前世はヒッキーでニートでオタクっていう、全くもってどうしようもないヤツでした。
そんな俺を哀れんで哀れんで、自分が死んだらこの子はどうやって生きていくんだろう!と思った我がマザーが、俺を包丁でザックン☆しました。
あ、俺死んだ。
そう思った時には、全然知らん場所にいました。刺されて殺されたはずだけど、俺は至って無傷。
え?俺ってもしかして、超人になっちゃった系?とか馬鹿な事を思いつつ、目の前の大きな木を仰ぎ見る。マイナスイオンとか凄そう。
滅茶苦茶でけぇなぁとか思ってると、背後からザックリ☆されました。え?もしかしてマザーが再び殺しに来た?とか一瞬思ったけど、振り返った背後にいたのは・・・
「よぉ、お前新人か?まぁ、運がなかったと思って死ね」
・・・なんか顔面偏差値が高い軍服男さんでした。
――って言うのが、俺が“この場所”で初めての“死亡”だった。
どうやら俺は、トリップとやらを果たしていたらしい。
え?別に俺、厨二とかじゃねぇよ?そういう時期は卒業したつもりだよ!?
・・・まぁ、そういう話はさておき、俺はそんな感じにこの街に来たわけだ。
次に目を覚めた時に出会ったランピーとか言うヤツに、この街について教わった。ちなみにその後死んだ。後から聞いたらアイツは歩く死亡フラグらしい。ちくしょぅ・・・。
この街は生と死を繰り返すらしく、何度死んでも次の日には全快しているそうだ。何ソレ凄い。
最初こそ混乱したものの、今では俺も大分落ち着いている。
死ぬ時はやっぱ痛いけど、次の日生き返るからまぁいっか、とか思ってしまっている俺は、頭が可笑しいのだろうか?
「ナマエ」
突然背後から呼びかけられ、俺はぼんやりと外を眺めていた視線を声のした方へと向ける。
漂ってくるのは、焼き菓子の甘い良い香り。
「ナマエ、今日はクッキーが上手く焼けたんだ。お茶にしよう?」
あ。ちなみに、最初に出会ったのはコイツ。え?最初とイメージ違う?
どうやらコイツは二重人格っぽい感じらしく、爆発音とか刃物とか見ると覚醒っぽいのを起こすらしい。
え?何ソレ格好良い!とか口走ったおかげで、なんか気に入られて一緒に暮らしている。
おかげ様で彼、フリッピーが覚醒した時の人格も、俺を殺す前に少しは会話してくれるようになった。まぁ、最終的には殺されるけど。
覚醒前のフリッピーはとってもメルヘンチックな乙男なんだけどなぁ・・・。
「おぅ。あ、俺はミルクココアな」
「ふふっ、ナマエってホント甘い物が好きだね」
「それはフリッピーも同じだろ」
ちなみに俺は乙女チック思考ではないがフリッピーに負けず劣らずの甘いもの好きだ。ちなみにぬいぐるみの類も嫌いじゃない。
「はい、どーぞ」
「ありがと」
目の前のテーブルに置かれたミルクココアとチョコチップクッキー。
「やべぇ、マジ美味そう」
「ふふっ、有難う」
・・・マジで女子力たけぇな、コイツ。
そう思いつつクッキーを一口。うむ、味もなかなかだ。もはや店出せよってレベルだ。
「やっぱ、フリッピーの作るのが一番うめぇや」
「え?そ、そうかな・・・」
「おぅ。俺、フリッピーの作る食べ物、全部好きだぜ」
俺を刺し殺してくれちゃったマザーは本来家庭的で優しい人で、飯もそこそこ美味かった。
が、それを上回るフリッピーの腕。もはや惚れる。
「・・・一生俺の世話してくれれば良いのに」
「ぇっ・・・」
おっと、ヤバイ。マザーに刺殺されて懲りたはずなのに、また引き篭もり根性が顔を出してきた!
折角フリッピーにはご迷惑かけないように一生懸命ランピーの所でバイトしてるのに!まぁ、ランピーのところでバイトしてるせいで死亡率はエンドレスナインだけど。
正直働きたくねぇさ!出来ることなら部屋から一歩も出たくねぇさ!わぁ、ヒッキーニートこえぇ!
「あ、あははっ!ごめん。フリッピー、冗――」
冗談、と言おうとした俺はつい言葉を止めた。
何故なら、フリッピーが・・・
「い、一生って・・・ぷ、プロポーズ・・・だよねっ?」
顔を赤くし、口元に笑みすら浮かべて言うからだ。
んな馬鹿な。
ってか、何処まで思考がメルヘンチックなんだ。
「な、なぁ、フリッピー・・・」
慌ててフリッピーを現実に戻そうとした瞬間、何処からともなくドーンッという爆発音がした。
だ、誰だ!?ランピーか!?とか思った瞬間、ヒュンッ!という風を切る音を感じた。
タンッ!!!!
「ぅおっ!?」
背後の壁・・・丁度俺の顔の真横に刺さったナイフに俺は血の気がサァッと引いていくのを感じた。
「おい」
「ひ、ひぃっ!?」
地を這うようなその声についつい小さく悲鳴を上げてしまう。
か、覚醒しておられる!!!しかも、何時もの二割増しで雰囲気が恐ろしい!!!!
やばい。今回は物凄く苦しい殺され方される――!!!!
「・・・浮気したら、許さねぇからな」
「え?」
「返事はどうした!!!!」
「は、はいぃぃいいっ!!!!」
胸ぐらを掴まれ、怒鳴る様に言われた言葉に俺は全力で返事をした。
って、え?浮気?あれ?
「チッ・・・浮気したら、目玉も内臓を引きずり出して殺すからな」
「い、イエッサー・・・」
あれ?
もしかしなくても・・・
覚醒フリッピーも、割と乙男思考?
そう思った瞬間「まぁ、取りあえず死んどけ」と心臓を一突きされた。
もしかしなくて乙男さん?
何時もより全然痛くなくて、簡単に言えば即死だった。
・・・もしかしなくても、これって旦那に対する愛情だったりするの?とか考える俺は、馬鹿かもしれない。