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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
僕、結構多趣味なんですよ。
意外かもしれませんがスポーツもそこそこ得意で、かと思えば見た目通り一人静かに小難しい文学小説を読むこともあれば、漫画を読んだりゲームをすることもあります。
ゲームにもいろいろありますよね。RPGだったりシューティングだったり、実はギャルゲとか・・・時にはエロゲに該当するものにだって手を出していたりするんでるよ。
これは僕の失敗談というか・・・まぁ、結果的にあの時の自分を褒めてあげたいですが、取りあえず当初の僕にとっては失敗したと思った話です。
正確な日付は覚えていませんが、半年ぐらい前でしょうか・・・僕は新たなゲームを買ったんです。
自分ではギャルゲを買ったつもりだったんですよ。でもこともあろうに、僕は男が相手のゲーム・・・乙女ゲームを購入してしまったんです。
残念ながら気付いたのは開封した後で、おかげで返品も出来ませんでした。ゲーム一本分のお金を無駄にしてしまったことが悔しくて、半ば自棄になってそのゲームディスクをプレイヤーにセット。一度試しにプレイしてみることにしたんです。
するとどうでしょう。意外や意外、そのゲームはなかなかに面白かった。
これが女性視点から見る男性なのか、とか思いつつ自分が操作する女主人公と男キャラが繰り広げる恋愛劇を面白半分に見ていました。
そんな中、僕は出会ってしまったんです。
一人。そうたった一人、気になってしかたないキャラクターが出来てしまいました。
彼の名前は名字名前。女主人公が攻略できる対象の一人で、設定は女主人公のクラスメイト。
女主人公の幼馴染の友人という立ち位置で、因みにメインキャラクターではない。
幼馴染ルートの時にはそれとなく幼馴染との仲を取り持ってくれたり、選択肢によっては当て馬扱いになったり・・・
『おはよ、昭二』
他のキャラクターと比べれば割と普通な、けれども優しい彼に僕は何時の間にかぞっこんで、気付いたら攻略してました。しかも意外や意外、メインキャラクターではないから遭遇率も低くて攻略するのに苦労した。
無事クリアしたデータは別に保存して、その後も何度か彼のルートを攻略。画面の中でにっこりと微笑みながら朝の挨拶をする彼に小さく「おはようございます」と返事をするのが最近では日課になってしまった。
人から見れば気持ち悪い光景かもしれませんけどね、これがなくちゃ一日が始まった気がしないんです。
今日も早めに起床し日課を終え、学校へ。
最近じゃ何時も思うんですよね。僕の学校に名前くんがいてくれたらなって。
馬鹿げた妄想だとはわかっているんですよ。しかし彼に対する想いは日に日にゲームのキャラクターを愛するという域を軽く超えてきてしまっているんです。
あぁ、今日も早く帰って彼に会いたい。
彼を好きになってしまう前と後じゃ、時間の流れが全然違う気がする。
早く放課後になれば良い。まだHRですら始まっていないのにそんなことを考えてしまう僕はもはや末期だ。・・・それでも良いや、彼が好き。
しばらくして漸く教室に教師が現れ、HRが始まった。
「あー、皆にはまだ知らせていなかったが、今日は転入生が来ている」
教室がざわめく。
こんな中途半端な時期に転入生?と訝しげに教師を見る者、転入生に対する興味でいっぱいな者・・・因みに僕は前者だ。
「入って来なさい」
教室の扉に向かいそう教師が声を上げた瞬間、がらがらと音を立てて扉が開く。
その瞬間、僕は呼吸が止まった気さえした。
あぁっ、嘘だ・・・
「名字名前です。よろしく」
画面の中にしか存在していないはずの彼が、教師の隣で自己紹介をしていた。
「えー、席は・・・荒井!手を上げろ!」
え?と自分の耳を疑う。
「荒井、聞こえてるか」
「・・・はい」
唖然としたまま、僕は手を上げる。
するとどうだろう、彼がこちらへ向かって歩いてくる。正確には僕が座る一番後ろの席の隣へ。
「よろしく、荒井」
爽やかな笑顔が、目の前にあった。
「あっ、えと・・・」
言葉が詰まってしまう。普段の自分じゃ考えられない。
彼は特に気にせず僕の隣の席に座る。何時の間に隣に席が準備されていたのかはわからないが、今はそれどころじゃない。教師が何やら他にも喋っているが、それも耳には入らない。
「なぁ荒井」
「え、あ、僕ですか?」
こそっと小さな声で話しかけてきた彼に胸が高鳴る。彼は本物?僕の願望が叶った?
「実はまだ教科書とか用意されてないらしいんだ。良かったら、今日は荒井の教科書一緒に見せてくれないか?」
何時からこの世界は乙女ゲームの世界になったんですか。ふざけないでください、最高です。
「勿論です。あと、えっと・・・しょ、昭二で良い、です」
僕は何を言っているのか。
「そっか。じゃぁ、俺のことも名前って呼んでな?昭二」
突然名前で呼んで欲しいなんて図々しいにも程があるのに、彼は嫌な顔一つせず頷いてくれる。彼に呼ばれた名前が何やら特別なものに感じてしまった僕はやはり末期だ。
見た目といい名前といい、やはり彼はあの乙女ゲームの登場人物名字名前で間違いないのかもしれない。
どうしてこの学校に?そもそもどうして現実世界に?
