大体人間で言う午前中は寝る。
んでもって、人間で言う真夜中に俺は起きる。
普段なら俺が呼び出されるのはその夜中。
けれど今回はどうも違うらしい。
一瞬感じた身体の浮遊感に目を開ければ、そこには最近大分見慣れてきた俺の契約者がいた。
「やぁ、アクタベ。おはよーさん」
欠伸をしながら起き上がれば、契約者のアクタベは何時もより若干イライラした様子で俺を見る。どうしたんだ?
「・・・仕事だ。準備しろ」
「おっと・・・いきなりかい?生贄は?」
するとアクタベは無言で珈琲の缶を投げてきた。
受け取ったそれを開けてグイッと煽り「さんきゅー」と軽く笑う。
「というか、こんな真昼間に俺を呼ぶなんて、何か緊急事態でもあったのかぁ?・・・って、誰だよ君達」
よくよく見ればこの部屋にいるのは俺とアクタベだけではなかった。
何か変な生き物二体と人間の女の子が一人。
変な生き物二体は何故だか震えながら俺を見上げている。
「あ、あのぉ・・・アクタベさん、誰なんですか?その人」
「さくぅぅぅううううッ!!!!!アカン!その人指差しちゃあかん!!!!」
「み、身の程を弁えなさいっ!!!!!死にますよ!!!!」
・・・別に指差されるぐらいで怒ったりしねぇんだけどなぁと思いつつ、アクタベに目線で「誰?」と尋ねた。
「・・・バイトの佐隈さんと、その他悪魔だ」
「あははっ、その他悪魔君かぁ。君ら名前は?」
「は、はぃぃいっ、アザゼル篤史ですぅうううっ」
「わ、私はベルゼブブ優一ですっ」
ビシッと敬礼して言う二人にクスクスと笑う。
「あ、あの・・・貴方は?」
バイトの佐隈さんって子が声をかけてきて俺はにっこりとその子を見る。
アクタベのイライラが少し増す気配がした。
「んー?俺はねぇー・・・」
「さくぅぅうっ!!!アカン言うとるやろぉぉおおお!!!!!聞かれたことだけ答えんかぃぃいいいっ!!!!」
「このお方は名前様と言って、前魔王にして魔界で最も力を持ったお方ですよぉぉおおおっ!!!!瞬き一つで私達なんか消されます!!!!!」
ペンギンっぽい子が説明っぽいの口走ってくれたし、俺は開きかけた口を閉じて取りあえず笑った。
へらへらしているとアクタベにゲシッと足を蹴られる。痛いぞ、アクタベ。
「前?何で最も力を持っているのに、前の魔王なんですか?」
その子が心底不思議そうな顔をする。
何というか、アクタベ以外に人間みたの久しぶりだし、今日の俺は寝起きだが割と気分が良い。
「あ、それはさ、俺が極度の面倒臭がりだからさぁー、魔王とか言われても面倒って言うか・・・だから譲っちゃった」
王座とかいらねぇし、と俺はにこにこ笑いながら言った。
「と、というか氏は何故このような大物を・・・」
「はははっ、大物とか止そうぜ、ベルゼブブ君。此処に呼ばれたからには、同僚だと思って気楽に接してくれよ」
「え、えぇんですの!?」
「もちろん」
「めっちゃ寛大やん!べーやん、わしこの人好――グボハッ!!!!!」
突然アザゼル君が吹っ飛んだ。
・・・俺の傍にいたアクタベの足蹴りによって。
うわぁ・・・ものの見事に潰れたトマトになったぞ、あの子。まぁ、悪魔だしあれぐらいじゃどうってことないだろうけど。
「こら、アクタベ。駄目だろぅ?突然蹴ったりなんかしちゃ」
「・・・・・・」
アクタベの頭にぽんっと手を置きながら言うと、何故かその場が静まり返った。
「し、氏にそのようなことを・・・」
がくがくと震えているベルゼブブ君に俺は首をかしげながら「というかアクタベ、仕事って何だ?」と尋ねる。
「・・・さっさと行くぞ。今回はお前の力が必要だ」
「あ、必要とされてんだ。じゃ、頑張らないとな」
アクタベの肩に腕を回しながら「んじゃ、行こっか」と笑う。
何だか顔を青ざめている残りの三人に「行ってきまーす」と言いながら事務所を出れば・・・
「名前」
「どーした、アクタベ」
「・・・あんま、へらへらするな」
じろっと俺を睨むアクタベに、俺は「あー」と声を上げる。
「もしかして嫉妬した?」
「・・・馬鹿が」
とか言いつつ俺の腕を振り払わないあたり、図星なのだろう。
俺はクスクスと笑いつつも「ごめんね」と謝る。
「けどさ、普段は真夜中にしか呼ばないのに突然昼間に呼ぶから、こっちだって驚いたんだぜ?」
「・・・俺だって、呼びたくて呼んだわけじゃない」
「アクタベのおかげで俺は完全に昼夜逆転生活なんだからさぁ・・・優しくしてくれよぉ?」
欠伸をしながら言えばアクタベは「・・・今晩も呼ぶ」と呟いた。
昼夜逆転生活成程・・・
どうやら俺、今日は徹夜らしい。