「ギャリー、これ、とーってもおぃしぃー」
苺ソースのかかったケーキを食べながら、ナマエはふわふわと笑った。
あぁッ、可愛いわナマエっ・・・
「ほら、ナマエ。紅茶よ」
「おさとぉー!」
「はいはい」
近所に住んでいるバツイチの女友達の息子。まだ幼稚園生。
女で一つでこの子を育てている母親は、どうしても仕事で息子の面倒が見れないときは、アタシにお願いしてくる。
アタシもそういうの嫌いじゃないし、二つの返事でOKしてるってわけ。
で・・・その息子のナマエが、そりゃもう可愛くて可愛くて・・・
たどたどしい言葉も、小さなその姿も、目に入れても痛くないってぐらい可愛いッ。
「おさとぉー、おさとぉー♪」
「あまり入れ過ぎちゃだめよ?虫歯になっちゃうから」
「うん!」
素直で可愛いわぁ。
アタシは軽く頬を緩ませながら自分の分のカップに口を付ける。
「あのね、あのね!ギャリーはキスしたことあるぅ?」
ブフッ!!!!と飲んでいた紅茶を噴出した。
ナマエが「わぁ!?ギャリー、ふんすい!」と叫んでいるけど、それどころじゃないわ・・・
「ききききききき、キス!?だ、誰に言われたの、そんなこと!」
アタシの可愛いナマエにそんなことを吹き込んだのは誰!?
「あのね、同じ幼稚園のミウちゃん!ミウちゃんがね、キスはレモンのあじするっていってた!」
ち、近頃の幼稚園生って、どれだけマセちゃってるの!?
「ねぇねぇ、ギャリーはキスしたことあるの?」
「ぇっ・・・ぇーっと・・・ない、わけじゃない、わよ・・・?」
「レモンあじだった?」
あぁッ、そんなキラキラした目でアタシを見ないで!!!!
何だかアタシがただの穢れた大人みたいじゃないッ!!!!
「さ、さぁ・・・どうだったかしらねぇ・・・」
「・・・・・・」
「ナマエっ、その・・・ケーキ、もっと食べるでしょ?」
「ギャリー・・・ぉしえてくれないの・・・?」
「ッ!!!!!」
うるうるとした目がアタシを見つめている。
ナマエのくりくりした目にじわぁっと涙が溜まっている。
「あぁ、駄目よ!泣かないでっ・・・」
「だ、って・・・ギャリーがおしえてくれないんだもん」
もん、て・・・可愛いわね、ホント。
「ぉ、大人になったらわかるわ。ね?」
何とかナマエが泣かないように声をかける。
ナマエは「ぅー・・・」と下を向く。
どうしようかしら・・・本格的に拗ねちゃったみたいね。
アタシはナマエの頭を撫でて「良い子だから、もーちょっと待って。ね?」と言う。
ナマエの返事はなくて、代わりに小さな嗚咽が聞こえた。
ぎょっとしてナマエを抱き上げ「よ、よしよし。良い子ねぇ、ナマエは良い子!だから泣かないで!」と必死にあやす。
「・・・ギャリー」
「な、なぁに?ナマエ」
アタシの腕の中にいるナマエが、ゆっくり顔を上げた。
その顔は、全然泣いてなくて――
ぁ、ら?
チュッ
「・・・ぇっ?」
「レモンあじ、しなぁーい」
「!?!!!?!?!??!?!」
アタシはナマエを慌てて床におろし、自分の口を押えた。
え?何?今、まさか・・・
ナマエにキスされちゃったの!?
「ギャリー、ギャリー。ねぇ、ギャリー」
「っ、ナマエ・・・」
あぁぁぁあああッ、アタシ、この子の母親にどんな顔して会えば良いのっ!?
・・・ぉ、落ち着くのよアタシ。
相手は子供じゃない。今のは事故。事故なのよ――
「ギャリーとのキスは、イチゴあじだったね!」
「・・・・・・」
アタシは無言でその場にうずくまった。
ファーストキスはイチゴ味