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白杖で地面を軽く叩きながら歩くと、ふと足の裏を通じて感じる地面の揺れ。

地震でも何でもない小さな小さな揺れを感じ取りながら私は小さく微笑んだ。




「モールさーん!」




「あぁ、やっぱりナマエさんでしたか」


正面からどんどん近づくように大きくなる揺れはナマエという青年が私に駆け寄ってきた合図。

最初の頃は吃驚しましたけど、今ではもう慣れてしまいました。





「こんにちはモールさん!」

「えぇ、こんにちは」


元気な声で挨拶されて気分が良くないわけがない。

何となく気持ちが晴れやかになるのを感じながらも挨拶を返せば、彼が嬉しそうに笑うのが雰囲気でわかった。





「突然ですがモールさん!好きです!愛してます!」

「ふふっ、有難う御座いますナマエさん」



彼は不思議なことに、何時も私に“告白”をする。


酷く明るい声で告げられる愛の言葉。見えませんが、きっとその顔は声と同じで明るく輝いているんでしょうね。



その言葉に私は何時も『有難う御座います』とだけ返す。

はぐらかすつもりでは無いけれど、口は自然とお礼を言ってしまう。


彼が私の何処に惹かれたのかはわからない。でも、きらきらとした彼が何時も私に愛を口にしてくれることに私は感謝をしているから、お礼を言う。

きっと私はナマエさんに『好き』だの『愛してる』だのと言われるのが、好きなんでしょう。








「お散歩ですか?」

「えぇ。今日は天気が良いみたいですから」


肌を通してわかる、温かな太陽の光。

風も心地が良いし、絶好の散歩日和だと思う。




「じゃぁエスコートしますよ、モールさん」

「ふふっ、じゃぁお願いしましょうか」


そう言うとそっと握られる、白杖を握っていない方の左手。

温かくて私よりも少し大きなその手に引かれて歩く。ナマエさんが安全な道に誘導してくれているからか、今日は何かを踏むこともない。




「二歩先に段差がありますからね、気を付けてください!」

「えぇ、有難う御座います」


何時もは少し手間取る段差も難なく乗り越えお礼を言えばナマエさんは照れたように「どういたしまして」と返してくれた。

温かくて可愛らしいナマエさん。





「ナマエさんは良い人ですね」

「そんなことないですよ。モールさんの気を少しでも引こうと必死なんです」


ぎゅっと握り直される左手。

口元に自然と笑みが浮かぶのを感じながら「そうですか」と頷いた。


ナマエさんの好意は、本当に真っ直ぐで気持ちが良い。





「俺、モールさんの事を本気で愛してるんです。大好き!モールさん!」

「えぇ、有難う御座います」


ナマエさんの口から次から次へと紡がれる愛の言葉。何だか私、贅沢者ですね。こんなに言葉を貰っているのに、お返しの一つもしないなんて。



けれどナマエさんは優しいから、お返しなんか無くたって気にしないんでしょうね。

あぁ、ナマエさんはやっぱり優しい。





「痛っ!?ももも、モールさん!それ俺の足!俺の足です!」

「足?」


白杖が何かに当たったと思ったら、どうやらナマエさんの足だったらしい。




「痛い痛い痛いっ、モールさん!白杖が足に刺さってます!」

「おや、すみませんナマエさん」


「いえっ!モールさんから与えられるなら例え痛みであろうとも・・・あぁぁあっ、血が滲んでるぅぅうっ」



見えない視界の中できゃーきゃーと悲鳴を上げているナマエさんにまた笑みが零れた。


賑やかで愉快で、とっても優しい彼。

真っ暗な世界の中で、歪みない真っ直ぐな愛を私に向けてくれるナマエさんはそれはそれは輝いて見えた。



ナマエさんから好きと言われることが好き。ナマエさんの口から愛の言葉が向けられれば、私の胸の中もナマエさんへの想いでいっぱいになってしまう。いっぱいになってしまって、何時も有難うの言葉しか出ない。





「ぅうっ、ぐ・・・モールさん、白杖はそーっと抜いてくださいよ、ぉ、おわぁっ!?痛い痛い痛いぃ!」


「大丈夫ですか?」

「全然大丈夫です!!!!」



感謝してるんですよ。

目も見えない私に、何時も何時も迷うことなく真っ直ぐな愛を向けてくれること。


それに、そんなナマエさんのことを、本当は私も・・・








「ふふっ・・・好きですよ、ナマエさん」

「ふぇっ!?」


ぽつりと出た言葉にナマエさんが驚いたような、それでいて素っ頓狂な声を上げる。

それさえ面白くて笑えばナマエさんは照れたよに「へ、へへっ・・・」と笑いだす。






「あ、えと・・・へへっ、有難う御座います、モールさん」

有難う、ですか。




「何だか何時もと逆ですね」

「そ、そうですねっ!」


彼の口から『有難う』と言われるのも、まぁ悪くないかもしれません。






「今度からは、私からも言いますね」

「えっ!?そ、それは、えっと・・・う、嬉しいです」


握られたままの手がどんどん熱くなっていく。




ナマエさんは今どんな顔をしているんでしょう。こんなに手が熱いから、きっと何時もよりも赤い顔をしているんでしょう。

この時ばかりは、それが見えないことが少しばかり残念に思った。






何時だって伝える愛







「お?どうしたのナマエ君。下半身血塗れにしながらにやにや笑って、気持ち悪いよ」

「うっせぇよランピー!今日は良いことがあったんだよ!」

「あぁ、モール君ね」

「・・・へへっ、モールさんマジ愛してる」

「・・・毎度毎度何処かしら怪我させられてるのに、懲りないよねぇ君」



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