「おや、君が虎徹の相棒っていう、バニーちゃんかな?」
街中で突然「んー?君、ちょっと君」と肩を叩かれたと思えば、僕はそんな言葉を投げかけられた。
「・・・バーナビーです」
うんざりしたように返事をすると、相手はきょとんとした顔をする。
・・・まさか、僕のことを本気で“バニーちゃん”という不名誉な名称で覚えていたのか?
「ぁれ・・・そうなの?虎徹が君のことを説明するときは何時も『バニーちゃん』というから、てっきりそうなのかと・・・」
「というか、突然なんです?貴方誰ですか」
明らかにワイルドタイガーの正体も知っているらしい。
見たところ、ただの一般人。
細身で、僕より少し年上だろうか・・・いや、あのおじさんと同じぐらいかもしれない。
「ぉっと!これは失礼・・・」
小さな苦笑を浮かべて僕に謝ったその男は、
「はじめまして。虎徹の双子の兄の名前です」
「・・・似てませんね」
「二卵性だからね。虎徹は昔から活発だったけど、私はどうしても軟弱に育ってしまってね。兄として不甲斐無いよ」
まさか、こんな街中でおじさんの兄に出会うなんて。
・・・しかも、おじさんと全然似てない。
本人の言うとおり、おじさんとは違って線が細いし、どちらかといえばインテリ系。
「虎徹から君の話は聞かせてもらってるよ。テレビでも何回か見かけたことがあるし、これからも、なにとぞ弟をよろしくね。あの子、ついつい突っ走ってしまう時があるけど、根は良い子なんだよ?」
「はぁ・・・そうですか」
曖昧に返事をしつつ、さっさとこの場を立ち去りたいと切に思った。
「君の特徴も聞いていたから、もしかしてって思ってね。ついつい声をかけてしまったんだよ。迷惑だったかな?」
少し眉を下げる彼。・・・正直、物凄く迷惑だ。迷惑極まりない。兄弟揃って空気が読めないのかって気分だ。
「あ。その目は、相当迷惑だったってことかな・・・?」
「ぇ・・・」
目の前で苦笑を浮かべた男は、まるで僕の心を読んだようにいい、僕を驚かせる。
「何故・・・」
「虎徹と違って、私は室内で過ごすことが多くてね。窓から他人を観察するのが趣味で・・・っと、これじゃただの根暗になってしまうね。今では、結構この観察眼が役に立ってるよ。自分の部下の嘘もすぐ見抜けるし、会社も順調に――」
「会社?」
「ん?あぁ、私は小さな会社を経営していてね。小さいけど、それなりに上手くやってるよ」
おじさんとは違うタイプの人間らしい。
まぁ、雰囲気からして違うけど。
「虎徹は何かと他人の世話を焼きたがるから、少し煩いときもあるかもしれないけど、悪い子ではないから、大目に見てあげて欲しい」
「・・・はぁ、そうですか」
相当弟を大切に思っているらしい。
「弟の相棒ってことで、私は勝手に君のことをもう一人の弟みたいに認識してしまっているんだけど、まさかこんな可愛い弟が出来るなんてね。人生、捨てたものじゃないよ」
「は?」
弟?何を勝手に・・・
「私に甘えても良いからね?」
「・・・・・・ありえないので、ご安心下さい」
「ふふっ。虎徹の言ったとおり、素直じゃない子だ」
「やっぱり兄弟ですね。おじさんとウザさがそっくりです」
ふいっと彼から顔を背け、僕はすたすたと歩き出す。
「今度あったときは、食事でもしよう」
「・・・結構です」
フンッ・・・と言いつつ・・・
まぁ、食事だけならしてやっても良いだろうと思った。
――甘えても良いからね?
・・・だったら、何処までも我が侭を言って困らせてやる。
我が侭な弟
虎徹のお兄ちゃん。
・・・名前は兎優さんかな。←