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父親の煙草を興味本位で吸った。

案外すんなり吸えたそれを、気付くと日常的に吸うようになった。


「見ーちゃった」


放課後の校舎裏でこっそりと吸っていた時だった。

突然そんな声が聞こえて振り返れば、そこにはクラスメイトの風間が立っていた。

「生真面目優等生の名前くんがよりにもよって学校で喫煙とか、バレたら内申に響くんじゃなーい?」

「何の用かな、風間くん」

顔は良いけれど性格があまりよろしくないその男。煙草臭い、と文句を言いながらもその顔に笑みを浮かべて近付いてくる。

「ふふんっ、特に用事なんてなかったんだけどね。とてもいいものが見れたよ」

「弱みを握れたって?」

にまにま笑う風間は「黙ってて欲しい?」とわざとらしく首をかしげて見せる。

「まぁ、黙ってて欲しいかな」

「もちろん、タダで黙ってて貰えるとは思ってないよね?」

ほらきた。だからお前は性格が残念だと影で言われるんだ。


「要求にもよるかな」

「ふーん。じゃぁ、僕の下僕になってって言ったら?どう?呑む?」

「煙草一本の代償にしては大きいかな」

「どうせ日常的に吸ってるんでしょ?いいじゃないか、僕の下僕。きっと楽しいよ」

楽しいのはお前だけだろうね。

小さくため息を吐きつつ、携帯灰皿に吸いかけの煙草を押し込む。

「うわぁ、慣れてるね」

「さぁ、どうだろう」

「下僕が嫌なら、オトモダチでもいいよ?」

「お友達と称して好き勝手扱うなら、それは下僕と変わりないさ」

「弱み握られてる癖に、ワガママだね」

ぷくりと頬を膨らませる風間。ついでに唇まで突き出して、可愛いとでも思っているのだろうか。

けれどまぁ、弱みを握られているのには変わりない。

こちらに痛手があまりない程度の、風間がある程度満足できるレベルの、そんな妥協点を見つけなければ。


「何で下僕もお友達も嫌なわけ?」

「逆の立場で考えてごらん」

「ふーん?んー、悪くないね」

「そう。趣味悪いね、風間くん」

無駄なお喋りだ。さっきの煙草、もう少しだけ吸ってから消せば良かったと少し後悔。

風間は何が楽しいのかにやにやと笑ったままだし、あぁ気分は憂鬱だ。猶更煙草が吸いたい。


「ねぇ、じゃぁ恋人は?」

「生憎そういう趣味はないんだけど、風間くんはあるんだね」

内心引き気味で言うと、風間は心外だとばかりに「あるわけないさ」と言う。

じゃぁ何故?と見つめれば風間はにんまりとただでさえ笑っている顔に笑みを塗り重ねた。

「だって君、恋人は甘やかすタイプだろう?恋人になれば、君になんでもお願いできちゃう」

「成程ね。つまりは恋人という名の下僕ってわけだ」

下僕、お友達、恋人・・・風間にとっては全て同じ意味の言葉らしい。本当に残念な男だ。

そう思ってため息を吐くと、風間は「ため息ばっかりだね」と笑う。誰のせいだと思っているのか。

「うん、我ながらいいアイデアだ。恋人にしよう。恋人になってくれなきゃ、煙草のことを皆に触れ回る」

「悪質な告白だね。でも意外だな、下僕が欲しいからって、恋人になれだなんて。結構手段を択ばないんだ、風間くんって」

「まぁ相手が大川みたいなのだったら後免だけどね、君ならいいかなって」

大川、あの体臭のキツい感じの同級生か。あれと引き合いに出されれば、きっと誰だって大川ではなく俺を選ぶだろう。希望観測ではなく、純然たる事実だ。


「どうする?僕の恋人になるかい?」

「どうしようかな。タイプじゃない、って言ったらどうする?」

・・・おや、風間の笑顔が消えた。

脅されている立場の癖に軽口が過ぎただろうか。

黙って様子を見ていると、じわりと風間の目に涙が浮かぶのが見えた。

思わず「は?」と声を上げてしまった。風間はぎゅっと唇を噛み締め、俺を睨む。

「僕とは友達にも恋人にもなれないってわけかい?タイプじゃないから」

恨みがましい声で風間が問いかけてくる。

はてさて、風間はどういうつもりでその問いかけを口にしているのだろうか。今にも泣きそうな顔で、心底悔しそうに。

タイプじゃないって言ったらどうするのか、ただそれを尋ねただけなのに過剰反応にも程がある。

これが何を意味するのか、煙草を吸ってすっきりとした頭で考える。

「ねぇ、返事ぐらいしてくれない?それとも、僕とは話すのも嫌ってことかい?」

浮かんだ涙が今にも目から零れそうだ。何をそんなに傷ついているのか。

考える、考える・・・


「風間くん」

「何」


「もしかするとだけれど、欲しいのは下僕じゃなくて俺かな?」


下僕、友達、恋人、どの名目でも手に入るのは俺自身。俺が手に入るなら名目なんてどれでもいいのだとすれば・・・いや、ただ単に拒否られてプライドが傷つけられたってだけの可能性もないわけではないけれど。

「因みにだけど、俺のタイプはそうやって姑息な手を遣わずに、正面から正々堂々告白してくれるような子だから」

「うるさいなぁ!そうやって畳みかけるように言うなんて、君性格悪いんじゃないかい!?」

真に性格の悪い風間にそんなことを言われるとは。

涙目で顔を真っ赤にして叫ぶ風間に「叫ばないでよ風間くん、人が来たらどうしてくれるんだ」と声をかける。

どうやらプライドが傷つけられた、それに加えて俺に図星をつかれたことで軽いパニックになっているらしい。

「そもそも!弱みを握られたんだからもうちょっとしおらしくしたらどうなんだい!?普通、もっと僕の言うことをすんなり聞いてさ、すんなり恋人になるもんじゃないの!?空気読めてないよね!」

「弱みを握られたイコールお付き合い、とは流石にならないんじゃないかな、風間くん」

「その!風間くんって呼び方も気に入らない!」

「はいはい、ごめんごめん風間」

「風間でもない!そこは普通名前を呼ぶもんだよ!本当に空気読めないよね!この社会不適合者!外道!人間失格!」

一度喚きだしたら止めらなくなるタイプらしい。わーわーと喚き続ける風間に頭を掻く。

「まったく、俺にどうしろって言うんだ?」

「黙って僕と付き合って!」

「何で?」


「そんなことまで言わせるのかい!?好きだからだよ馬鹿!」

顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ風間は非常に自分勝手だが、なまじ顔が良いだけに少しだけきゅんときた俺は実は面食いだったりする。





まずはオトモダチから





ぜぇぜぇと肩で息をしている風間に俺はふぅーっと息を吐く。

「最初からそう言えばいいのに」

「じゃぁ付き合ってくれるんだね!」

「いや、それは保留で。是非オトモダチから始めましょう」

「っ、君なんて大嫌いだ!」

「好きな癖に」

目にじわじわ涙を溜めながら「酷い」「最低だ」「許さないからね」とぶつぶつ言っている風間だけれど、お友達という最低限のポジションに収まれたのが嬉しいのか口角がぴくぴくと上に上がっていた。

素直なやつめ。



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