ドンッ
「ぁ・・・すみません」
僕はその場に立っていただけだから、ぶつかって来たのはあっちなんだけど、生憎ジャポン育ちの自分としては、反射的に謝ってしまう。
「ううん。いいよ♥」
顔を上げてばっちり視界に入ってしまったのは、奇抜なメイクのピエロみたいな格好をした人だった。
なんとなく、格好良い人だってのは分かるけど・・・ぅーん。体中から“変人”のオーラが出ている。これは、変なヤツを関わってしまったらしい。
道端でボーっと立っていた僕も悪いのだけど、変人をお知り合いになってしまうという罰ゲームを受けるほど、僕は悪くは無いはずだ。
それにしても、実際はこの男からぶつかって来たのに、謝らないとはどういうことだ。
そのことにちょっと不満を覚えながらも、面倒なことを自分から引き起こすつもりはないから、とりえあず「本当に、すみませんでした」と頭を下げた。
「君、良く謝るねぇ。気にいっちゃったよ♥」
「・・・ノーサンキューです」
「ぅーん。つれないねぇ♠」
そういいつつ、笑顔なその人に「名前はなんだい?」とやっぱり笑顔で尋ねられる。
「・・・・・・」
「んー。僕はヒソカだよ♠」
「・・・ナマエです」
そう言うが早いか、僕は腕を掴まれた。
・・・というか、勝手に腕を抱きしめてきた。ゾワッとした。
まるで、恋人つなぎみたいに、僕の腕に絡み付いてくるヒソカという彼に、僕は「止めてください」と出来るだけ冷静な声で言う。
そうじゃないと、更にからかわれる気がしたから。
けれども、僕の拒否の言葉に「嫌だよ♥」という短い一言でなかったことにされてしまう。あぁ、なんということだ。
「どうせボーっとしてただけなんだから、ちょっと付き合ってくれないかい♥」
僕がボーっとしてたのを知っているということは、僕のことを見てたということか?
・・・だったら、何故わざわざぶつかったのだろう。ワザとか?
「君、顔も良いし気に入っちゃったよ。僕と遊ばないかい?」
「まさかのナンパ・・・・・・お断りします」
ウンザリしながらそう返事をすると「やっぱり、つれないねぇ♠」といわれる。
別に、男同士とかに偏見があるわけではないけど、生憎僕はノーマルだ。
それに・・・
「知り合って間もない人をどうこうするつもりはないです」
「じゃぁ、知り合ってしばらくたったら大丈夫ってことかい?」
そうきたか。
「残念ながら、僕はこれ以上貴方と関わり合いになるつもりがないので、それは無理な話だと・・・」
「毎日会いに来るよ♥折角、ワザとぶつかって話しかけたんだからね」
やっぱりワザとだったのかよ。
・・・けど、そんなことより・・・彼の言葉に「ぇ・・・」と声を漏らしてしまう。
僕に「ばいばい♥」と言って、颯爽と去っていった彼に、僕は呆然とするしかない。
けど、まぁ・・・冗談だろう。と片付けてしまった僕は、大馬鹿者だ。
「来ちゃった♥」
次の日、何故か目が覚めたら自分のベッドに忍び込んでいたヒソカに、僕は声無き悲鳴を上げていた。
路上にご用心