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休み時間は本を読んで、放課後は図書室に入り浸る。家に帰っても本を読む。

そんな感じの生活をしていたからか、何時の間にか周囲からは『本の虫』とか『根暗オタク』とかと呼ばれていた。・・・前者なら兎も角、後者は完全に悪口だ。


本しか友達いないんじゃないの?とかたまに聞かれるが、一応別のクラスに友達だっている。まぁ事ある事に人にたかってくるがめつい友人だけど。




「名字」

放課後になればすぐに図書室へと向かい、図書室の一番奥の席に腰かけ、読みかけの本を開く。

何時もなら図書室の閉館ギリギリまで本から目を逸らすことはないのだけれど、突然名前を呼ばれた僕はパッと本から顔を上げた。


一番に目についたのはマスク。

僕の座る席の真横に立っていたマスク姿の子が自分の友人の更に友人であることに気付き、思わず「綾小路くん?」と相手の名前を呟いた。




「今、良いか」

「え、うん。いいけど」

隣の椅子を引いてそこに座った綾小路くんに僕は手に持っていた本を閉じた。もちろん、栞を挟んでおくのも忘れない。



「放課後は何時も図書室にいると聞いていたから、探す手間が省けて良かった」

「放課後はよっぽどのことが無い限り此処にいるよ。それで、えーっと・・・綾小路くんは、僕に何の用?」


早速本題に入ろうとすれば、綾小路くんはちらちらと周囲に視線を向けた。もしかすると誰にも聞かれたくない話なのかもしれない。



「大丈夫だよ、今日はまだ僕等ぐらいしかいないから」

司書の先生も、今は別室で別の先生とお茶をしているはずだ。毎日図書室に通っていると、先生の行動パターンもなんとなくだが覚えてしまうのだ。


僕の言葉に綾小路くんはひとまず安心したらしい。意を決したように真剣な目をして僕を見つめる綾小路くんから次の言葉が飛び出るのを待つ。




「・・・風間から、名字は悪魔とかそういったことに詳しいって聞いたんだけど」




思わず「えっ」と声を上げ、固まってしまった。

まさか綾小路くんの口からそんな言葉が飛び出るとは、想像も出来なかった。


「どうなんだ」

「んー、詳しいっていうか、そういう系の本をよく読んでるだけっていうか・・・」

「・・・そうか」

心なしか残念そうな様子に何だか申し訳なくなる。



「えっと、そういう系の本ならうちに何冊かあるけど、借りてく?」

「いいのか?」


「うん。綾小路くんの役に立てるかわからないけど」

「いや、十分だ。有難う」

お礼を言われる程じゃない。ただ本を貸し出すだけだ。




それにしても本当に突然だ。何が切欠で悪魔に興味を持ち始めたんだろう。

少し気になってしまい「失礼じゃなかったら、理由を聞いても良い?」と言ってみる。すると綾小路くんは随分迷ったような顔をした後「・・・今から言う話は嘘じゃないからな」と前置きをした。どうやら話してくれるらしい。





