「え?新しい悪魔を呼ぶんですか?」
「あぁ。グリモアを読む限りじゃ、そんなに難しい悪魔でもない」
「そうなんですかぁ・・・」
アクタベさんの手にあるグリモアは、何処となく綺麗。
気になってチラッと覗き見ると【妖艶】の【ナマエ】と書かれていた。
「この悪魔は、相手のコンプレックスを瞬時に理解し、そのコンプレックスに漬け込む悪魔だ。使いようによっては、コンプレックスを解消することも出来るらしい。他には人間を誑かし美に執着を抱かせる・・・まぁ、特に大きな力はない」
「なんや、なんや。ワシと似たり寄ったりな力やないか!ワシのパクリか!?パクリなんか!?」
足元でギャーギャーッ言っているアザゼルさんを無視して・・・
「アザゼルよりは使えると俺は思っている」
アクタベさんは真顔で言った。
・・・あ。アザゼルさんが泣き出して、ベルゼブブさんが「プッ」と笑ってる。
「呼ぶぞ・・・」
「ぁ、はい」
アクタベさんが呪文を呟き【ナマエ】さんを呼び出す。
「――んー。君、タイミング悪いんやないー?俺、今風呂入ろうとしてたんやけど」
聞こえたのは、アザゼルさんみたいな方言。
・・・悪魔にも地方があるのかな。
ブワッと広がった煙。
ゴホッと軽く咳をしながら、その煙の中心にいる存在を見る。
あれ・・・?
「・・・何故、小さくなってないんだ」
私の中の疑問を、アクタベさんが代わりに口にした。
「ん?ぅわっ・・・いややわぁ・・・手足、少しみじこぅなっとるし、目も少し細なってない?髪も少し痛んどる・・・最悪や」
いやいやいや。
何処が最悪なの!?
目の前の悪魔は・・・
まるでモデルのような姿をしていた。
顔は明らかにイケメン!
今でさえアレなら、魔界では一体どんな姿をしているんだろう・・・。
お風呂に入る前だって言ってたけど、まだギリギリ服は着てた。・・・それにしても、アクタベさん毎回タイミング悪いなぁ。
「あれ?もしかして、べーやん?」
「・・・?」
「べーやん・・・!べーやん、何何?どないしたん?そないなカワエェ姿になって・・・」
ベルゼブブさんを見た瞬間、ふにゃぁっとした嬉しそうな表情を浮かべたナマエさん。
・・・正直、イケメンすぎる。
「誰です?」
ベルゼブブさんの言葉に私は「え?お知り合いじゃないんですか?」と声を上げる。
「知りませんよ、こんなムカツクイケメン」
あ。僻んでる。
「あ。俺のこと・・・覚えてへんの?あぁ・・・仕方ないか。学生時代、俺別のクラスやったし、地味やったし・・・」
「ぜんっぜん覚えてません」
「クスクスッ。じゃぁ、俺はナマエゆーねん。よろしゅうな?べーやん」
落ち込む様子もなく、ニコッと微笑んだナマエさんは軽くベルゼブブさんに握手を求めた。
あ。ベルゼブブさんがその手を叩き落とした。
「おい。生贄は何を要求するんだ」
今まで黙って様子を見ていたアクタベさんが漸く口を開いてそう言った。
「ん?あぁ・・・生贄ねぇ・・・生贄・・・じゃぁ――」
ナマエさんがベルゼブブさんを見ながら微笑んだ。
「べーやんを俺にちょーだい?」
「構わない」
「ちょっ、待てコラ!!!!!!私の意思を無視して話を進めるな!!!!!!!!!」
あっさりと承諾するアクタベさんと怒声を上げるベルゼブブさん。
そりゃ、怒るよね。
「だって俺・・・べーやんのこと好きやもん。欲しがって当然やろ?」
キラキラッとイケメンオーラを発しながらそういったナマエさんに一番反応を示したのはアザゼルさんだ。
「コイツ、スカト●野朗でっせ!?クソ食うで!?小便飲むで!?」
「御黙りなさい」
ベルゼブブさんがアザゼルさんの腕を切り落として切り刻んだ。
すぐに元に戻ったっぽいけど。
「クスクスッ。俺は、べーやんのこと好きや」
「!?」
明らかに動揺しているベルゼブブさんを抱き上げるナマエさん。
その顔はニコニコとしている。
「べーやん、かわえぇもん」
「な、何を言っているんですか!!!!!!このチ●カスが!!!!!!」
バタバタッとベルゼブブさんはナマエさんの腕の中で暴れている。
「暴言吐かんといて?俺、結構傷付きやすいねん。そこのアザゼルと違って」
「おい待て!!!!!何、さり気なくワシを侮辱しとんねん!?」
アザゼルさんのことも知ってたっぽい。明らかにベルゼブブさんに対する対応と違うけど。
「クスクスッ・・・可愛い・・・べーやん」
「おぃぃいい!?ワシは無視は!?存在から無視か!?」
「べーやん・・・俺、べーやんがどんな趣味してても、受け入れよぉ思うんよ。だってべーやんのこと、とーっても好きやねんもん。ねぇ、べーやん・・・かわえぇなぁー、べーやん」
「は、離しなさい!」
「後で魔界の姿も見してな?そしたら、指輪贈りたいんよ」
「勝手に話を進めるな、このビチク●野朗が!!!!!!!」
バタバタッと物凄い勢いで暴れているのに、ナマエさんはベルゼブブさんを離そうとしない。
「あ。俺を召喚した君の名前は何て言うんや?」
「アクタベだ」
「アクタベ君やね。まぁ、べーやんはべーやん自身のもんやし、今のは冗談や。べーやんと一緒にいれればそれで満足やし、適当にその辺りにあるいらないものでも構へんよ?」
アクタベさんはガシッとアザゼルさんの頭を掴んでナマエさんの目の前に差し出した。
「じゃぁ、コイツを」
「何でワシ!?」
「あ。アザゼルはいらんよ。ソレ、見てるとムカムカするんよ。というか、視界に入れたら目が腐る思うから、近付けんといて?」
「存在そのものを否定!?」
笑顔で言い切ったナマエさんはベルゼブブさんに頬擦りしながら幸せそうに「べーやん、かわえぇ」と呟いていた。
とりあえず・・・
ナマエさんへの生贄は、私が作り置きしておいたカレーになった。
美味しそうに食べてくれたし、『さくちゃんって料理上手やなぁー』と言ってくれたから、私は結構ナマエさんを気に入った。
君をちょーだい?