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【1日目】

私には愛してやまない主君がいる。
何度見ても飽きぬお方だ。主君の行動の一つ一つを記録したいものだと、日々思っていた。

だから今日から私は、元就様観察日誌なるものをつけようと思う。



【2日目】

今日は元就様が他の兵士を罵っておられた。
ずるい。私だって元就様に構って欲しい。



【3日目】

今日は元就様に仕事を頂いて、他国の情報を集めに行った。

帰りに甘味をお土産に持って帰れば『仕事中に余計なことを』と怒られたが、お土産はしっかり受け取っていただけた。
こっそり見に行ったところ、甘味は綺麗に食べてくださったようで安心。

やっぱり元就様は可愛いお方だ。



【4日目】

元就様の元へ長宗我部殿がいらした。
元就様は鬱陶しそうにする割には、長宗我部殿とよく喋っているように見える。
ずるい。そう思うが、仕方ない。

とりあえず、偶然に見せかけて長宗我部殿に運んできたお茶をぶっかけておいた。大丈夫。若干冷めたものだから。



【5日目】

今日は戦だった。
元就様の見事な策で、今日も無事勝利を収めた。

流石は元就様です。私は貴方のためなら捨て駒扱いされようと幸せです。



【6日目】

ここだけの話、今日は凄いものを見てしまった。
昨夜は遅くまで執務をなさっていたから、あまり眠れなかったのでしょう。
元就様が寝ぼけて、その・・・何時ものように日輪を見るために外に出たと思えば、よろよろと足をもつれさせ、池に落ちてしまわれた。

周囲が駆けつけて騒げば、元就様の心に傷がつくと思い、気絶する元就様を慌てて救出しお召し物をかえ、部屋に寝せておいた。

幸いなことに、目を覚ました元就様はそのことを覚えてらっしゃらなかった。よかった。



【7日目】

今日は非番だったが、元就様のもとを離れるのは実に忍びなかった。
元就様の身にもしものことがあったらと思うと、なかなか城を出られなかったが、同僚に『たまには休め』と言われ、渋々外に出た。

久しぶりに地元を練り歩いてみたが、あまり楽しくはなかった。
やはり私には、元就様の傍にいる以外、幸せはないらしい。再確認出来る良い一日だった。



【8日目】

今日も戦である。
今回の戦は長くなるということで、先に書いておくことにする。

元就様はお変わりなく涼しい顔をしておられる。元就様を守るために、私は精一杯力を尽くそうと思う。










(以下、空白のページが続く)









【???日目】

やっと城に帰ることが出来た。
不覚にも私は敵に怪我を負わされ、仲間ともはぐれてしまっていた。
元就様が無事が不安だったが、どうやら毛利軍は勝利していたようだ。よかった。

左腕を失ってしまったが、文字を書くにも刀を握るにも、大きな問題はない。これからも、元就様に仕えたいと思う。



【???日目】

周囲の仲間が私のことを心配する。
私のことを構う暇があるなら元就様のために駒として最善を尽くすべきだ。

嗚呼、今日も愛しい元就様は強く美しく方だった。こんな主君を持てた私は幸せ者である。



【???日目】

どうやら、失った腕から病を発症したのだろう。高熱で意識が朦朧をする。
元就様のご迷惑になってしまう。早く直さねば。



【???日目】

熱が引かない。



【???日目】

目がかすむ。良く見えない。



【???日目】

視界が歪んでいる。うっすらとしか文字も見えない。





【???日目】

もとなりさま、あいしております。










(以下、もう文字は書かれていない)










パタンッ


音を立てて閉じた書物に、我はフンッと鼻で嗤う。




「馬鹿な男よ」

その部屋にいるのは、我ともう一人・・・

我にとってはただの駒の一人であったはずの男。



ある戦で消息を絶ち、左腕を失って帰ってきた男だ。


その腕から病を発症し、今や両目の光を失った。

盲になったその男は、もはや捨て駒としての価値すらない。



そんな男と親しいという捨て駒が、我に頭を下げ、どうか会ってほしいと言い出した。

斬り捨てても良かったが、その捨て駒の働きは、他の捨て駒よりも良い働きをしていたことを思い出し、少しだけ見ることにした。


我が来たと言うのに深く深く眠っていたその男の枕元には、その書物があった。





中身はこの男自身が書いたのだろう。

最後の部分は、もはや解読が難しい程、字が歪んでいる。良く見えない目で書いたのだろう。




「・・・くだらぬことを」


何が観察日誌だ。愚かな。

我はその男の傍に自然と腰かけていた。



医者曰く、もう目に光が戻ることはないそうだ。


あぁ、まったく・・・







「愚かな男よ。貴様は」






「・・・それでも、私は貴方のことを愛しております」



「・・・起きたか」

「元就様がいらした気がしたので」


ふふっと笑った男は、起き上がろうと残っている手を動かす。







「起き上がるな」

「・・・はい」


ぽすっと男が元に戻る。

何処までも我に忠実な男だ。




「馬鹿な日誌を付けおって」

「おや・・・見られてしまいましたか。お恥ずかしい」



「・・・我に隠れてそのような日誌など」


「申し訳ありません」



口元に苦笑を浮かべたその男に、我はため息を一つ。





「・・・まぁ良い。体調が落ち着いたなら、また働いてもらうぞ」



「!・・・元就様、私はもう盲です。捨て駒の価値さえ・・・」



あぁ、その通りだ。

この男にはもう、捨て駒の価値はない。


だが・・・






「貴様には教養があっただろう。それを有効に使え」


「・・・感謝いたします。元就様」



「・・・フンッ」









【もとなりさま、あいしております】








頭にちらついたのは、歪んだ・・・けれど精一杯書かれた文字。


・・・別にあの文字に絆されたわけではないぞ。

ただ我は・・・






「これからも、きっちり働いて貰おう」


「はい。畏まりました」





・・・この男に興味が湧いただけだ。





元就様観察日誌



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