「・・・大川は、悪魔なんだ」

ぽつりと呟く様な小さな言葉に僕は首をかしげた。


大川、確か風間くんが言ってたな。臭い転校生が来たって。

綾小路くんは鼻が良いので有名だから、きっと酷い被害を受けているのだろう。でもまさか、それを悪魔と称するなんて・・・




「嘘だと思うか?」

「えーっと・・・」


「いいんだ。こんなの、誰も信じてくれない」

きゅっと唇を噛んで、少し俯く綾小路くんに慌てて首を振る。



「し、信じてないとかじゃないよ。詳しい事情とか知らないから、よくわからなくて。・・・えっと、取りあえず大川くんに何をされたの?」


僕の問いかけに綾小路くんの顔が歪む。何か凄く嫌な事を思い出したような、例えるならそうだな・・・潰れたゴキブリを目の前にしたような顔をした。

そんな酷い顔をしながら、綾小路くんは大川くんとの出会いからこれまでの出来事を話してくれた。


・・・話を聞く限り、僕ならもう序盤で耐えられない。何て陰湿且つ粘着質なストーカーなんだ。

というか綾小路くんがブラスバンド部を辞めてたなんて、今初めて知った。それも大川くんのせいだと言うのだから、綾小路くんが可哀相でならない。





「風間から渡された本のせいだ」

「風間くんから?」


「あぁ。その本のせいで、大川と契約する羽目になった」

その時の状況も詳しく教えて貰ったけど、悲惨としか言いようがない。


大川くんをどうにかする為に悪魔と契約しようとしたのに、その悪魔こそが大川くんだったなんて・・・




「それってどんな本?」

「少し古臭い、分厚い・・・辞典みたいな本だ」


「風間くんが悪魔召喚の本を持ってるわけ・・・あっ」

小さく上がった僕の声を綾小路くんが聞き漏らすわけもなく、彼は「・・・心当たりがあるのか」と僕をじっと見つめた。思わず少しだけ視線を逸らす。




「・・・結構前、風間くんがうちに遊びに来た時、本棚勝手に漁ってたなーって」

「・・・・・・」


「・・・ちょっと、家の本でなくなってる本が無いか調べてみるよ」

こんな変な本ばかり読んでるから君は根暗なんだよ!なんて言いながら本棚を勝手に漁っていた風間くんを思い出す。風間くんならやりかねない。

・・・風間くん、窃盗は完全に犯罪だよ。



風間くんにしても大川くんにしても、言っちゃなんだが悪魔を使って大川くんを殺そうとしたらしい綾小路くんにしても、自分がやってることが犯罪だと欠片も思って無いような雰囲気があるから心配だ。

まぁ風間くんのアレはもう魂にまで染み付いてるだろうし、大川くんは手遅れだろう。だからせめて、綾小路くんだけはどうにかしてあげたい。彼は比較的まともだと僕は思っている。





「でも、もし本当にうちの本だったら、綾小路くんに申し訳が立たないよ・・・お詫びに、何でも言って。協力するから」

「・・・いいのか?」


「流石に、悪魔の生贄とかは嫌だけど、出来る限りの協力は惜しまないから」

取りあえず、大川くんが綾小路くんを騙した手口の一つに綾小路くんが全く読めない文字があったようだから、その文字の読み書きを教えてあげよう。

その次は正しい召喚の仕方とか、注意事項とか?やることは沢山あるや。




「・・・すまない名字。お前は関係ないのに」

「いや、風間くんに本を持ちださせて、それに気付かなかった僕も悪いから、たぶん」

まだ確認してないけど、僕の中では既に風間くんは窃盗犯だ。



「実際に悪魔を召喚したことはないけど、知識だけはあるから。任せてよ、綾小路くん」


「名字・・・有難う」

ぎゅっと綾小路くんに手を握られ、少し驚く。


相当参っているのだろう。綾小路くんの目に少しだけ涙が滲んでいるのを見てしまい、居た堪れなくなった。

手伝うといっても、何処まで出来るかはわからない。でも最悪、大川くんとの契約が破棄できなかった場合、逆に使役して言うこと聞かせるぐらい出来る様になって貰おう。




「・・・最初から、名字に相談すれば良かった」

「僕じゃ大した力にはなれないと思うけど、頑張るよ」

事が事だけど、頼られること自体は嬉しい。

綾小路くんは僕の言葉にこくりと頷いて「本当に良かった」と言った。



「独学じゃ、限界があったから」

その言葉に「おや?」と首を傾げる。嫌な予感。





「これで生贄探しも捗りそうだ。名字がいてくれたら心強い」





そう言って小さく笑う綾小路くんに「あ、もうこの子人として手遅れかも」と思ったが、手伝うと約束した手前、前言を撤回することは出来なかった。

多少なれど綾小路くんがこうなってしまった原因に関わってしまっているし、此処は清く綾小路くんのお手伝いをしよう。







本棚チェックのお時間







ちなみに、やっぱりうちの本棚から一冊本が無くなっていた。




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