近所に住むポップさんは、息子のカブ君を大事にしている。
父子家庭で何かと心配なこともあるみたいで、近所に住んでいる俺に相談を持ちかけることも多々ある。
ポップさんの家でカブ君の御守をすることだってあるし、一緒に食事をすることだってある。
彼らの家に俺のカップがあったり歯ブラシがあったりするため、何時でもお泊り可能である。
「ナマエ君。ちょっとカブを見ていてくれないか。ちょっと買い物に行こうと思って」
「わかりました。カブくーん、こっちおいで」
「あーい!」
きゃっきゃっと笑うカブ君をポップさんから受け取り、買い物へ行くポップさんを玄関までお見送りした。
家にはカブ君と俺の二人きりになり、俺はカブ君を抱っこしながら「良い子で待ってようなぁ」と笑った。
カブ君は基本良い子だし、駄々をこねたりも滅多にしない。
「ほーら、カブ君。おやつのクッキーだ」
嬉しそうな声を上げるカブ君にクッキーを差し出す。
カブ君が良い子にクッキーを食べている間に、家の中の掃除や洗濯を終わらせておく。
ガチャッ
「ただいま」
「お帰りなさい、ポップさん」
「有難うナマエ君。カブは良い子にしてた?」
「もちろん。今おやつ食べてる最中ですよ」
クッキーを食べて幸せそうに笑っているカブ君をポップさんに見せれば、ポップさんは小さく微笑んで「本当だ」と言った。
ポップさんって年齢的には俺よりも大分年上なのに・・・こう微笑んだときとか、すっごく可愛く見える。
こうやってカブ君の世話を焼いてしまうのは、実はポップさんに気があるからだったり・・・
ははっ、俺って手口汚いなぁ。
「カブ。ナマエ君は今日も優しかったかい?」
その返事はカブ君の満面の笑み。
ポップさんは満足そうに微笑み「カブは本当にナマエ君が好きだなぁ」と言ってくれる。
その言葉に何だか照れくさくなってきた俺はお茶を用意するためにキッチンへ引っ込んだ。
「あぁ、やばい。ドキドキする」
「何がドキドキするんだい?」
「わっ!ぽ、ポップさん・・・カブ君どうしたんですか?」
「まだクッキーを食べててね。喉も乾くだろうし、さっき買ってきたジュースを用意してあげようと思って」
グラスとビンを片手に微笑むポップさんに、俺は気が気じゃない。
「で?何がドキドキなんだい?」
「ぁ、ぇっと・・・はは。何でもないですよ」
「そうかい?」
「えぇ」
こんなことでポップさんたちとの良好な関係を崩したくはない。
折角こんなに仲良くなれたんだ。
俺の色恋事情なんかで壊したくはない。
けどもし叶うなら・・・ポップさんと――
「ナマエ君」
「っ!?ぁ、はい!!!!」
「あはは。今日はどうかした?心此処にあらずって感じ」
「ぁ、ぃえ・・・そのっ」
あぁ恥ずかしい。
ポップさんの笑顔は相変わらず素敵だし、俺どうにかなっちゃいそうだ・・・
「ぽ、ポップさんは、その・・・」
「ん?」
「お、俺のこと、どう思ってますか?」
「え?どうって?」
きょとんとしたポップさんにハッとする。
な、何言ってるんだよ俺!
俺とポップさんはただのご近所だ!
良くても、ポップさんにとっては知人とか、下手すりゃデカイ息子程度だろ!
「ぁ!い、今の忘れてください!何でもないんで!!!!」
そんな返事を聞くのが怖くて、俺は自分で言った癖に自分で会話を中断させた。
ポップさんは困ったような顔で「そう?」と言うから、俺は全力でうなずいた。
あぁ、危ない危ない。
自滅なんてまっぴらだ。
ジュースをカブ君に持っていくためにキッチンから出て行ったポップさん。
俺は当初の目的通り、お茶の用意をはじめる。
カップとポットをトレイに載せて運ぶ。
「ポップさん。紅茶で良かったですか?」
「うん。有難うナマエ君」
「はい」
ポップさんの有難うが嬉しい・・・
よちよちとこちらに寄ってきたカブ君を抱っこすれば、可愛らしい笑みが返ってくる。
あぁやっぱり俺、この家族を愛してる。
「ナマエ君は優しい子だね」
「ぇ・・・?」
「私の相談にも乗ってくれるし、カブの面倒、家事の手伝いまでしてくれる。感謝してもしきれないよ」
紅茶を飲みながら小さく微笑むポップさんにどきりとする。
「す、好きでやってるんで・・・」
「カブもナマエ君に懐いているし、私もナマエ君を信頼してるんだ」
「そ、そうですか」
その信頼が何だか胸に突き刺さるのは、俺が不純な感情をポップさんに向けてしまっているからだろう。
胸に抱いたカブが俺のほっぺに触って笑ってる。
「カブにとっては、ナマエ君は第二のお父さんなのかもね」
「ぉ、お父さんですか?」
「ぉっとごめん。まだ若いのにお父さんなんて、嫌だった?」
「い、いえ!俺、カブ君めちゃくちゃ好きなんで、嬉しいです!」
ぎゅーっとカブ君を抱き締めればカブ君がきゃっきゃっと楽しそうに笑う。その笑顔に癒される。
「好きなのはカブだけ?」
「え!?そ、そんなわけないです!ポップさんもめちゃくちゃ好きです!もう、ぎゅーって抱き締めたいぐらい!・・・って、俺何言ってんだろ・・・わ、忘れてくださ――」
そこまで言った俺の視界が、赤くなる。
いや、別にグロテスク的な赤じゃない。
これは・・・
ポップさんが何時も着てるガウンの色だ。
ポップさんは俺とカブをいっぺんに抱き締めていた。
「ぽぽぽぽぽぽぽ、ポップさん!?」
「ナマエ君の優しさに、私は何時も甘えてしまうよ・・・ごめんね、ナマエ君」
「・・・ぁ、甘えてください。俺、ポップさんに甘えられるの、悪い気しません。むしろ嬉しいです」
「有難う」
ポップさんの笑顔で目の前にある。
俺は顔が熱くなりそうなのを抑えつつ、俺とポップさんの間で楽しそうに笑い声を上げているカブを優しく撫でた。
「あぁ、そういえばさっきの質問の答え、まだだったよね」
「い、いいです!言わないでください」
「ナマエ君は大事な人だよ・・・何にも代えられない、大事な人だ」
あぁ、もぉ。何なんだよこの人は。
「・・・ポップさん、反則です。俺、ポップさん大好きなのに」
「・・・私も好きだよ」
「ぇ?」
今の言葉は空耳だろうか。
ぽかんとしている俺から、すっとポップさんが離れる。
「さて!ナマエ君が掃除洗濯してくれたから、今日は三人でゆっくりお昼寝でもしようか」
「ぁ、ぇと、ポップさん?」
「ん?」
笑顔でこちらを見るポップさんに、俺は瞬きを数回だけする。
「・・・いや、何でもないです」
ついつい俺は小さく笑いながら首を振った。
もう家族で良いじゃない