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気付いたら、僕は坂上修一に成っていた。



自分の名前が坂上修一だとわかるや否や、僕は坂上修一に成りきることにした。


大して興味もなかった新聞部に入り、日野という先輩を慕った風を装い・・・

敷かれたレールの上をきちんと進んで僕がたどり着いたのは――七不思議の取材だった。











目の前にある呪いの本。


あぁ、そろそろか。

新堂さんに本に手を置く様に言われ、素直に置いて・・・


実は手を置いた者が呪われる。呪われたくなければ新堂さんの質問に答えなければならない。






「・・・お前、俺の話を信じているか?ひょっとして、信じてないんじゃないか?」


「まさか。信じてますよ」

にっこりと顔に浮かべる、愛想笑い。





「お前は、今までの人生で嘘をついたことがあるか?」


今現在、僕は嘘を吐いている。

「ありますよ。人間ですから」





「今までに死にたいと思ったことは?」

「そこそこに。けど、生きたいという気持ちの割合の方が大きかったので、今生きてます」




「誰かを殺したいと思ったことはあるか?」

「さぁ。消えて欲しいと思う事が殺したいと思うことに直結しているのならば、あると思います」




「お前は、人を傷つけたことがあるか」

「完全に『傷つけたい』という意思のもとに傷つけたことはありません。けれど、人間生きてるうちは多少誰かを傷つけて生きています。僕が気づいてないだけで、きっと僕は誰かを傷つけているし、僕が傷つけられたと感じた時、傷つけた人はそんなの全く気にしちゃいない」




思い出すのは前の世界。


正直、あの世界には帰りたくはない。

僕にはもう、あの世界に居場所はない。


無意識の悪意に塗れた、あんな世界・・・



だったら僕は、もう此処で死んだ方が幸せなのではないだろうか。

殺すという意思のもとで僕を殺そうとする、彼らの手で・・・





「お前は人を裏切ったことがあるか」

「裏切られたことなら、いくらでも」



心は思う存分に殺す癖に、相手を殺すことを非常に躊躇うあの世界の彼等。

最初から全く信じていなかったわけではないから、裏切られた瞬間というのは今思い出しても辛いものだった。





「お前は、人に憎まれていると思うか」

「憎まれるだけの存在価値が僕にあるなら、あるんじゃないですかね」


そんな価値、僕はあったのだろうか。





「お前は、楽しい学校生活を送ってきたか?」

「・・・いいえ。反吐が出る程、僕は学校が嫌いですよ」


あの世界でも、この世界でも。



虐げられるという立場に押し込められたあの世界。

坂上修一という人間のレールの上を歩んだこの世界。




どちらも大差なく・・・最悪だ。







「お前は、人を殴ったことがあるか?」

「ありませんね」


殴る前に殴られた。



「一度も?」

「一度たりとも」



僕は何時だって、殴られる側。

反撃も許されなかった。



今になって思うけれど、何故僕は殴り返さなかったんだろう。

良い子にしてればいずれ皆変わってくれるとでも思っていたのか?






「お前は、今までに後悔したことがあるか?」

「・・・人生の大部分を、後悔してますかねぇ」


ふふっとついつい笑ってしまった。

新堂先輩が眉を寄せる。





「お前は虫を殺したことがあるか」

「逆に、殺したことのない人がいるなら、僕は見てみたいです」


「・・・あまりふざけるなよ。真面目な質問だ」

「はい、すみません」


素直に謝る。笑顔のままに。







「お前は恋人のために自分の命を犠牲に出来るか」


「恋人が出来たためしがないので」

「出来たら、だ」



「・・・さぁ。案外、見殺しにするでしょうね。でも、恋は人を変えると言いますし、わからないですよ」


そんなもの、する気もないけど。






「お前は盗みを働いたことはあるか?」

「はい」


させられたことはある。



上手くいけば彼等の配当。

失敗すれば全部僕のせい。






「お前は自分の歩んできた人生を振り返って、反省しているか?」

「えぇ。特に、今現在・・・」



「・・・今?」


「新堂さん・・・貴方に謝らないといけないことがあります」



「・・・何だ?」





「僕は気付いています。全部全部、気付いています」

「・・・・・・」










「――僕の背後で、何をしてるんですか?日野先輩」










「!・・・驚いた。ばれないようにしていたんだがな」


背後を見てにっこりと笑えば、日野先輩が不敵に笑っていた。

それにつられてか、ぞろぞろと図書室に入ってくる他のメンバー。






「皆さんが殺人クラブだということも、知っていました。すみません、サプライズは苦手なもので」



やけに余裕ぶっている僕が気に食わなかったのだろう。

早々に床に押し倒され、口に例の毒のカプセルを飲まされる。


その間、僕はにこにこと笑っていた。




さて、そろそろ“真実”でも話そうか。






「僕は、一つ皆さんに大きな嘘を吐いていました」






毒を飲まされたばかりの人間だとは思えないだろう。




「大きな嘘?」

不思議がる彼等に僕はより一層笑みを深めた。




「僕は、あなた方の知る“坂上修一”ではありません。坂上修一の皮を被った全く別の人間です。だから僕は坂上修一の過去も現在も未来も大して気にせず、これから僕扮する坂上修一が死亡したとしても特に何の感情も感動も抱かず、僕は僕の思うがままに大人しく短い一生を終えようと思うのですが・・・どうでしょう?」


にっこりほほ笑んで尋ねれば、彼等の中に微かな混乱が生まれたらしい。

それでも僕を殺すことに関しては何の変更も無いのだろう。






「僕はこれから四時間半もの猶予がありますが、アンプルを探しには行きません。アンプルの場所は知っているんですよ?旧校舎の女子トイレですよね。けれど僕はアンプルを飲みません。この場から動きません。僕は四時間半の猶予を実に無駄な怠惰に過ごすか、皆さんに凶器を振りかざされようと何の抵抗も無く殺されるか、僕にはその二択しかありません」


僕の言葉に彼等は今までその顔に浮かべていたニヤニヤとした笑みを消し去った。





そりゃそうだろう。

楽しい楽しい殺人の時間が、ターゲットの僕がやる気無さ過ぎて成立しなくなってしまうのだから。



逃げる者を追うのも楽しみの一つなのに僕は逃げない。

泣き叫び時に逆上し、ころころの変わるターゲットの表情も楽しみの一つなのに僕の顔には笑顔だけ。





確かに、僕が彼等の立場なら、僕ほど面白くないターゲットはいないだろう。








「皆さんの楽しみを奪ってすみません。けれど、これが僕の皆さんに対する最初で最後の嫌がらせです。どうぞ僕を拷問するなりなんなりすれば良いですよ。暴力は受け慣れているので、僕の笑顔は変わりませんが」


それこそ、ナイフで刺されてそのまま傷口を抉られても、目玉をくりぬかれても、僕の笑顔は変わらない。

忌々しそうな顔をする彼等に、僕はにっこりとした笑みを深めた。





予定が狂わされて壊されて、悔しいでしょう?腹が立つでしょう?苦々しいでしょう?


嗚呼・・・









――皆さんのそういう顔が見たかったんです!!!!









僕は人生初の“快感”に酔いしれていた。







快感を得る方法







後は死んでも生き残っても構わない。


まぁ・・・

この快感をもう一度味わえるなら、生き残っても良いかもしれないけど。




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