「〜♪」
フライパンにキラキラと輝く油を敷く。
卵を片手でパカッと開き、かき混ぜる。
フライパンに流し込まれた卵は、綺麗に綺麗に焼き上げられていく。
そして現れるのはそのままでも美味しそうなチキンライス。
その二つを合わせれば――
「ほい。オムライスの完成だ」
「おぉ!やっと出来たか!!!!」
カウンターテーブル越しに名前がため息をつく。
「待ってる間、他の料理ずっと食ってたのに、まだ腹減ってるのか?大した腹だ」
呆れたように言いつつ、トリコの目の前に大きなオムライスの載った皿が置かれた。
おぉ!と声を上げ、トリコは口の中で分泌された唾液をゴクリッと飲み込む。
「名前のオムライスが食えるなんて、何年ぶりだぁ!?」
「さぁねぇ。俺も、何だかんだで有名になっちゃって、今じゃ予約待ちだからな。これでも、お前は特別に順番大分すっ飛ばしてやったんだぞ?」
「んー、おぉー、そうかぁ」
既にオムライスを食べ始めて話を聞いちゃいないトリコに、名前は「おいおい・・・」と苦笑する。
「うっめぇぇぇぇええええっ!やっぱ、お前のオムライスは最高だなぁ!名前」
「それは嬉しい言葉だが・・・もう少し落ち着いて食えばどうだ?まだ作ってやるから」
名前の言葉に「マジでか!?」とトリコが身を乗り出した。
「そのために、今日はトリコの貸切にしたんだ。食材も、出来る限り用意した」
「おー、おー!有難うな!名前!!!!!」
満面の笑みを浮かべたトリコの皿の上のオムライスが消えた。
「おかわり!」
「早っ・・・」
顔を引きつらせ、次のオムライスを作る名前。
「なぁなぁ名前」
「んー?」
「毎日オレのために料理作ってくれよ」
「・・・・・・」
ジュゥッと卵の焼ける音だけが響いた。
「ほい。オムライスもう一丁」
「おぉ!やっぱり旨そう――って!何で返事してくれねぇんだよ!」
オムライス目の前によだれを出すトリコは、ハッとして声を上げる。
「とりあえず、毎日は作れないのは確かだな。お前、何時もハントに出かけてるし」
「お前もハントに連れて行く!」
「よせ。俺は戦えないし、お前のコンビの小松君だって戦えないだろ?流石のお前でも、二人同時に守るなんて無理だ」
「無理じゃねぇ!」
「はいはい。ほい、もう一丁」
コトッとオムライスの載った皿が置かれ、食べながらトリコは「ひでぇよ名前」と呟く。
「酷くて結構。ほら、まだ食べたりないんだろ?とっとと食え」
「じゃぁ、毎日作れとは言わねぇから、オレと結婚してくれよ」
「いきなり話が飛んだな、トリコ。あ、ケチャップ付いてるぞ」
「ん。取ってくれ」
「ほいほぃ」
名前はフキフキッとトリコの口の端を拭いてから「ってか、男同士で結婚なんてできねぇーよ、トリコ」と笑う。
「内縁の夫!」
「頭痛がするような言葉をよく食事中に言えたな、オイ」
顔をひきつらせた名前にトリコが「おかわり!」と言う。
ハァッと大きなため息をつき、再びオムライスが生産され始める。
消費するのはもちろんトリコで、そのスピードは会話中でも尋常ではない。
「名前〜、OKしてくれよぉ」
「・・・・・・」
甘えるようなトリコの声に、名前が返事をする気配はない。
「何だよ、名前。お前・・・オレのこと嫌なのか?」
「嫌・・・というか、なぁ」
ハァァアアアッと今日で一番大きなため息をついた名前は・・・
「どうして俺なの?」
困ったような顔で振り返った。
「名前が好きだから」
「このオムライスより?」
「・・・・・・」
「おいコラ、何迷ってやがる」
「もちろん好きだ!」
「さっきの沈黙はないんだ、オイ」
まったく。と額を抑える名前からオムライスを受け取り「だって、滅茶苦茶うめぇんだぜ?コレ」とトリコはソレを口に頬張る。
「何より、名前が作ってくれたからな!より旨いぜ!」
「・・・・・・」
「あ。今、ときめいたな!」
「・・・うっせぇ」
フイッと顔をそむけた名前の耳が若干赤い。
「ぇ。マジでときめいた?」
「うっせぇって言ってるだろ。・・・ったく・・・まぁ、恋人ぐらいならなってやるよ」
「マジでか!やったぜ!」
本気で嬉しそうな顔をして言ったトリコに、名前は小さく笑った。
「これで、やっと安心して食うのに集中できるぜ!!!!」
トリコがオムライスを頬張りながら笑う。
それを見た名前の顔には、引きつった笑み。
「おいおい、俺の店の食糧庫空っぽにする気か。そうなんだな!?」
「おかわりぃー!」
「・・・ハァッ・・・りょーかい」
ため息をつきつつ、名前は手際よくオムライスを作り続けていた。
毎日作って!