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彼は占いが得意だった。


占いと聞いて思い浮かぶものと言えば水晶玉やタロットとかだけど、彼はそんなもの使わない。

相手を見ただけで“わかる”のだそうだ。



そんなの嘘に決まってる。

それでも彼の占いが人気なのは、好奇心旺盛な年頃のせいなのかもしれない。


占いの内容は何でも良いらしい。

中でも相性占いが人気らしく、女の子たちが楽しげに騒いでいた。

あまりに周囲が噂するものだから、僕だって気になってしまう。



そうしてやってきたのは彼、名字名前のいる教室。

教室の中を覗き込めば、丁度誰か知らない生徒を占い終えた所だった。






「やぁ」

「・・・・・・」


目的の彼は、まぁまぁ顔は良かった。まぁ、僕程ではなかったけど。

占いをする彼の机の上には何もない。噂通り、見ただけでわかるのだろう。


・・・馬鹿馬鹿しいなぁ。





「・・・風間望」

「あれ、知ってるんだ?」


「・・・女子の中に、何人か相性を聞いてくる人がいる」

「あ、ほんと?嬉しいなぁ」


彼はその女子達に何と答えたのだろうか。

それも気になるが、まぁそれよりも・・・



「僕も占ってよ。朝飯前だろう?」


悪戯にそう言えば、彼は無表情のまま僕を見つめていた。

彼自身は大して暗いわけではないのに、その眼の奥が酷く濁って見えた。気のせいかもしれないけど。



「・・・内容は」

あぁ、それは考えてなかった。

どうせ嘘だろうと踏んできたわけだし、何を占って貰っても良いだろう。



「んー・・・あぁ、そうだ」

――君と僕の相性は?



男には滅多に見せないような笑みを向けて尋ねてみた。

彼は僕をじっと見つめたかと思えば、ぴくりとも笑わず・・・








「最悪」







その一言だけを告げた。


男と相性が『最高』と言われるよりはマシだったが、流石にカチンときた。

あっそ、とだけ言って教室を出て行く僕はその苛立ちを抑えられそうもなかった。



聞けば、彼の占いで傷ついた人間は一人や二人ではないらしい。

相性が良いと言われる生徒もいれば、相性が最悪だと言い捨てられた生徒もいるらしい。


相性が最悪と言われたカップルは必ず別れるし、親友同士であれば必ず絶交する。

それが果たして彼の占い通りなのか、それとも彼が『最悪』だと言ってしまったせいで引き起こされた結果なのか・・・


どちらにしてもそんな彼の噂を聞きつけた“クラブ”が黙っているわけもなく――












「・・・ぅ、ぐ」


彼は旧校舎の床に倒れ伏していた。

見下ろすのは殺人クラブの何時ものメンバー。


実際に占って貰ったのは僕だけ。

しかも占い結果は『最悪』で、それでも“殺す理由”にはなる。

他のメンバーは『胡散臭い』だとか何だとか、そんな適当な理由だった気がする。



面白くないことと言えば、自分を殺そうとする僕らの存在に気付いた瞬間から今まで、彼は無表情を貫き通したということだ。

苦痛で顔を歪めることはあっても泣くこともせず、叫ぶこともせず・・・


誰かが「つまらない」と呟いたから、たぶんもうこれでお開き。止めを刺して終わり。

いや、止めを刺さなくたって、しばらく放置すれば彼は死ぬだろう。だって、彼の腹からはもう抑えようもない赤が流れ出ている。


じわじわと死に近づいていく彼はやっぱり無表情。

何だかそれが気になって、僕は彼の目の前にしゃがみ込んでみた。






「・・・ぁ、ぅぐ」

小さく呻く彼は、視線をこちらに寄越した。


もうその眼に光なんてほとんどない。もう死ぬ。もうすぐ死ぬ。

そんな彼が死ぬ前に呟いた台詞は・・・








「・・・ほら、やっぱり相性最悪だ」






「・・・・・・」

彼は初めて、僕に向かってにこりと笑った。

そんな彼に僕は、あぁ成程・・・彼の占いは本物だと思いついつい笑い返してしまった。








あの子は何でも占えた







あ、そういえば彼って、未来も占えるんだった。忘れてた忘れてた。

最初から本物だってわかってれば、もっといろんなこと占って貰ったのになぁー・・・残念。


(さてその残念は、占いが出来なくなったことに対してか、それとも彼がいなくなったことに対してか・・・)




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