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そもそも俺は絵画とか、そういう類にはあまり興味はなかった。


けれど何となく街の掲示板に張られていた【ワイズ・ゲルテナ展】には、心惹かれる何かがあった。

だから行った。





「・・・ぁーあ」


桃色のバラを手に、俺は小さく声を漏らした。




バラの花びらは残り少ない。

花瓶は見当たらない。




突然迷い込んでしまった不思議なこの世界。どうやら、俺の手にあるこのバラは、俺の命に直接的に関係しているらしい。


俺の疲労に合わせ、バラの花びらは徐々に減っていく。





「ハァッ、はぁ・・・」


息が上がってきた。


さっき変な首のないヤツから逃げたせいだ。






「――ねぇ」


「・・・!」





俺はバッと振り返って相手に拳をぶつけようとする。






「きゃっ!?な、何すんのよ!!!!」




「ぁっ、に、人間?」

慌てて拳を止める。


そこに立っているのは、青いバラを持ったコートの・・・ぇーっと、男?男だよな、うん。





「な、何じろじろ見てんのよ」


腕を組んでむっとした顔をするソイツ。



「ぃや・・・男だよな?」

「・・・悪い?」



「・・・・・・いや、悪くない」





そのことについて触れるのは、俺にとっても良くないだろうな。うん。


俺は小さく苦笑を浮かべ「生きてる人間、俺の他にもいたんだな・・・吃驚だ」と呟く。





「それはアタシの台詞よ。・・・ちょっと!アンタそのバラ・・・!!!」


「ぇ?ぁー・・・もぅ駄目っぽいな」





「貸して!あっちに花瓶があったわ・・・アンタもうまともに動けないんでしょう?アタシが助けてあげるから」


目の前のコイツを信用して良いのだろうか。


今までは人とは到底思えない姿をした化け物たちばかりがいたが、もしかしたら目の前のコイツも・・・



「・・・あぁ、頼む」


けどまぁ、このままいけばどのみち俺は死ぬし、賭けてみるのも良いだろう。


桃色のバラをソイツに差し出すと「すぐ戻ってくるわ」と言って、走って行った。





「ぁー・・・死にそ・・・」


俺はガクッとその場に座り込む。

もう立つ力も残ってなさそうだ。




このまま死ぬのか・・・


そう覚悟をしたとき――・・・一瞬にして、身が軽くなるような感覚がした。






「ぇ、ぁ・・・」

「大丈夫!?」


戻ってきたあの男の手には、綺麗に咲いている桃色のバラが・・・





「お前、本当に助けてくれたんだ・・・」


「ちょっと・・・まさか、アタシのこと疑ってたわけ?」




「んー・・・悪い」

素直に謝って俺は立ち上がった。





「俺はナマエ。お前は?」

「ギャリーよ」



「へぇー、よろしくな、ギャリー」


握手をして笑う。




さっきまでの非現実的な状況と今の状況では、おそらく天と地との差があるだろう。

相手の口調がどうであれ、ギャリーの出現は確実に俺の心を救った。







「さぁーって、さっさと此処を脱出しねぇとな。一緒に頑張ろうぜ、ギャリー」


「えぇ、もちろ――ぎゃぁ!?」




ギャリーは壁の絵がぎょろっとこっちを見たのを見て、悲鳴を上げる。





「あははは、ギャリーは怖がりだな」

「ぅ、うるさいわね。ちょっと吃驚しただけよ!」



「ぁー、はいはい。仕方ないから、俺が守ってやるからな」




ギャリーの手を引いて歩き出せば、意外にも反論は聞こえなかった。










ギャリーは勘が良かった。

だから、危険は出来るだけ回避できた。




しかし・・・



どれだけの時間が経過した頃だったろうか。






「ぁッ、あァっ・・・!!!!」


俺の目の前には、恐ろしい光景があった。

ギャリーには見えてない。俺だけにしか見えてない、地獄絵図。




それこそ、心が壊れてしまいそうな――












「ナマエ!しっかりなさい!!!!」


いやだ・・・




「嫌だ・・・死にたくない・・・死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたく――」






パチーンッ!!!!!


頬に衝撃。


俺は呆然とギャリーを見る。





「死にたくないなら、さっさと此処を出るわよ!ナマエ、アタシを守ってくれるって言ったじゃない。嘘だったわけ?」


仁王立ちしていうギャリーに、俺の心が徐々に回復して・・・





あぁ、ギャリーに本当の意味で救われたのは、これで二度目か。






「・・・サンキュ」


口元に笑みが戻ってきた。


あぁ、心音が正常に戻っていく。





俺はギャリーの頬にそっと手を添え、その唇に小さく口づけた。





「ちょっ、ぎゃぁ!?な、何すんのよ!!!!」

「ぁ、わりぃ・・・」


「悪いじゃないわよ!ぃ、いきなり唇奪うなんて!」




「悪かったって。けど減るもんじゃないだろ。何だったらもっかいするか?」


「・・・この馬鹿!!!!!」




ゴッと膝蹴りが腹に入る。


・・・ギャリー、見ろ。俺の花びらが一枚落ちたぞ。





俺は腹を軽くさすってから、再びぎゅっとギャリーの手を握った。







「俺、ギャリーがいれば脱出できる気がするや」

「・・・ナマエは、世話が焼けるわね」



「あははっ!そうかもな」


声を上げて笑う。

ギャリーも笑った。





さて・・・





「さっさと此処を脱出しよう。脱出したら、お礼に美味い飯でも食わしてやるよ。良い店知ってるんだ」

「あら、それは楽しみね」



俺とギャリーは、迷わず前に進み始めた。




君に救われました



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