好きな人がいる。
その人のことを考えると、その日一日幸せだっていうぐらい、好きな人。
「ぁ・・・」
そんな人の家に遊びに行くことにしたんだ。お土産を持っていかないわけがない。
街中で発見した可愛らしい店の店内にある、ガラスケースの中のマカロン。
男の俺が入るのはちょっと恥ずかしかったが、このマカロンが好きな人も見た目的には男だったことを思い出し、結構すんなりマカロン購入。
「あの、これも一緒に中に入れてください」
「畏まりました」
店員に小さな紙を差し出せば、その店員は何処か微笑ましそうにその紙を箱の中に忍ばせた。
やっぱり恥ずかしくなってその店を足早に立ち去ってしまう。
ピンポーンッ
好きな人の家のチャイムを鳴らす。
がちゃっと開いた扉から、好きな人が現れる。
「ギャリー」
自然と口は名を呼んで、自然と顔には笑みが浮かんだ。
「あら、ナマエじゃない。いらっしゃい」
にこやかに言うギャリーに俺はもっと笑みを深め「今、時間大丈夫?」と尋ねると「もちろん」という返事が返ってきた。
ギャリーの家に入ってから、さっきの店の可愛らしい箱を見せる。
「それなぁに?」
「お土産。マカロン買ってきたからお茶入れて?」
「まぁ!気が利くじゃない」
明らかに機嫌をよくしたギャリーが、軽い足取りでキッチンへと向かう。
その間俺はソファに腰かけ、ギャリーが戻ってくるのを静かに待った。
「お待たせ!さぁ、食べましょ」
ティーポットに二つのティーカップ。
ギャリーのことだ。紅茶はきっととても甘い。
俺の目の前でギャリーによって注がれる紅茶に、俺は小さく笑った。
「開けて良いかしら」
「良いよ。ギャリーのために買ってきたんだ。好きに食べて」
笑顔で言う俺の目の前で、箱が開けられる。
嬉しそうな顔のギャリーが、マカロンを一つ手に取った。
「ん〜〜〜っ!美味しい!これ、すっごく美味しいわ」
満足そうな顔をするギャリーを見ていると、こっちまで嬉しくなった。
「ほら。ナマエも食べなさいよ」
「んー、俺、甘いものちょっと苦手だし」
「いいから、ほら」
そういって俺の口に鮮やかな色をしたマカロンを突っ込むギャリー。ちょっと吃驚した。
「むぐ・・・ん、美味いな」
「でしょ!」
もう一個マカロンを食べようと箱に手を伸ばしたギャリーが「あら?」と声を上げた。
「マカロンの箱に、何か・・・」
俺は平常心を保とうと、何も考えないようにしながら、ギャリーの淹れてくれた甘い紅茶を飲んだ。
甘いものが苦手な俺だけど、ギャリーの甘い紅茶は苦手じゃない。むしろ好きだ。
「ナマエ!」
「わっ・・・」
突然視界いっぱいにギャリーが現れる。
その手にあるのは、メモのような小さな紙に書かれた、俺からの手紙。
するっと俺の首に腕を回し、ぎゅーっと抱きついて来たギャリーに慌てていると、その口から「馬鹿」という言葉が聞こえた。
「・・・情けない男ね。そういうことは、直接言いなさい」
「・・・ご、ごめん。気を悪くした?」
「そんなわけないじゃない!・・・嬉しいに決まってるわ」
にっこりと笑っているギャリーに嬉しくなって、俺のその唇に口付ける。
「きゃっ?!ちょっと!そういうのは、何か行ってからなさい!」
「ギャリーの唇、甘いや」
「〜〜〜っ、アンタの台詞の方が甘いわよ!」
その言葉に俺は笑って「そうかな?」と言って、ギャリーを抱き締めた。
ギャリーの手にある手紙がちらっと見えた。
【誰よりも愛するあなたへ、俺の精一杯の愛を籠めて ナマエ】
自分で書いたその短い手紙。
何だか今頃になって、自分の書いた手紙に恥ずかしくなった俺は、ギャリーの首筋に顔をうずめることで、その手紙から目をそらした。
甘いマカロンに添えて