「あれ・・・」
河川敷に見たことのない人が立っていた。
その人は川の流れをぼんやりを眺めながら「夏になったら泳ぎたいかもな」なんて呟いて・・・
「あの・・・どちら様?」
つい声をかけてしまった俺を、相手は逆に不審そうに見た。
「何だアンタ、突然喋りかけてきて吃驚するじゃないか」
全然吃驚している様子はなかったが、俺は「ぁ、すみません」と反射的に謝った。
相手は再び川を見て「たまにはこういう景色も見てみるもんだな」と口元に小さな笑みを浮かべると「さて、そろそろ帰るか」と俺に背を向けた。
何だ、河川敷の住人じゃないのか。
相手が普通の一般人だとわかった途端、俺の心が晴れやかになった。
あぁそうだ。この河川敷には、自称妖怪とかという変なヤツばかりがいるんじゃない。
普通の人も通るんだ!!!!!!
俺は口元に笑みを浮かべて意気揚々と歩き出そうと――
バーンッ!
「!?」
俺の心の平穏は一瞬で砕かれた。
銃声に吃驚したのは俺だけじゃなく、俺と少し離れた場所にいたあの人もだった。
は?銃声?とあまりに普通な反応をしている相手に俺はまた安心。
しばらくするとザッザッザッという音がこちらに近付いてきた。まさかと思い身構える。
「む。外したか・・・」
「外したか・・・じゃありませんよ!何やってるんですか、シスター!」
やはりシスターだった。
どうやら相手を不審人物か何かと判断したようだ。というか、シスターの方が不審だろう!
しかも何普通に銃を取り出してるんだ。もし警察に通報されたらどうするつもりなんだ!
「いや・・・ぶち抜かれたぜ」
え?
「アンタがぶち抜いたのは俺の身体じゃねぇ!俺のハートだ!」
・・・あぁ何だコイツも変人か。
俺は心の平穏が幻想だったことに気付いて軽く涙を流した。
「惚れちまったよ。アンタ、名前は何て言うんだ?」
相手の人はシスターに近づくと、にかっと明るい笑みを浮かべた。
シスターは首をかしげその顔を見つめている。
「し、シスター。まずはその銃を仕舞って・・・」
「シスター!ぴったりの名前じゃないか。俺は名前って言うんだ。出来れば覚えて欲しい」
俺の言葉を遮ってシスターの手をぎゅっと握った名前さんという人。
「名前・・・?」
「そうだ!あぁ・・・まさかこんなところで運命の相手に出会えるなんて思ってもみなかった。シスター、俺はお前を愛してる。全身全霊で愛そう!」
運命の相手とまで言い出した名前さんに俺は引く。一度変人だと認識するととことん変人に見えてしまうのだから困る。
肝心のシスターは突然のことできょとんとするばかりだし。
「愛してる・・・シスター」
「名前?」
あろうことか名前さんは一気にシスターとの距離を詰め、その腰へと手をやった。
あまりのことに俺は硬直したままその場から動けない。
ど、どうなるんだ。この後どうなってしまうんだ!?
「俺の愛が嘘偽りだと思うなら、何時でもその銃で俺の眉間を打ち抜いてくれたって構わない!お前を愛している、シスター!」
その気迫にシスターは大きく目を見開き、それからゆっくりと銃をさげた。
「・・・いや。お前のその言葉に嘘偽りはなさそうだ」
「あぁ。嘘偽りはない!」
名前さんはシスターの腰をぐいっと引き寄せてにっと笑った。
「シスターは此処に住んでいるのか?」
「あぁ」
「じゃぁ俺も此処に住む。シスターのところに住ませてくれよ」
は?と思わず声を上げてしまった。住む?しかも、シスターのところに?
「構わないが・・・」
え?何言ってるんだシスター。
「じゃぁこれからよろしくな!シスター!」
「あぁ」
えぇぇえっ!?と俺の口から絶叫がこの河川敷へと響いた。
突然この河川敷の住人となってしまった名前さんは、意気揚々と「じゃ、荷物取ってくる」と走り去ってしまう。
俺は慌ててシスターに「ちょっ!シスター!良いんですか!?」と声を掛けるが、当の本人は「何がだ」なんて言う。
「え?何がって・・・突然告白してきた人だし・・・まして一緒に住むなんて」
「・・・・・・」
しばらく黙ったシスターは・・・
「・・・!」
大きく目を見開いて押し黙ってしまった。
・・・もしかしてシスター、突然の告白に意外と動揺してその後の話を良く聞いてなかったのか!?
俺は一人無言で慌てるシスターを見ながら、あぁ今後もこの河川敷に平穏は訪れなさそうだな、と肩を落とした。
撃ち抜かれたハート
(シスター!荷物取ってきたぞ!)
(・・・っ)
(ん?どうしたんだシスター、顔赤くして・・・可愛いぞ)
(!?)