俺は虎徹が嫌いだ。
いや、本当は愛してる。
けどとても・・・嫌いだ。憎いぐらい。
虎徹は俺を愛しているという。その言葉が嬉しいと思う。
けれど、その左の薬指のプラチナを見るたびに、俺の心が締め付けられるんだ。
本人は無意識なのかは知らないが、あのプラチナを大切にしている。
当たり前だ。大切なものなのだから。
けれど俺は・・・それが憎くて仕方ない。
愛しているのに憎いんだ。
愛情のすぐ隣に、燃え上がるような憎しみが広がっている。
「ナマエ・・・」
「・・・あぁ。愛してるよ、虎徹」
俺の首に腕を回し、そっと頬を寄せてくる虎徹。
その腰にするっと腕を回して強く抱き締めれば、虎徹の体温が伝わってくる。
温かい体温。
それとは対照的に、俺の心はとても冷えていた。
愛してる。けど、とても憎い。
そうだ。愛情と憎悪は紙一重の感情なのだ。
だからこそ、俺は自分の中に湧き上がる憎悪を否定したかった。けど、出来ないでいる。
「・・・虎徹・・・」
チュッとキスをする。そのキスに、虎徹も当然のように答えた。
視界に輝くプラチナが憎くて憎くて・・・
そのプラチナを纏う虎徹に憎くて憎くて・・・
「ッ・・・ナマエっ」
「ぁ・・・悪い」
唇を押さえて軽く顔をしかめる虎徹にハッとする。
俺のせいで切れてしまった唇からは、少しの血が滲んでいた。
そっと虎徹の頬を両手で挟むように触れ、その唇の血を掬い取るように嘗める。
無意識とはいえ、自分が虎徹を傷つけてしまったという事実は、今の俺をとても追い詰める。
虎徹は「ぃや、気にすんな・・・」と言うが、俺は大いに気にしてしまうんだ。
「愛してる・・・愛してるんだよ、虎徹」
「ぉれも・・・」
嘘吐きめ。そう言いそうになる自分の唇を噛む。
ギリッと、強く強く強く――
「今日のお前は、良く噛むな」
虎徹に言われて、自分の唇にも血が滲んでいるのに気付いた。
先程の俺を真似するように、虎徹が俺の頬を両手で包み、俺の唇の血を嘗め取る。
そしてギュッと俺の背中に腕を回した虎徹を、俺は更に強く抱き締める。
そうじゃないと、もう俺のものにはならない気がして、怖かったんだ。
「虎徹・・・」
愛してる。愛してるのに、お前が憎くてたまらないよ。
そのプラチナを外してくれないお前が、憎いのに愛おしいんだよ。
「愛してる」
「あぁ・・・俺も、ナマエを愛してる」
憎いならもう触れ合わなければ良いのに、
臆病なほど虎徹を愛している俺は・・・
今日も虎徹の“愛してる”を信じて、
同時にプラチナと虎徹を憎んだ。
愛情と憎悪は紙一重