「ポルンさん。知っていますか?」
「何が?」
店番の子が突然そんなことを言い、薬の調合をしていたポルンは軽く首を傾げた。
「今日は11月22日で、“いい夫婦の日”っていうらしいです」
「へぇ」
小さく声を上げたポルンは、出来上がった薬を瓶につめ、コトンッと置く。
綺麗な輝きを放つ薬を見て「凄いですっ、ポルンさん」と声を上げた店番に、ポルンは少し笑った。
「ぁ・・・そろそろ時間じゃないかな?」
ちらりと時計を見たポルンの言葉に「あ!」と声を上げた店番の子。
「そろそろ失礼します!」
「うん。何時も手伝い有難う」
「はい!」
元気良く返事をして店を出て行ったその子の背中を見送ってから、ポルンは一人棚を整理し始める。
「いい夫婦、ねぇ」
ポツリッと呟かれた言葉。
ポルンはクスッと笑う。
「まぁ、僕には妻はいないから、関係のないこと――」
バタァアアンッ!!!!!
言いかけた瞬間、強く開かれた扉。
「ポルン!」
「ポルンさん!」
「あれ?ゾロリさん?それにロジャーも・・・」
きょとんとしたポルンに二人が駆け寄ってくる。
「どっちなのか言ってくれ!!!」
「どっちなのか言ってください!!!」
「・・・な、何が・・・?」
二人の勢いに押されたポルンは軽く後ろに下がる。
ジリジリッと近付いてくる二人。
それと同時に下がると、トンッと背中が壁に当たった。
そしてゾロリとロジャーが睨み合い・・・
「ポルンはこんな堅物野朗なんて嫌だろう!?」
「ポルンさんはこんな品性のない人なんて嫌でしょう!?」
「は、話がわからない・・・かな」
顔を引きつらせるポルンに、二人は言葉を止める。
しかし、それも少しだけ。
「お前が意味わかんねぇこと言うから、ポルンが困ってるじゃねぇか!ロジャー君よぉ!?」
「フンッ!!!意味がわからないのは君の方だ!!!ゾロリ!!!そもそも貴様はこの国の住人ではないだろう!!!!!」
「ハンッ!!!!!俺様、ポルンに会うために来たんだ!お前にとやかく言われる筋合いねぇよ!!!!」
「ポルンさんに会いに来た?ふんっ!!!!自分勝手過ぎるんじゃないのか?さっさと自分の旅にでも戻ったらどうだ!?」
「お前こそ、自分の仕事どうしたんだよ!情報局のエージェントなんだろぅ!?というか、とっとと帰れ!!!!!!」
「貴様こそ帰れ!!!!!」
「いいや、お前が帰れ!!!!!」
・・・・・・。
ギャアギャァッと言い争っている二人に、ポルンはやはりついていけない。
「・・・ぇっと・・・結局、二人共・・・何の御用で?」
恐る恐る尋ねるポルンをグワッと見る二人。正直言って怖い。
「ふ、二人とも落ち着いて・・・出来れば、ゆっくりと話して欲しいんですけど・・・」
冷や汗を掻きながら言うポルンに、ゾロリとロジャーは軽く睨み合いながらゆっくり口を開いた。
――・・・
ポルンは軽く目眩を覚えた。
つまりはこういうことだ。
ゾロリとロジャー、それぞれ別々にポルンのところへ向かおうとしていた。
言い方は悪いが、他人の話していることはよく盗み聞きするゾロリは、そこで今日は“いい夫婦の日”なのだと知った。
ロジャーもロジャーで、同僚から“いい夫婦の日”だと聞いていたらしい。
そんな二人がポルンの店から少し離れた場所で出会い・・・
お互いに相手がポルンの店に行くことが気に入らず、当然のように口論になったそうだ。
『お前がポルンのところに行ったら迷惑かかるだろ!?』
『はぁ!?君の方が迷惑なんじゃないのか!?品性のかけらもない君が!!!!』
『んだとぉ!?お前なんて、堅物で全然面白くねぇじゃねぇか!!!!』
『一々癇に障るヤツだ!!!!君なんて、ポルンさんとはつりあわないよ!!!!』
『自分は釣り合ってるって言いたいのかぁ!?ハッ!!!!!冗談きついぜ、ロジャー』
『それはこっちの台詞だ!!!!君みたいなヤツがポルンさんに迷惑を・・・』
『迷惑なんてかけてねぇよ。それはそっちだろ!脳みそまで堅くなっちまったんじゃねぇのかぁ!?』
『そういう君は脳みそすっからかんなんじゃないのか!?私の言葉をちっとも理解してないみたいだ!!!!!』
どんどんヒートアップする言い争い。
『知ってるかぁ!?今日は“いい夫婦の日”なんだってよぉ!!!!流行おくれのロジャー君は知らねぇだろ!?』
『ハッ!!!!!あまり私を馬鹿にするな!!!!それぐらい知ってる!』
『だったら、アレだ!!!!ポルンに、どっちなら妻にしたいか聞けば良いだろ!!!!!どうせ選ばれるのは俺様だがなぁ!!!!』
『寝言は寝て言った方が良いんじゃないのか!?ポルンさんがお前を選ぶはずがない!!!!!』
・・・ということらしい。
「・・・妻、ですか」
顔をひくつかせたポルンにコクコクッと頷く二人。
・・・結局のところ、二人とも馬鹿だったらしい。
「どっちを妻にしたいんだ!?」
「どっちを妻にしたいんですか!?」
勢い良くそういった二人に、ポルンはクラッとくる。
「ぇと・・・」
「「さぁ!」」
ズイッと寄って来る二人。
ポルンはどうしたら良いのかわからない。
「ポルンは俺様の方が良いだろう!?」
「ポルンさん!私の方が良いですよね!?」
ギュゥッと両方の腕をつかまれ、逃げられない。
困り果てたポルンは・・・
「と、とりあえず・・・僕は、二人とも好き・・・かな」
苦し紛れにそういった。
「「・・・・・・」」
流石にコレは不味かったかな?と冷や汗を掻くポルン。
「まったく!ポルンは優しいなぁ!お情けでも、こんな堅物にまで好きっていうなんて!」
「私もポルンさんのこと好きですよっ!おまけのゾロリが調子に乗るのは気に入らないが、よしとしよう!」
全くもって大丈夫だったらしい。
「そ、そうですか・・・」
軽く目を逸らしたポルンに、ゾロリもロジャーも笑顔で頷き、ギューッと抱きついてきた。
何気に一夫多妻
・・・傍から見れば、
一夫多妻状態だった。