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「僕の過負荷はね、ぇーっと・・・『心変わり《ハートチェンジ》』って言うんだ」



とある少年は言いました。



「あ。過負荷ってこと、言ってなかったっけ?すみません」


ぺこっと頭をさげた少年の顔には笑顔がある。

とある少年は過負荷だった。






「僕は皆に愛される。僕無しでは生きることさえ無理だと言われちゃうぐらい。けどそれは・・・最初だけ。時間制限付きなんだ」


少年は、入学当初から特に特徴の無い生徒だった。

容姿は整っているものの、目を見張る程という訳でもない。


それでも、好かれる者からは絶大な支持を受けていた。





「愛されるだけなら、漫画のヒロインみたいな“逆ハ補正”みたいでしょ?でも、それだけじゃ終わらないんだなぁ・・・」


だが・・・入学からしばらく経てば、その支持はまるで最初からなかったかのように消え去った。





「ある日突然、皆“心変わり”しちゃうんだ。恋人だった相手は浮気して、浮気相手を本気で好きになって、はいさよなら。親友は些細な事で仲違いして、これもさよなら。一度さよならした相手はもう二度と会うことはない」


中学の頃付き合っていた女子は高校へ上がるのを機に別れを告げられた。

この学園で付き合った女子も全て浮気して終わった。

親友と呼べる生徒とはすぐに仲違いを起こす。




「一番最初に僕から心変わりしたのは両親だったなぁー・・・弟が生まれてさ、両親は僕から弟に心変わりして――僕を養護施設に預けちゃったよ。そのままもう二度と迎えには来なかったから、預けられたというより、捨てられたの方が正しいかな」


心に傷がないわけがないのに、少年はやっぱり笑顔だった。


まさに、それしか知らないかのような立ち振る舞い。

それは以前、誰もが愛おしいと思った笑顔のはずなのに、今はどうにも気味が悪いものだった。


まるで、彼等に罹っていた魔法が一気に解けてしまったかのよう・・・





「これが僕の過負荷。僕に深く関わった人はもう二度と僕の前には現れない。僕は親しい人を作れない。僕はずっと一人でいるしかない。傍にいるのは他人ばかり」







とある少年はずっと独りぼっちだった。

誰かが手を差し伸べて自分を愛してくれる度に期待した。



けれどその期待はすぐに裏切られてしまう。


裏切られて、また愛されて、でもやっぱり裏切られる。

そんな繰り返しで、彼の感覚は麻痺していた。




愛してくれる者は全力で受け入れた。

裏切られても特に何も反応しなくなった。


だって、彼はどうせ独りぼっち。

気にするまでもないのだ。



どうせ独りぼっちなのだから。

どうせどうせどうせどうせどうせ・・・








「だから、こうなることもわかってました。結局、最後はこうなるだろうって」








少年は笑みを深める。




「だから・・・――貴方が浮気したことに関して、僕は一切責めたりはしませんよ。阿久根先輩」







「・・・そうか」

彼の笑顔を見ていた阿久根。

彼等から少し離れた場所に、阿久根の新しい恋人が待っている。


あまり長話をする時間はないのだろう。

阿久根は「話はそれだけだ。すまない」と言いながらくるりと背を向ける。





それは、その少年が最初から予想していた・・・けれど、覚悟はしていなかった結末。

それでも少年は笑うのだ。だって、それだけしかできないから。


どうせ少年は過負荷。独りぼっちの過負荷。




遠ざかって行く、かつて愛した人。

本当はまだまだ愛していたかった人。


でも少年はわかってる。



もう彼は、己の目の前には二度と現れないことを。

彼はそういう過負荷なのだ。




だから・・・









「 さようなら 」







とある少年は、そう言いながら笑った。




・・・頬を伝う雨の名前も、遠い昔に忘れた。





心変わりの過負荷



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