見た目20代の500歳を軽く超えたおじいさん。
名前さんのことを説明するなら、こんなところだと思う。
ボクらがまだIGO会長のもとにいたころから、あの人の見た目は20代だった。
何でも、あの会長よりも歳を取っているらしい。
よくIGOに顔を出しては、ボクらの遊び相手になってくれた。
当時のボクらにとって、名前さんは優しいおっとりしたお兄さんだった。いや、今でもそうかもしれない。
名前さんは格好良くて、優しくて、それに・・・
言い出すときりがないかもしれない。兎に角、ボクらにとって、否・・・ボクにとって名前さんは、本当は相当お年を召しているという事実を差し引いても、好きで好きでたまらない人だった。
名前さんが何故歳を取らないのか・・・それは、その昔誤って食べたグルメ界の木の実が原因なのだと、名前さんの口から聞かせてもらったことがある。
「名前さん、お久しぶりです」
久しぶりに名前さんに会いに来た。
「はて・・・んー・・・?」
山奥にある名前さんの家。
此処までくるのに、結構な時間を費やしてしまった。
目の前に名前さんがいるのが嬉しくて、ついつい笑顔になってしまう。
「ココですよ、名前さん」
「おぉ、ココかい。ワシが見ないうちに、また美人になって」
見た目は20代なのに喋り方は相変わらずみたいだ。
身体機能もちゃんと20代なのに、名前さんは何時も椅子に座っているように見える。
本人曰く「老体に歩き回るのはのぉ・・・」らしい。
けど名前さんに走らせれば誰よりも早いことは、子供の頃からよく知っている。
「傍においで、ココ」
「はい、名前さん」
笑顔で名前さんに近づけば、頭を撫でられる。
「大きくなったのぉ。ほれ、飴をやろう」
「ふふっ・・・相変わらずですね、名前さん」
渡されたのは昔ながらの黒飴。しかも名前さんの手製だ。
昔からボクらにその飴を配っていた。ちなみに、トリコとゼブラあたりはものの数秒で名前さんに追加の飴を要求していたと思う。
ポケットに仕舞って置いて後から食べるのも良いだろう。
けれどボクはその飴のあまりの懐かしさに、すぐに包みを開いて口に入れた。
黒飴の独特の甘さが口に広がる。
「どうじゃ、ココ」
「美味しいです」
「それは良かったのぉ。ほれ、羊羹もあるぞぉ」
にこにこと孫を愛でるお爺さんのよう。いや、実際彼の心情的にはそうなのだろう。
けれどボクは、名前さんをただのお爺さんとしてみることは出来ない。
だってボクは・・・
「名前さん・・・昔の約束、覚えてますか?」
「はて・・・」
名前さんが首をかしげる。
けれどボクにはわかる。
「忘れたフリ、しないでください」
「察しが良いのぉ、ココ」
ボクは昔、名前さんと約束をした。
昔から名前さんが大好きだったボク。
ボクは名前さんが好きで好きで・・・
『名前さんっ・・・ボク、名前さんのコイビトになりたいですっ』
『おやおや。ココは面白いことを言うのぉ』
『ボクは本気ですっ』
『うーむ・・・困ったのぉ。こんなボケ初めた老いぼれの何処が良いのやら・・・』
『全部です!』
『・・・仕方ないのぉ・・・では、ココ。こういうのはどうじゃ?――』
「――『大きくなって、それこそ世に名が知れ渡るぐらい強くなって、それでもワシのことが好きなら、受け入れてやろぉかのぉ』って、言ったじゃないですか」
「うーむ。ココは記憶力が良いのぉ」
「名前さんほどじゃないですよ」
本当は、一語一句きちんと覚えてる癖に。
こんな時ばっかりボケたフリするなんて、酷い。
「それとも・・・ボクが恋人になれませんか・・・?」
不安になって名前さんを見つめれば、名前さんは降参のポーズを取って苦笑を浮かべた。
「ココはワシにとって孫のようなものじゃからのぉ。けど・・・ココももう立派な大人じゃ。ワシも、腹をくくるかのぉ」
ゆっくりと椅子から立ち上がった名前さんは、そっとボクの頬に触れた。
カァッと自分の頬が熱くなるのを感じた。
「ココ。それぐらいで照れるなど、この先大丈夫かのぉ?」
「大丈夫です!・・・ぇ?こ、この先?」
ボクは名前さんの言葉にきらりと輝く希望を感じた。
「可愛いココとの約束じゃ。守ろう」
チュッと額に触れた名前さんの唇に・・・
「おぉ、ココ。毒が漏れておるぞ」
ボクは毒の制御が利かず、そのまま床に倒れた。
おじいちゃまと約束