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子供の頃は、バレンタインは自分にはまったくの無縁のものだった。


大人になってからは、自分の店で働いてくれてる子達とか、僕のことを先生と慕ってくれている子達からもらえるようになって・・・

魔法学校に勤務するようになってからは、生徒からも貰うようになった。


何時の間にやら、街の人たちからも大分貰うようになって・・・








「ぉっと・・・ちょ、っと、これは貰いすぎ、なのかな・・・?」


バレンタインの日になって、僕は両手に紙袋を持っていた。

一つ一つは可愛らしいものだけど、量があれば重い。


実は昨夜ちょっと徹夜を・・・いや、実は数日前から徹夜をしている僕にとっては、少し辛い荷物。

義理チョコってヤツなのかもしれないけど、僕なんかのために用意してくれるなんて本当に嬉しい。








「ふぅ・・・それにしても、重――」


「ポルンさん!これ、どうぞ!」

「ぁっ。有難う御座います」


・・・一つ追加、みたいですね。




僕にチョコを渡すと嬉しそうな顔のまま去っていくその人を尻目に、僕はよろよろと歩いた。

あぁ、こんなにチョコをもらえるなんて思ってもみなかった。


わかっていたら、昨夜はちゃんと寝たのに・・・







「ポルンさん?」


よろよろしている僕の頭上から声。






「あぁ・・・ロジャーですか・・・」

上を向くと貧血になりそうだから、ロジャーが降りてくるのを待つ。


案の定降りてきたロジャーが「その紙袋は・・・」と声を上げる。




「お店の子達と、魔法学校の子供たち、後は街の人たちから貰ったんだよ」

「こんなに沢山・・・」


「僕も驚いてる。おかげで、ちょっとふらふら」


苦笑を浮かべる僕に、ロジャーは「持ちます」と手を差し出してくる。





「良いよ。仕事あるでしょ?」

「いえ。元々、ポルンさんのところに行く予定でしたから」


さっと紙袋を手にしたロジャーは、箒を小脇に挟んだまま僕の隣を歩く。







「それにしても、本当に沢山貰いましたね」


「子供の頃からしたら、考えられないぐらいね。こういうのを義理チョコっていうんだよね・・・僕なんかのために用意してくれて、本当に嬉しい」





つい浮かんでしまう笑み。


ロジャーは「義理、ですか」と小さく呟き「まぁ、そっちの方が好都合だが・・・」と溜息をついた。

おそらく独り言だろうから、あえてツッコミはしない。






次第に見えてくる僕の店。



「僕に用事があったんだよね。お茶でも出そうか」

「いえ。すぐに終わる用事なので」




「そう?」


ロジャーを店の奥に招きいれ、チョコの入った紙袋を部屋の脇に寄せる。






「重かったでしょ。お疲れ様」

「いえ。ぁ、あの・・・」


突然、ロジャーが何処か焦ったような声を出す。








「こ、これ・・・」


「・・・チョコ?」





驚くことに、ロジャーがポケットから取り出したのは、綺麗にラッピングされた可愛らしい箱。

どちらかといえばクールな見た目をしているロジャーのポケットから出てきたのだと考えると、少し面白い。




「ポルンさんに・・・受け取って貰いたくて・・・」

「わざわざこのために?」


「は、はぃっ」

じわじわとロジャーの顔が赤くなっていっていることがわかる。




「有難う」


ただ純粋に嬉しくてお礼を言った僕に「それと」とロジャーが付け足すように声を上げる。




「私のは、義理じゃありません」

義理じゃない?


小さく首を傾げた僕だったけど、すぐにその意味を理解する。

クスッと小さく笑ってしまう僕。





「そう。じゃぁ、大切に食べるね」

「は、はぃっ」



恥ずかしそうに目を逸らしたロジャーを見つつ、僕はその箱をそっと撫でた。




チョコの山



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