俺の友人は、物凄く金持ちで、確かに頭も良いのだが、ナルシストで残念な性格をしている。
まぁ長い付き合いだから、ナルシストな部分はほとんど気にならなくなったけど、俺の誕生日とかのたびに馬鹿みたいに高いプレゼントをよこしてくるところは、そろそろ直してもらいたい。
そんな友人は、ひょんなことから・・・橋の下で生活することになったらしい。
それを伝えられたとき、最初こそ驚いたが・・・
まぁ、友人が橋の下でいろんなことを学んで、成長して帰ってきてくれればと思っている。
・・・俺は何処ぞの父親だよ。アイツの父親になるなんて、絶対に嫌だ。何が何でもお断りだ。
「・・・ぁー・・・」
で、だ。
久しぶりに友人の姿を確認しようとやってきたこの俺。
此処にくる途中、実に苦労した。
女の子たちに逆ナンされたり、男からもされたり、いろいろ疲れた。
アイツに手土産の一つでも持っていきたかったが、あの惨状の中で土産を買う余裕なんてあるわけがない。
あったら俺はどれだけすげぇ奴なんだよ。あれか?戦場を駆け巡る兵士か?ん。なんか格好良い。
「ぉーい。誰か居ますかぁー」
とりあえず、橋の下を覗き込むようにしながら声を上げる俺。
「成金でナルシストな人間的に駄目な青年、イコール市ノ宮行君はいますかー。いたら、5秒以内に返事してくださぁーい。さもないと、小さい頃のアレやコレという恥ずかしい過去を暴露しちゃうぞー。せぇーの、いぃーち――」
「いきなりやってきて何言ってるんだ、名前!!!!!!!!!!」
「あぁ、いた。早いな、行」
早速登場か、俺の友人よ。
「・・・久しぶりにその名前で呼ばれた気がする」
意味不明なことを言っている友人こと行に不審そうな目を向ければ「普段はリクルート・・・リクって呼ばれてるんだ」と、またしても意味不明なことを言う。
「はぁ?リク?」
まぁ、そんなことどうでも良いか。
「じゃぁ、ここじゃリクって呼んだ方が良いのか?」
「別にどっちでも良い」
「っそ。じゃぁ面倒臭いし行で良いか」
俺が欠伸をしながら「あ、土産とかねぇから」と言うと「お前ってそういうヤツだよな・・・」と行がため息を吐いた。
「ほら、さっさとお前のねぐらに案内しろよ」
「あぁ・・・」
もうあきらめたと言う風な行に連れられて向かったのは・・・
「違法建築って言葉を知ってるか?」
橋の下に建てられた立派な家へとつながる梯子の前だった。
橋の下にあんな立派なワンルーム建てるヤツがあるか。
呆れた声の俺に行は軽く冷や汗を流す。
「・・・し、知ってる」
「おいこら、目を逸らすな」
知っているがやむを得なかったと言いたげな行に俺はため息を吐いて「まぁ、俺は役人じゃねぇからどうでも良いけど」と言いながら行の家に向かって梯子を上る。
中に勝手に入れば、中は吃驚するぐらい充実していた。
何かいらっとして「・・・お前、ホームレスに謝れ」と言いながら行を小突いた。
「い、いきなりなんだ!」
「おいおい、パソコンまでありやがる・・・キッチンまで。お前どんだけ此処にいる気満々なんだ」
「ぇ・・・」
「お前が大変そうなら、お前を此処から連れて帰ろうかなってちょっとは考えたが、こりゃもう満喫してる感満載だな」
此処での生活は快適そうだ。
「連れ帰ろうとしたのか?」
「正確にはお前を此処から連れてって、お前の秘書に託す気でいた」
一拍置いて、俺は大きなため息を吐く。
「まったく。お前は心配かけ過ぎなんだよ。此処に住むことになったって言って以来、俺に全然連絡よこさねぇし・・・俺がどれだけ心配したと思ってるんだ」
「心配・・・してくれてたのか?」
心底驚いたような行の声。
「心配しねぇわけねぇだろ。友達なんだから」
「・・・・・・」
行はしばらく呆然と立ち尽くした後、ゆっくり下を向き・・・
ドッ
「ぅ・・・」
タックルの勢いで俺に抱きついて来た。
見れば行の耳は赤くなっている。俺の言った言葉が恥ずかしかったのだろう。
俺は苦笑を浮かべつつ、行の頭をそっと撫でた。
友人心配中