事務所に帰ってみると、そこはとても静かだった。
視線を巡らせると、ソファーに座ったまま眠っている名前が目に映り、俺は小さくため息をついた。
名前の手にある本。おそらく、読書の途中で寝たのだろう。
そういえば、昨夜も遅くまで仕事をさせた気がする。
叩き起こしてやりたいところだが、相手は昨夜文句の一つも言わずに働いていた名前だ。今日ぐらい許してやろう。
「・・・・・・」
何気なく名前の傍に腰かける。
あまりにぐっすり眠っている名前の顔を見つめた。
名前はずっと此処で働いている。
佐隈さんが此処で働くようになるずっと前から。
まるで俺の手足のようによく働いてくれるヤツだ。
知識もあって、体力もある。
時には驚くほどの助言をくれることもある。
“非常に使える人材”
普段の俺ならそんな程度の言葉で片づけてしまうだろう。
けれど、名前は違う。
名前は俺にとって・・・
――何よりも大切な、大切な存在だった。
この想いをいっそ伝えられたらどんなに良いだろうと思っていた。
だが同時に、この関係を壊したくないとも思ってた。
眠っている名前の唇に目が行く。
ぐっすり眠っているようだ。これなら、きっと・・・
「名前・・・」
たった一人だけの、俺の想い人。
その唇に自分の唇を寄せる。
「っ・・・」
しかし、寸でのところで止めた。
駄目だ。
もし此処でキスをしてしまえば、きっと俺は今の関係を保てなくなる。
軽く胸の痛みを覚えながら、名前から離れようと――
グイッ
「!?」
突然腕が引っ張られ、名前の身体の上に倒れる。
背中にするっと腕が回され、俺は何が何だかわからなかった。
「・・・芥辺さん、ずるい」
「なっ!?ぉ、起きて・・・」
「俺、折角動くの我慢して待ってたのに、おあずけなんて酷い」
耳元に拗ねたような声が聞こえた。
狸寝入り。という単語が頭に浮かぶ。
「キス、してくれるんじゃないの?芥辺さん」
「っ、名前っ、お前・・・」
「俺は芥辺さんのこと、好きだよ?」
さも当然のように言われてしまった言葉。
「芥辺さんは?」
「・・・・・・」
今までずっと、この関係を保とうとするのに必死だった。
なのに、目の前の男はそれをいとも簡単に叩き壊してしまった。
「・・・あぁ、俺も好きだ」
ふぅっと小さく息をついて言ってしまえば、名前は「やっと芥辺さんの口から聞けたや」と笑って、俺にキスを一つした。
壊しちゃえば後は簡単
え?誰コレ?っていう出来でごめんなさい(滝汗)←