ぽすんっ
「大丈夫ですか?」
「ぇっ・・・あ、あぁ」
出会いは突然だった。
屋根の修理をしている途中、脚を滑らせた俺。
両腕がない俺は何に掴まることも出来ず、そのまま下へ真っ逆さま。
あぁまたか。
そう思って次の衝撃を待ち目をぎゅっと瞑った。
けれど俺の身に走った衝撃は、想像とは全く違う柔らかなものだった。
恐る恐る目を開ければ、目の前には優しい笑みを浮かべた男がいて、冒頭の台詞を口にする。
「た、助かったよ・・・」
突然のことで唖然としてしまったが、今になって命が助かった安堵感が溢れる。
ほっとしつつ相手の男に礼を述べれば、男はその顔に浮かべていた笑みを深くした。
「いえいえ。けれど驚きました。突然上から人が降ってくるなんて――天使でも落ちてきたのかと思いました」
「・・・は?」
何か変な言葉が聞こえた気が・・・幻聴か?
「けれど、天使と間違えても仕方ない。何故なら貴方は、まるで天使のように美しい。どうです?これからお茶でも」
「あ、えと・・・はぁ?」
幻聴じゃなかった!!!
「あぁ、失礼。自己紹介がまだでしたね。私はナマエ。今日からこの街に住むことになった者です。天使のように美しい貴方の名前は?」
「・・・は、ハンディだ」
何なんだコイツ・・・
というか、何で俺を抱きかかえたまま降ろそうとする素振りを見せないんだ。
「な、なぁ・・・そろそろ降ろしてくれないか?」
「ん?何故?」
「何故って・・・」
安堵感が何処かへ消え去り、今度は訳も分からない困惑を感じる。
「俺、まだ仕事の途中なんだ」
「可愛いハンディが仕事をする必要なんてない。そんなことより私とお茶にしよう。何だったら、ディナーも一緒に」
「あ、いや・・・」
話が通じそうもない。
「降ろしてくれ」
「こらこら、暴れないで。ふふっ、ハンディはお転婆さんだね」
足をバタつかせて抵抗の意を見せるも、ソイツは笑みを深めるばかり。
最初は優しげだと思ったその笑みも、今じゃ不安の要素でしかない。
「私は本当に運が良い。街に来た初日で“運命の人”に出会えるなんて」
「な、何言ってんだよ」
この街の人間は頭のネジが一本二本抜けてるヤツが多い。
どうやらコイツも、その一人なのだろう。
「大丈夫。“死んでも”愛するよ、君の事」
にっこりと笑ったナマエに、俺はつぅっと頬に汗が伝うのを感じた。
救世主かと思ったらラスボスだった
俺、死んだかも。
じゃぁ喫茶店でゆっくり話そうかと笑顔で俺を連れ去るその男に、俺はそう思った。