ザクリッ
殺されました。
愛する恋人に殺されました。
で・・・
「ぁー、吃驚した」
生き返りました。
愛する恋人はそれを見てほっとした顔をすると、ギューッと僕に抱きついてきます。
今週だけで10回以上は殺されている気がします。
けれど、その度に生き返る僕。
昨日は射殺されました。
その前は毒殺されました。
そのまた前は刺殺されました。
どれもコレも、中途半端なんて一つも無い、物凄く正確な殺し方で・・・やっぱり僕の恋人は天才なのだと思いました。
「・・・形・・・」
「・・・んッ、名前・・・」
「大丈夫。生きてるよ」
傷一つ無い僕がそういえば、恋人は僕に抱きついたままコクッと頷きます。
僕の恋人は僕が愛しいからという理由で僕を殺します。
あぁ。あと、一緒にいて欲しいから殺すそうです。
僕が一緒にいてくれるのが嬉しくて殺すそうです。
けれど、殺した後の形は、酷く悲しそうな顔をします。
「大丈夫だからね。僕は、絶対に“死なない”からね」
そうそう。
そういえば僕も天才です。異質です。
何でも、生死を自由自在に動かせる天才だそうです。
最初にその異質に気付いたのは、昔飼ってたペットが死んだ時。
死んで欲しくないと思ったら、ペットは生き返って、両親はそんな僕を気味悪がりました。
それ以降は、何があっても絶対に僕はこの才能を使いませんでした。
ずっと、普通《ノーマル》のフリをして過ごしていました。
けれど、僕は今は恋人と出会ったことにより、恋人と同じクラスになりました。
理由か簡単です。
形が僕を殺してしまったからです。
形が僕に好きだと告げて、僕も形が好きだと告げた瞬間に、殺されました。
嬉しかったから殺す。
愛しかったから殺す。
たしか、その時の形はそんなことを言っていた気がします。
死んだ僕を抱き締めながら泣いている僕に、僕は死んだら駄目なんだと思いました。
ピクッと身体を震わせて文字通り“生き返った”僕を見た形は「・・・良かったッ・・・」と言って、また泣いた。
「名前ッ、名前・・・死なないで・・・」
「死なないから。ずーっと、一緒にいるから」
僕の胸で泣きじゃくっている形をよしよしと撫でながら笑います。
「名前を殺しちゃう・・・」
「殺しても死なないよ」
愛しい恋人が望むなら、何度でも生き返ってあげますから。
「名前はっ、僕のこと・・・好き?」
「好きだよ、とっても。愛してる」
君のために、僕は“普通”を捨てたんですから。
形のことを愛しているから、両親から再び邪険にされる道を選んだんです。
「僕もっ、名前のこと愛してるっ・・・だから、殺す」
「うん。形のことを愛してる。・・・だから、生き返る」
ザクリッという音と、一瞬絶命する感覚。
けれどすぐに形に笑いかけます。
「ほら。生き返ったよ、形」
「んっ・・・名前っ・・・有難う」
「どういたしまして」
形のためなら・・・
何度でも死にましょう。
何度でも生きましょう。
それが、僕がこの才能を手に入れた理由だと思いたいから。
僕が死んではいけない理由