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カチッ



「・・・新年、ねぇ」

壁にかかった時計を見つつ、ポルンはそう呟いた。





「実感薄いなぁ・・・」

フワァッと欠伸をしつつ、今まで調合していた薬をチラッと見る。



「新年早々、薬の配達も沢山あるけど・・・バイトの子たちには新年は家族と過ごしてもらいたいし・・・明日は一人で頑張らないとなぁ」


苦笑を浮かべたポルンは、出来上がった薬を瓶につめる作業をする。

今年もポルンは忙しいようだ。






コンコンッ


「ぁれ・・・こんな時間にお客かな・・・」



薬瓶を机にコトッと置き、部屋の外に出る。

ポルンは「はい」と返事をしながらガチャッと扉を開く。







「ポルンさん」


「・・・ロジャー?こんな時間に、珍しい」

少し驚いた顔をしたポルン。



「情報局の仕事がついさっき終わったんです」

「年末も大変だったんだね」



「まぁ、はい・・・」


ハァッと寒そうにロジャーが白い息を吐く。

よくよく見れば、ロジャーの身体はカタカタッと小さく震えている。





「・・・寒そうだね。上がる?」


「ぁ、良いんですか?」



「良いよ。入って」

「ぁっ、有難う御座います」

嬉しそうな顔をするロジャーにポルンも少し微笑む。




「やっと仕事が終わったなら、大人しく家に帰ればよかったのに。情報局から此処まで結構距離あるし・・・何でわざわざ」

そういいながら、ポルンは温かいココアをロジャーに差し出す。




「ポルンさん・・・今年に入ってから、まだ誰とも会ってませんよね」

「そうだね。店番の子にも、大分前に帰って貰ったし」



「・・・よかった」


小さく呟くロジャーに、ポルンは首をかしげる。







「あけましておめでとう御座います」


「あぁ、新年の挨拶?わざわざそのために?」




「ぃえ・・・ただ、今年一番最初にポルンさんに会いたくて」

ちょっと驚いた顔をしたポルンは、少しして優しく笑った。



「そう。じゃぁ、一番最初に会ったのも、一番最初に会話したのも、ロジャーが最初だね」

「!・・・そ、そうですね」


言われた言葉にロジャーは照れたような顔をする。




「今回は、私の方が早かったですね」

「ん?あぁ、ゾロリさんのこと?そういえば、まだ電話もないね・・・まぁきっと、イシシ君とノシシ君たちと騒ぎすぎて、寝ちゃってるのかもね」


クスクスッと笑うポルン。



それを見ながら、ロジャーは今頃何処かの国にでも旅をしているのだろうゾロリの顔を思い浮かべ、顔をしかめた。




「・・・ゾロリに遅れを取りたくないからな」

小さく呟いたロジャーに「ん?」と首を傾げたポルンに、ロジャーは慌てて「いえ」と首を振った。




まだ十分温かいココアを口に含めば、あの温かさと甘さが染み渡る。


「美味しいです・・・」

ロジャーがほぅっと息をついたのを見ながら、ポルンは「それは良かった」と自分の分の珈琲を飲む。

どうやら、これからまだ仕事をするためにココアではなく珈琲にしたらしい。






「あまり遅くならないうちに帰ったほうが良い。僕はこれから、まだ仕事が残ってるし・・・」

「ぇ・・・わ、私にお手伝いできることは?」


「これは、ちょっと専門的な仕事だからね。それに、情報局の仕事で疲れてるロジャーに、そんな苦労はかけられないよ」


軽く断られ、ロジャーは少ししょんぼりとする。





「ポルンさんのお邪魔になってしまうなら・・・帰ります」

「邪魔ではないけどね」


「・・・ココア、ご馳走様でした」


相当落ち込んでいるのだろう。さっきまでの元気が見受けられない。




その様子に困ったような顔をしたポルンは、よたよたと外に出て行こうとするロジャーに「ちょっと待って」と呼びかける。

ぇ・・・と振り返ったロジャーに「そこでちょっと待っててね」と言って、奥に引っ込んでいった。


しばらくして戻ってきたポルンの手には・・・





「マフラー、ですか?」



「僕の使ってたので悪いけど、温かいんだよ、これ」

小さく微笑み、ロジャーの首にそっと捲いたポルンは・・・



「気をつけて帰って。あと・・・今年も宜しくね」

「!!!!・・・はぃっ」


嬉しそうに笑ったロジャーは、外に立てかけていたらしい箒を手に取ると、それに跨って空高くへと飛んでいった。

ポルンはしばらくそれを見守り・・・







「・・・さて、仕事仕事」


そそくさと奥へと歩いていった。




温かいマフラー



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