もしかすると僕は今夢の中で、現実の僕は布団の中で眠りに着いているのかもしれない。そうだとすれば、もう少しこの夢を見ていたいのですが・・・軽く手を抓った感じ、夢ではなさそうです。
ちらりと隣を見れば、頬杖を突きながら教師の話に耳を傾けていた彼が僕の視線に気づきこちらを見る。
どうした?とでも言うように無言で微笑まれ、僕は慌てて前を向いた。彼の前だと、とてもじゃないが普段の僕ではいられそうもない。
HRが終わり、何人かの生徒が彼を囲む。
彼は笑顔で対応しているが「前の学校は?」や「前は何処に住んでたの?」などと聞かれると何故だが少し困ったような顔をしていた。
そして質問攻めに耐えられなくなったのか、突然席を立つと「昭二」と僕に声をかけてきた。まさかの僕に、だ。
「トイレ何処だっけ」
「・・・こっちですよ」
トイレが何処かなんて聞かなくても教室を出て廊下を見渡せばすぐにわかるはず。それが口実だと理解した僕は席を立ち彼を教室の外へと連れ出した。
案の定彼は「有難う、助かった」と僕にお礼を言う。彼にお礼を言われるなんて、軽く気絶しかけた。
「いえ、困っているようだったので」
「本当に助かったよ。俺、質問攻めとか苦手でさ」
そうでしょうとも。彼のことがいろいろ知りたくて自分が操作する女主人公を使っていろいろ質問攻めにしたら、好感度が一気に下がってしまったのは悪い思い出ですから。
【▼もっと聞いてみる】なんて選択肢、あれば選んでしまうに決まってるじゃないですか。完全にミスリードでした。
「嫌なら嫌だと言っても良いと思いますよ。遠慮し過ぎです」
中途半端に幼馴染の好感度が上がっていたせいで名前君が勝手に「君にはアイツの方が合ってるよ・・・」と身を引いてしまった時は「もっと欲張ってください!」と画面に向かって怒鳴ったものです。あれだけ寂しげ顔で身を引かれたら、プレイヤーの僕としては悔しいなんてもんじゃないですからね。
「遠慮してるって思った?まぁ、うん。初日だし、第一印象はちょっと気にしてたかも」
「そんなこと気にしなくたって名前くんは社交的だから大丈夫ですよ」
そこまで言ってふと気付く。
出会って数十分でこの発言は可笑しくないだろうか。いくらなんでも、知った風な口ぶりが過ぎる。
彼もやはりそれを可笑しく思ったようで、黙って僕を見ていた。僕は慌てて視線を逸らす。
「ねぇ・・・もしかしてさ、俺の事知ってる?」
「知ってる、とは?」
声が上ずった。本当に、普段の僕らしくない。
「俺がさ・・・この世界の人間じゃないってこと」
何も返事が出来ない僕に「無言は肯定ってことで良いのかな」と彼は困ったように笑った。
彼曰く、原因はわからないらしい。
「何時も通り自分の部屋のベッドで目が覚めたんだ。けど、外に出たら全然違う景色だった」
驚いて家に戻ると母親から「初日なんだからしゃきっとしなさいね」とこの学校までの地図を持たされ、困惑しつつも学校にいけば周囲は普通に自分を転入生として受け入れ・・・
もう訳が分からないと困惑していた中、彼は僕と出会った。
「でさ、昭二は何で俺の事知ってるの?もしかして、何か特殊な力があるとか?」
冗談交じりに問いかけてくる彼。正直に言うべきだろうか。
「教えてくれよ、昭二」
あ、正直に言うという選択肢しかありませんね。選択肢なんてあってないようなものでした。僕は保身より名前くんの好感度を選びます。
彼が困惑し過ぎないように、言葉を選びながら僕は彼をゲームの中の登場人物として知っていることを教えた。
彼は驚きながらも「・・・そっか」と頷く。
大いに驚いてはいるが、この状況のせいで信じるしかなかったようだ。
「じゃぁ、昭二じゃわからないよな。俺が元の世界に帰る方法とか」
その言葉にどきりとする。
彼は元の世界に帰りたがっている。当然ですよ、気付いたら来てしまった世界よりも、元の世界の方が良いに決まってます。
「正直不安だったんだ。訳が分からないうちに転校してきたから」
「えぇ、そうですよね」
「でも安心した。俺の事、知っててくれる人がいたってこと」
にこりと名前くんが笑う。
画面越しじゃない、生の名前くんの笑顔が素敵過ぎて素敵過ぎて・・・
「昭二の迷惑じゃなければだけど、俺と仲良くしてくれないか?」
「迷惑じゃない、です。その・・・僕でよければ」
差し出された手を握れば、その手は生きている人間と同じで温かかった。
はろーはろー現実世界
彼が元の世界に帰れないエンディングは、どの選択肢を選べば正解なんでしょう。
握った手をもう二度と放したくなくなってしまった末期の僕は、頭の中で今後の攻略プランを立て始めた。
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