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※人形ルート。
昭二が死んだ。
何の前触れも無く、死んでしまった。
脳溢血だったと昭二のお父さんが言っていた。
葬式に参加した。実感が得られなかった。
棺で眠る昭二は本当にただ眠っているようだった。呼びかけたら目を開けてくれるような気がして、何度も何度も呼びかけた。けれど昭二は目を開けてはくれなかった。
たぶんもう火葬は済んだんだろう。けれど昭二が死んだという実感がまだ得られない。
同じクラスだった昭二の机には誰も座ってない。しばらくすると昭二の机が無くなって、席が一つ前にずれた。
しばらくすると、昭二という生徒の影さえ消えかけていた。誰も昭二の話をしない。
もしかしたら昭二は風邪をひいてて、家で寝込んでるのかもしれない。割と本気でそう思って、昭二の家に行った。
昭二がいた。
正確には、昭二そっくりの人形がいた。
昭二が死んでからすっかり傷心していたおじさんに聞けば、腕の良い人形師に頼んで作らせたそうだ。
見れば見る程そっくりで、昭二が帰ってきたみたいだった。けど、その昭二は喋らなかった。
喋らない昭二をしばらく見ていると、やっぱり昭二とは違うなと思った。何か違う。
おじさんもそう思ったのだろう。一週間後にもう一度会いに行けば、昭二に似た人形は増えていた。でもやっぱり何か違った。
人形がどんどん増えていく。こんなに沢山人形があるのに、昭二に瓜二つの人形はいない。おじさんは『出来損ない』と呼んでいた。
確かに昭二とは違うけど、僕はその人形が嫌いじゃなかった。
何時の間にか昭二の家に行くことが日課になっていた僕は沢山並んだ昭二に似た人形にぽつりぽつりと話しかけた。
昭二は僕にとって大事な子だったんだとか、昭二が死んだあの日本当は一緒に遊ぶ約束をしていたんだとか、来年には一緒に何処か遠くへ遊びに行く計画を立てていたこととか・・・
沢山沢山話した。もちろん、返事はなかった。
ある日のことだ。おじさんは「昭二が戻ってくる」と嬉しそうに教えてくれた。
悪魔と契約したらしい。毎年一人ずつ子供の魂を捧げれば、十三年後に人形に昭二の魂が宿って蘇るという。
僕は喜んだ。
昭二が帰ってくるなんて、大ニュースじゃないか。僕は人形にその大ニュースを教えてあげた。
毎年一人ずつかぁ・・・
十三年後なんて、僕はすっかりおじさんになってしまっているだろう。蘇った昭二は、僕に気付いてくれるだろうか。
せめて今の面影を残しておこう。変わらないって難しいんだな、と初めて知った。
けれどそれが苦だとは思わない。だって昭二が帰ってくるんだ。
その喜びを来る日も来る日も人形に語った。昭二が帰ってきたらあの日の約束を果たして貰おう。何処か遠くへ遊びに行くんだ。十三年後だから、たぶん僕は車の免許ぐらい持ってるだろうし、吃驚するぐらい遠くにだって行ける。昭二、吃驚するだろうなぁ。
僕が嬉しそうに話すからだろうか。人形がほんのりと笑ってくれたような、そんな気がした。それがとても嬉しくて、僕はもっともっと昭二の話をした。昭二の話は尽きなかった。
たぶん恋だったんだ。
そう言ったのは、おじさんもいない日のことだった。
たぶん僕は昭二が好きだった。たぶん愛してた。
だから死んだことを受け入れられなくって、実感を持とうとも思わなかった。
昭二が蘇ると知って嬉しくて、おじさんの手伝いをしようと思った。
昭二が蘇ったら、昭二が蘇ったら・・・
昭二が蘇った未来を想像するだけでも、僕は幸せだった。人形の手をぎゅっと握りながら、昭二が戻ってくるのを祈った。人形が手を握り返した気がした。
どうやら一番最初の生贄は誰かとおじさんは悩んでいるらしい。
生贄は誰でも良い訳じゃなくて、条件が一致した子供じゃないといけないそうで、昭二の人形の傍でおじさんが悩む様子をじっと見つめていた。
おじさんが不意に顔を上げ、僕を見た。僕はぺこりと頭を下げる。
するとおじさんの目が大きく見開かれた。どうかしたんですかと尋ねれば「君だったのか」と言われた。
僕は察した。
・・・あぁ、一人目は僕か。
傍にいた人形が震えた気がした。
おじさんが「ごめんよ」と言いながら、しかし迷わず僕を殺そうと近づいて来る。僕は逃げない。
目の前におじさんが来た。
「おじさん、昭二を必ず蘇らせてね」
生き返った昭二に会えないのは寂しいけれど、大好きな昭二が蘇る役に立てるんなら、きっとそれが一番良い。昭二が蘇ってくれるなら、僕はそれで構わないんだ。
おじさんの手が僕の首に添えられ、強く絞められた。
苦しい。反射的におじさんの手から抜け出そうとする身体を叱咤して、僕は人形の手をぎゅっと握りしめた。
おじさんが「昭二、昭二」と譫言のように昭二の名前を呼んでいる。僕も呼びたいけれど、絞められた首からは微かな呻きしか出なかった。
目の前がちかちかする。僕は死んでしまうのだろう。
昭二、昭二、大好きな昭二、昭二が蘇ってくれるなら、僕は・・・
人形の無機質な目から、ぽろりと涙の様なものが零れた。
こどものゆめ
蘇っても、君がいなければ意味は無いのに。
死んでしまった少年を、一体の人形が見下ろしていた。
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