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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
僕の家の近所には、僕よりもずっと小さい男の子がいる。
まだ幼稚園に入ったばかりの、きらきらした笑顔が特徴的な子だ。
その子の名前は名前。あの子はとても良い匂いがする。
ふんわり温かい太陽の様な、傍にいるだけで安心する匂い。
そんな素晴らしい匂いを持つ名前は僕を見ると「ゆきお兄ちゃん」と呼んで笑ってくれる。
初めて出会ったのが名前がまだ赤ちゃんの頃で、ミルクの甘い匂いがしてた。僕はその頃から名前のことを気に入っていた。
だからこそ休みの日に突然家の前に来た名前が「一緒に遊んで」と言ってきても、僕は笑顔で頷いてしまえたんだ。
「ゆきお兄ちゃーん!見てて見ててぇー!」
滑り台の上から手を振る名前に少し離れた場所から手を振り返す。
名前に引っ張られてやって来たのは近所の公園で、時間帯的に言えばまだ早い時間のせいか、公園には殆ど誰もいなかった。特に遊具なんかがら空きで、名前は「かしきりー!」なんて言いながら走って行った。貸切りなんて言葉、誰に教わったんだろう。
滑り台からするすると降りていく名前が「もう一回!」と滑り台に戻って行くのを見届けつつ、ゆっくりと深呼吸。
あぁ、一週間学校で与えられた苦痛が少しだけ和らぐようだ。このまま名前君のように素敵な匂いがする子とずっと一緒にいられたら――
その時、僕はぴたりと動きを止めた。
感じたのだ。幽かにだが、今一番感じたくなかった臭いを。
「あぁ!やっぱりゆっきーだぁ!」
叫ぶような大声で呼ばれた自分の名前。
手が微かに震え、視線だけちらりと向ければヤツ・・・大川がその全身の脂肪を揺らしながらこちらへ走ってきていた。
大川が走ることによって臭いが拡散し僕の方まで届く。
一瞬にして感じる嘔吐感。大川は気持ち悪いぐらい満面の笑みを浮かべながら僕の目の前に来た。
「わぁ!休日にこんな場所で出会えるなんて運命としか言いようがないね!」
嬉しい嬉しいと言う大川。僕にとっては最悪だ!
「ねぇゆっきー!どうせだから、これから二人っきりで遊びに行こうよ。ね、良いでしょー?」
今にも抱き付いて来そうな大川に自然と後ずさる。
本当なら今すぐ逃げ出したい。けれどそんなことをすれば大川は何をするかわからないし、何よりまだ名前が遊具で遊んで・・・あれ?そういえば名前は今何をして・・・
「ゆきお兄ちゃんをいじめるなぁ!」
気付けば名前が僕と大川の方に走り寄ってきていた。
大川を下から見上げ、一生懸命威嚇している。
名前の目には僕が大川に虐められているように見えたらしい。あながち間違ってはいないし、今の僕にとっては名前が救世主に見えた。まぁ救世主にしては、随分小さくて可愛らしいけど。
「ゆっきー、誰この子」
「ゆきお兄ちゃん嫌がってる!止めてあげて!」
僕の足元まで来た名前が大川を威嚇したまま僕の脚にしがみつく。
それを見て発狂したように怒ったのは大川だ。
子供相手にと思うかもしれないが、大川はそれだけ心が狭い。臭い上に心も狭いなんて、本当にどうしようもないヤツだ。
それに比べて名前はなんて良い子なんだろう。明らかに自分より体格の良い相手なのに、僕の為に駆けつけてくれるなんて。
僕はついマスクの下で微笑みながら名前を見つめた。そっと頭を撫でれば、名前が笑い大川が汚い声で叫んだ。
「僕のゆっきーに馴れ馴れしくしないでよ!!!」
名前の目が大きく見開かれた。
吃驚したような、そんな顔だ。
その吃驚した顔が次第にくしゃりと歪んでいく。
大きな目がうるうるとし始めて、ぼろりと零れた。
「ぅ、あ・・・」
あぁぁぁあああんッ!!!!!
