『一緒に帰ろうよ』
そう言った風間に、名前は一言・・・
『無理』
図書館で借りた本を片手にそう言った。
要するに、図書館で借りた本を読みたいからお前と帰るのは無理、ということだ。
名前は何時だって言葉が足りない。
無駄話が無いのは良いことだが、言葉が無さ過ぎるのも問題だ。
おかげで彼はいろいろと誤解されることも多く、今ではこうやって話しかけてくるのは風間ぐらいになってしまった。
まぁ本人は大して気にしていないし、問題はないのだろう。
放課後の教室、自分の席で読書を始める名前に、風間は「えー」と声を上げた。
名前が言いたいことは理解したらしいが、納得はしていないらしい。
風間はそのまま名前の隣の席の机にどかっと腰かけると「冷たいなぁー」と不満の声を上げた。
が、返事はない。
既に読書に集中してしまっているのだろう。
「早く読み終わってよ、名前」
どうやら風間には不満そうに唇を尖らせつつも、先に帰るという選択肢はないらしい。
机に座ったまま足をぷらぷらと動かしたり、今流行の曲を鼻歌してみたり・・・
だがそれにも飽きてしまったのか、風間はじっとりとした目で名前を見た。
どうやったら読書から気を逸らすことが出来るだろうか。
読書よりも興味関心を抱けるような、そんな話題が触れれば・・・
「ねぇ、名前」
「んー」
「実はね、名前に秘密にしてたことがあるんだ」
「何だよ」
風間はにっこりと笑って――
「僕、実は宇宙人なんだ」
爆弾を投下した。
「・・・・・・」
自分が宇宙人だって話は、実は前々からしようと思ってた。
だから風間はこれを機にと思い切って言ってみたのだが・・・
名前はと言えば、そんな風間を無表情にじーっと見つめているばかりで何も答えない。
「スンバラリア星人って言って、遙か銀河の彼方に文明を築いているんだ」
「・・・・・・」
「もちろん、地球人とはちょっと体のつくりが違うんだよ」
「・・・・・・」
「それで・・・」
ふと風間は名前が何の返事もしないことに気付いた。
別に無視しているわけではないのだろう。目だけはじっとこちらを見ているのだから。
「ねぇ、聞いてる?」
もしかして信じてない?と困ったような顔をする風間に、名前は「なぁ」と口を開く。
「――スンバラリア星人ってヤツは、同性でも結婚できるのか?」
「・・・え?」
「出来ないのか?」
「え、あ、ぇーっと、出来るけど・・・」
「じゃぁ、地球人とスンバラリア星人の結婚は可能か」
「今じゃ、他の星の相手と結婚するスンバラリア星人も増えてるし、大丈夫だと思うよ・・・?」
風間がそう答えた瞬間、名前は「ふーん・・・なら良い」と言いながら再び読書を始めてしまった。
「ぇーっと・・・名前?」
意味が解らず困惑する風間など全く気にせずページを捲っている。
否定されなかったのは良いことだが、こうまで反応が薄いのも困りものだ。
「ね、ねぇ、驚かないの?僕、宇宙人なんだけど・・・嘘吐きだとか思わないわけ?」
「嘘だったのか」
「いやいや、嘘じゃないけど・・・」
「なら良い」
一瞬だけ顔を上げてまたすぐに本へと視線を戻してしまう名前に風間は慌てて「だ、だってさ!」と声を上げる。
「ほ、ほら!他に気にならないの!?地球に来た目的とか、いろいろあるでしょ?」
「・・・それ、俺興味ねぇもん」
ぇー・・・と風間は顔を引き攣らせる。
興味ないとばっさり切り捨てられるとは思ってもみなかったのだろう。
「・・・じゃぁ何に興味があるのさ」
風間が少し不貞腐れながら小さく呟くと――
「俺が興味あんのは、お前と将来結婚出来るかどうかってことだけだ」
名前はしれっとした顔でそう言った。
「・・・へ?」
風間は顔がぶわりと熱くなるのを感じた。
彼が興味を持つ話題
「・・・ねぇ、結婚式はどっちの星でする?」
その言葉に名前は「あー、どっちにしようか」とすぐに顔を上げた。
風間は自分の口元に、ついつい笑みが浮かぶのを感じた。