出来るだけ見ないように、教卓の上のノートへと手を伸ばす。




あぁそういえば、今日の日直は荒井君と俺だったな。ならこれは、日直の仕事なのだろう。

忘れていた俺にわざわざ伝えに来てくれたようだ。有難い。



内心感謝しながら、俺は半分とは言わず、四分の三ぐらいのノートを手に取った。

荒井君は俺より小さいから、俺の方が多く持つべきだ。



「・・・半分で良いですよ」

何処か呆れた様な声を出す荒井君に俺は無言で首を振った。


荒井君はふぅっと小さく息をついてから、残りのノートを手に取った。




「職員室までなので、よろしくお願いします」

こくりと頷き、荒井君と共に教室を出る。


廊下にいた人たちが俺を見てぎょっとした顔をして脇に避けていく。哀しいけど、もう慣れた。

荒井君はそんな俺の隣で無言のまま歩いている。




荒井君はクラスでも物静かな子だ。

そして・・・俺を見ても怯えたりしない、凄い子。


だから俺は荒井君を一方的に気に入っている。


授業でペアを作る時、他のクラスメイト達は俺を怖がってしまって近づいてさえこないから、ペアは必然的に荒井君。

嫌な顔一つせずに俺のペアになってくれる荒井君は、早々俺にとって貴重な人だった。


会話も無く廊下を歩き、階の異なる職員室へと向かう。







「失礼します」

「・・・・・・」


到着した職員室に入れば教師たちがちらっと俺を見てからすぐに顔を逸らしてしまった。

別に問題を起こしたわけでもないのに、仮にも生徒に対して酷い扱いだ。




「先生はいないようです。ノートだけ置いていきましょう」

「・・・・・・」


若干俯きながら荒井君と共に目当ての机の上にノートを並べ、職員室を後にする。

その瞬間、あからさまな安堵のため息が耳に入ってきて、俺は耳を塞ぎたくなった。



隣の荒井君には悪いけど、俺は今すぐ何処かへ走り逃げてしまいたい。誰も俺を怖がったりしない場所へ・・・








「彼等はとても損をしていますね」








「・・・?」

突然口を開いた荒井君に目を向ける。

荒井君は心底可笑しそうに口元を歪めて笑っていた。



「貴方を姿形で決めつけて・・・だから、貴方がこんなに素敵な人だって気付けない」


その言葉に俺は大きく目を見開いた。




素敵な人?

それって、本当に俺の事なんだろうか。


荒井君は別の誰かのことを言っているのだろうか。



・・・もしも荒井君が俺の事を本当にそう思ってくれているなら、それはとっても嬉しい。





「まぁ、貴方の素晴らしさなんて、僕だけが知ってれば良いんですけどね」

ひひっと小さく笑った荒井君から目が離せない。


どうしよう。俺も伝えるべきなのだろうか・・・

声をかけて、怖がられたりしないだろうか。

荒井君はそんな子じゃない。頭ではわかっていても、なかなか口は動かない。


でもどうしても伝えたくなって、俺は動かない口を必死に動かそうとした。






「・・・荒井君」


「!・・・何ですか、名字君」



やっと出た声。

俺が突然声を出したからだろうか。

心底吃驚した面持ちでこちらを見た荒井君に、こっちまで驚いてしまう。


もう言葉は喉まで出かかっている。此処で飲み込むには、惜しい。




「俺も・・・荒井君の良さは、俺だけがわかってれば良いと思う・・・」


俺だけがわかってれば良いなんて、ちょっと烏滸がましいかもしれない。

けど言えた。何だかスッキリした。






「・・・名前君」

荒井君がこちらをじっと見つめている。





「今日・・・一緒に帰りませんか」

「!・・・荒井君が、良いなら」


「良いに決まってます。一緒に帰りましょうね」

「・・・・・・」


こくこくっと無言のままに何度も頷く俺に、荒井君はくすっと笑ってくれた。




やっぱり耳も目も塞げないや。

この子ともっと喋ってたい。






君の為に塞がない




あとがき

滅茶苦茶怖がられてる主人公。実害はゼロ。

人相がちょっと悪くて背が物凄い高いけど、内面は取ってもナイーブで優しい子。

・・・荒井君は彼のことを結構好いていて、時折彼が口にする純真無垢な言葉に内心悶えてれば良い。←
もしオタク荒井君なら、そのまま全力で萌えてれば良い。←




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