公園に名前の泣き声が響き渡る。
あぁ、名前が泣き出した。
大川の汚臭をすぐ傍で感じ、尚且つ怒鳴られたのだ。
小さな子供である名前が怯えないわけがない。
僕は慌てて名前を大川から隠そうとする。けれどそれより先に動いたのは、驚くことに名前だった。
名前は僕の後ろに隠れるどころか、先程よりも大川の方に近付いた。まるで僕を自分の背に隠すかのように。
ぐすぐすと泣きながら大川を見上げ「ちがうもん!」と声を上げる。
「何が違うって言うのさ!」
「ゆきお兄ちゃんは、お兄さんのじゃないもん!」
「僕のだよ!!!」
子供相手になんて大人げないんだ。此処で口を開くのは耐えられないが名前のためだ。何とか我慢して口を開かないと・・・
「ちがうもん!ちがうもん!ゆきお兄ちゃんは僕のだもん!!!」
ぴたっと僕の動きが止まる。それは大川も同じだった。
「な、何言ってるのぉ!?ゆっきーは僕のだよ!お前みたいな餓鬼のじゃない!!!」
「ちがうもんっ!ゆきお兄ちゃんは、いっつも僕といっしょにいてくれるもん!前にお兄ちゃん家でおとまりした時、ずっといっしょにいてくれるって言ったもん!」
この間のお泊りのことを言っているのだと僕はわかる。
確かあの日名前が「ゆきお兄ちゃん家に泊まりた!」と言って、一晩だけお泊りをすることになった名前が僕と一緒にお風呂に入っている時に聞いてきたのだ。ずっと僕と一緒にいてくれる?と。
もちろん僕は笑顔で「もちろん、ずっと一緒にいる」と言った。今の名前はその時の事を言っているのだろう。
「それは嘘に決まってんじゃん!子供相手だから、優しいゆっきーは嘘を吐いたんだよ!」
「おいっ!大川、変な事言うな!」
耐え切れず声を上げる。こいつ、名前が傷つくような言葉をっ!
案の定名前はぴたっと動きを止め、僕を見ている。大きく目を見開いて、ぽかんとした顔をして、けれどその表情を見る見る不安そうにして・・・
「・・・ゆき、お兄ちゃんは、うそつかないもん」
それだけ言って、俯いた。
限界だ。
僕は名前を抱き上げた。大川が何か叫んでいるが気にしない。
「うん、嘘じゃない。僕は名前とずーっと一緒にいる」
抱き上げられた名前が「ほんと?」と尋ねてくる。頷けば、名前の細い腕が僕の首へと回った。
名前の良い匂いを感じて、少しほっとした。大川の臭いは相変わらず酷いが、名前のおかげでそれも幾分か軽減する。
僕に抱き上げられたままの名前は得意気な顔をして大川を見た。
「ほら!うそじゃない!」
「う、嘘だよぉ!だって僕等は契約してるんだから!死んでも一緒なんだよぉ!!!!」
こいつっ、契約の事をぺらぺらとッ!
「ずっといっしょにいるのは僕だもん!ゆきお兄ちゃん、ずっとって言ったもん!けーやくなんて知らない!」
ぎゅぅぎゅぅと名前が僕に抱き付いてくる。
「お兄ちゃんきらい!いっしょに遊んであげない!どっか行っちゃえ!」
普段優しい名前にしては随分酷い言葉を言う。
それでもなお食い下がろうとする大川に僕は「子供相手に大人げないぞ」と言って名前を抱いたまま歩き出した。
待ってよゆっきー!なんて叫ぶ大川は無視して、名前の肩口に顔を埋めて大きく深呼吸をした。
「ふふっ、くすぐったーい!」
「名前、ずっと一緒にいようか」
「うん!いるぅ!」
「じゃぁ、契約書を作ろう。ずっと一緒にいるための契約書」
名前は悪魔じゃない。契約書を作ったってただの約束。それでも僕は、名前とのこの素晴らしい約束を形にしたかった。
「うん!つくる!」
この素敵な匂いと素敵な笑顔を持つ名前となら、死後までと言わず来世まで一緒にいたいと思った。
小さな王子様
「僕を守ろうとしてくれてありがとう。とっても格好良かったよ」
「僕ね!僕ね!もっと大きくなって、ゆきお兄ちゃんを守るよ!ぎゅうにゅーたくさんのんで、おっきくなるからね!」
「うん。楽しみにしてる」
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